8 フォーサイス公爵家の『公然の秘密』

 国王の姉と妹は、美しい姉妹姫として有名だった。

 事実、美しかった。

 二人への求婚者は後を絶たないほどで、その中の一人に、フォーサイス公爵も居た。


 姉妹は婚約も婚姻も、全てを断っていた。

 前王も前王妃も国王も、彼女たちの味方をしていた。


 正攻法を早々に諦めた公爵は、非道な手段に出た。


 フォーサイスの血筋が得意とする精神作用系統の魔法、その一つである『魅了魔法』。

 高度な魔法技術・技能と魅了魔法への深い理解が必要な魔法。

 数代前からフォーサイスの血筋ですら誰も使えないようだと、周囲からもフォーサイスからも、ほとんど幻扱いされていた。


 その『魅了魔法』を使って、姉妹二人ともを手に入れようとした。


 どちらも美しい。

 どちらでも良い。

 どちらも欲しい。


 実に、我が父上らしい動機だ。

 セオドアは吐き捨てる。


 非道な手段で手に入った、手に入れたのは、姉姫。


 姉姫は、魅了魔法をかけられたことも、かけられ続けていることも、分かっていなかった。

 精神操作系統の魔法で、分からなくなっていた。

 自分は公爵を心から愛していると、思い込まされた・・・・・・・

 そうして自分を身ごもり、産んだ。

 母の魅了魔法が解けたのは、亡くなる直前。


 違う。解けたから、死を選んだ。


 強力で複雑な『魅了』と『精神操作』の魔法を、それも使い手が生きている状態で両方を消し去るなど、不可能だ。

 諦めるしかない。


 諦めなかったのは、一人だけ。


 魔法薬学を学んでいて、そのおかげで魅了魔法から逃れることができた妹姫──ソフィアだけ。


 姉を助けるためにと『魅了』と『精神操作』を打ち消す魔法薬を作り出したソフィアは、その・・可能性も示してから、姉へ魔法薬を渡した。

 使うも使わないも姉が決めてくれと。


 受け取った母は、魔法薬を使った。


 使い、本来の自分を、正気を取り戻し──死を選んだ。

 セオドアが四歳になる年のことだった。


 これが、貴族界隈での、公然の秘密。


 ソフィア殿下は、自らを責めたらしい。「自分が殺したようなものだ」と。


 あの方は、母を呪縛から解いたんだ。


 自分を責める必要なんてどこにもない。


 本当に責められるべき、咎を負うべきなのは。


「父と、僕だ」


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