第11話 米ってなんだ?


 街道を歩きながら、リナがふと立ち止まった。


 「そういえば、さっき米って言ったけど、実際に見たことある人いる?」


 三人は顔を見合わせた。


 「いや、俺は麦しか知らないな」


 ガレンが首を振る。


 「俺も聞いたことはあるけど、実物は見たことがない」


 クロエも同じだった。


 『米は小さな白い粒だ』


 フェンガルが説明し始める。


 『麦よりもずっと小さくて、炊くと柔らかくなって甘い味がする』


 「甘いのか?」


 ガレンが驚く。


 「麦粥は苦いだけなのに」


 『そして不思議なことに、米は水と一緒に煮ると、一粒一粒がふっくらと膨らんで、もちもちした食感になるのだ』


 リナが想像しようと目を閉じる。


 「もちもち...触ったことないから分からないわ」


 その時、街道の向こうから荷車を引いた商人がやってきた。


 「おい、あの商人に聞いてみよう」


 クロエが提案する。


 商人は中年の男性で、人当たりが良さそうだった。


 「すみません、ちょっとお聞きしたいことが」


 ガレンが声をかける。


 「はい、何でしょう?」


 「米というものをご存知ですか?」


 商人の顔がぱっと明るくなった。


 「おお、米ですか! 確かに扱ったことがありますよ」


 「本当ですか?」


 三人が身を乗り出す。


 「ええ、遥か東の国から来る貴重な穀物です。白くて小さな粒で、炊くと本当に美味しいんですよ」


 商人が懐かしそうに語る。


 「どんな味がするんですか?」


 リナが興味深そうに尋ねる。


 「ほのかに甘くて、口の中でほろほろとほどける感じです。麦とは全く違う食べ物ですね」


 「今は持っていないんですか?」


 クロエが期待を込めて聞く。


 「残念ながら、今回は扱っていません。とても高価で、なかなか仕入れられないんですよ」


 商人が申し訳なさそうに答えた。


 「そうですか...」


 三人がしょんぼりする。


 「でも、東の方へ行けば手に入るかもしれません。特にナンミョウという国なら...」


 商人がそこまで言いかけて、首をかしげた。


 「あれ? ナンミョウって国、あったかな? なんだか思い出せない」


 またしてもマシガルの幻影が働いているようだった。


 商人と別れた後、フェンガルが呟く。


 『やはり普通の人には見えないのだな、ナンミョウは』


 「ということは、米もナンミョウに行かないと食べられないのか」


 ガレンが残念そうに言った。


 「ますます楽しみになってきたわね」


 リナが前向きに答える。


 いくら丼への憧れが、また一つ強くなった瞬間だった。

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