アイズ・ストライフ

吉祥 煙

第1話 プロローグ 10体目のイレギュラー

ニューロリンク技術――それは、思考そのものをデータとして扱えるようになった革命。

医療から軍事、教育、エンタメまで、世界のすべてが一夜にして変わった。

そして、ゲーム業界にも“とんでもない怪物”が現れる。


――システム構築中


 ログイン生体認証を確認中……登録者、三明創馬みあけそうま

 認証完了。

 Cognitive Arena Link《コグニティブ・アリーナ・リンク》起動します。

無機質な音声が、脳内に直接響いた。

次の瞬間、目の前に広がるのは無限の光の海。

現実と幻が溶け合うような光景に、思わず息を呑む。


『ようこそ。――第二のあなたを、始めましょう。』


コグニティブ・アリーナ・リンク。


全脳接続ARゲームとして世に出てから、たった一年。

いつの間にか、世界中のデバイスに強制インストールされた。

運営元は不明。だが、その熱狂は誰にも止められなかった。


プレイヤーは、自分だけの戦闘電子生命体アイズを創り出し、戦わせる。

リング上での1on1、チームで挑むレイド戦、旗を奪い合うフラッグ戦、

都市規模の攻城戦――戦場の形は無限大だ。


『制作中のアイズデータがあります、生成を続けますか?』


「Yes」


アイズの作成はシンプルだ。

筋力、敏捷、知能……好きなステータスを入力するだけで、AIが最適な素体を生成する。

つまり“キャラガチャ”のようなもの。

運が良ければ、伝説級のアイズが手に入る。


だが――このゲームが世界を席巻した本当の理由は、そこではない。


アイズは、現実に現れる。


ゲーム内で生成した戦闘AIは、そっくりそのまま実体化できる。

現実に呼び出された彼らは、国家の軍事力、企業の戦力、

そして“権力”そのものになった。


強力なアイズを持つプレイヤーがいる国ほど、世界での発言力が増す。

各国はランカーを囲い込み、資金援助や特権を与えた。

ゲームで勝つことが、国を強くする――そんな時代が、始まったのだ。


創馬そうまはただの凡人だった。

けれど、誰よりも“物を作る”ことが好きだった。

彼が、誰もやらない方法――完全マニュアル操作でアイズを作り上げた時。


――生成完了

    完全マニュアル操作で、アイズを作成しました――


――アイズの設定が変質中...クリア――


「で、出来た……?」


いつもと様子の違うアナウンス


  ――セーフロック解除――


目の前に、見慣れないログが流れていく。


「へ……? 設定、変質……?」

口からとも無くそんな声が漏れる


――――アイズの設定変質を確認。オート機能凍結、自立思考・・・・を解放します。――



「……はい?」


理解が追いつかない。

アイズは基本的にオート制御だ。

自我を持つ個体が生まれる確率など、天文学的数字――。


だが、確かにその瞬間。

システムは告げた。


――自立思考、解放完了。


そして理解の追いつかないまま、全サーバーに通達されるワールドアナウンスの通知が鳴った...


『『全てのユーザーに通達・・・』』

『『先ほどこの世で10体目のイレギュラー個体のアイズが生まれました』』


「……最悪だ」

誰に届くともない独り言を自分の現実が受け入れられずに1人創馬はこの先の不安を考えつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る