第8話 いくら丼について学ぼう


 翌朝、食堂でマリアンヌが三人を見つめながら、穏やかに口を開いた。


 「試練の前に、まず基本的なことを確認させてください。あなたたちは【いくら丼】とは何か、本当に理解していますか?」


 ガレンが自信満々に答える。


 「食べ物だろ? 丼という器に、いくらという珍味を盛った料理のことだ」


 「そうですね、確かにそれも正解です」


 マリアンヌが頷きながらも、少し困った表情を浮かべる。


 「でも、書物で得た知識だけでは不十分ですね。もう少し深く掘り下げてみましょう」


 リナが魔法書から顔を上げる。


 「深く掘り下げるって、どういうことですか?」


 「では、あなたたちは【海】を知っていますか?」


 マリアンヌの質問に、三人は顔を見合わせた。


 「海?」


 クロエが首をかしげる。


 「なんだそれ?」


 ガレンも困惑した表情だ。


 「聞いたことがないな。何かの魔法の名前か?」


 マリアンヌは苦笑いを浮かべた。


 「(ここから説明しないといけないのね...)」


 心の中で呟きながら、彼女は立ち上がって窓の外を指差した。


 「海とは、この世界にある巨大な水の塊のことです。山よりも大きく、空よりも広い、青い水の世界があるのです」


 三人は理解できずにいた。


 「水の世界? 湖のことですか?」


 リナが尋ねる。


 「湖の何百倍、何千倍も大きなものです。そして、その海には無数の生き物が住んでいます」


 フェンガルが補足するように言った。


 『君たちが住む内陸部では海を見ることはできない。だが、世界の端には確実に存在する』


 「その海に住む生き物の一つが【魚】。そして、特別な魚から生まれるのが【いくら】なのです」


 マリアンヌが丁寧に説明を続ける。


 「いくらとは、魚の卵なのです。小さくて丸くて、口の中で弾ける不思議な食べ物」


 クロエが驚いた。


 「卵? 鶏の卵とは違うのか?」


 「全く違います。海の恵み、生命の源そのものなのです」


 三人はようやく、自分たちがいかに無知だったかを理解し始めた。


 いくら丼を求める旅は、同時に未知の世界を学ぶ旅でもあった。

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