帰れなくなった宇宙人

@karatachi23

第1話

 ある日、宇宙人が地球にやってきました。争いが絶えない星を平和な世界へと導くためです。降りたった宇宙人は、衝撃を受けました。なにしろこの未開の惑星は大小さまざまな差別と暴力に満ちているのです。


 すぐに母星の宇宙船を呼びましたが、宇宙船に不具合が起こったのか、それとも宇宙人の信号が届かないほど遠くに行っているのか。「何かあったりもう無理だと思ったら、ためらわずに呼んで。すぐに迎えに行くから」と船を降りる前に言われたのに、いくら呼びかけても応答はありません。


 仕方がなく、宇宙人は地球に滞在しました。母星ではありえないほど混沌とした惑星に耐えられず、最初は母船から降り立った時に乗っていた小型船に引きこもっていました。


 しかし、この未開の地には飢えや同じ地球人同士の争いなど、母星ではもう遠い過去になくなったことに苦しんでいる住人がたくさんいます。


 苦しむ異星人を放っておくわけにはいかず、仕方なく宇宙人は地球人のために行動するようになりました。ある時はミサイルを空中で爆破させ、またある時は荒れた大地に緑を生やし、小型船で地球のあちこちを飛び回って少しでも平和な星にしようとしました。


 やがて人間が幾世代も重ねるほど長い年月が過ぎたころ、ようやく仲間たちが乗っている母船がやってきました。

「遅くなってごめん!迎えに来たよ。どこにいるの?」


 返事はありません。いつまでたっても混沌として、あらゆる争いが絶えず貧富の差もなくならない地球で暮らすうちに、宇宙人の心も身体もすり減って消えてしまっていたのでした。


 これでこの話は、おしまいです。

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