第16話 マシガルの幻影再び
翌朝、オンジから美味しそうなアカウシ肉をたっぷりと分けてもらった三人は、ランドル砦への帰路についていた。袋に入った肉の良い香りが漂ってくる。
「これで牛丼が作れるな」
クロエが嬉しそうに袋を見つめる。
「楽しみね。きっと美味しいわ」
リナも期待に胸を膨らませている。
しかし、街道を歩いているうちに、ガレンがふと立ち止まった。
「おかしいな...道を間違えたか?」
周囲の景色が、来た時と微妙に違っているように見えた。
「そんなはずはないだろう。まっすぐ来た道だぞ」
クロエが地図を確認する。
『待て』
フェンガルが警戒するように耳を立てた。
『これは...マシガルの幻影だ』
「また?」
三人が驚く。
辺りの風景がゆらゆらと揺れ始めた。まるで水面に映った景色のように、現実が歪んで見える。
「何が起きているの?」
リナが不安そうに呟く。
すると、霧のような白いもやが立ち込めてきた。その中から、声が聞こえてくる。
『真のいくら丼を求める者よ...』
「誰だ?」
ガレンが剣の柄に手をかける。
『我はマシガル...幻影の守護者』
もやの中に、ぼんやりとした人影が浮かび上がった。
『君たちの心を試させてもらおう』
「心を試すって?」
クロエが身構える。
『反いくら丼教団との遭遇で、君たちの中に迷いが生まれていないか確認したい』
確かに、昨夜の出来事で三人の心境は複雑になっていた。
『まずは一人ずつ、心の奥を見せてもらおう』
霧がさらに濃くなり、三人の視界が分断された。
ガレンの前に現れたのは、豪華な宮殿だった。
『君は剣士として名声と富を求めているのではないか?』
マシガルの声が響く。
「そんなことはない」
ガレンがきっぱりと答える。
「俺が求めているのは、仲間との絆と新しい体験だ」
宮殿の幻影が消える。
リナの前には、巨大な魔法書の山が現れた。
『君は知識欲に溺れ、いくら丼を研究材料としか見ていないのではないか?』
「違います」
リナが首を振る。
「私は純粋に、未知の料理を味わいたいだけです」
魔法書の山が霞のように消えた。
クロエの前に現れたのは、宝の山だった。
『君は金銭的な利益を狙っているのではないか?』
「ばかばかしい」
クロエが笑う。
「俺が欲しいのは金じゃない。仲間との冒険と、美味しい料理だけだ」
宝の山も消え去った。
霧が晴れ、三人は再び合流した。
『...合格だ』
マシガルの声が穏やかになる。
『君たちの心は、まだ純粋なままだった』
幻影が完全に消え、元の街道の景色が戻ってきた。
三人は安堵のため息をついた。
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