7 公的情報と事実とに違いがありすぎる。

「……書類も何もかも、正式、……おおやけの情報では、国王陛下の長子で、長女だ。……けど、彼女ミラの、……父親、は、」


 国王陛下の従弟である、侯爵閣下なんだ。


 セオドアが、怯えを律するように硬い口調で話す。

 自分を抱きしめてくれている彼の腕に、わずかな力が込められた。まるで縋るように。

 それに気づいたシャーロットは、セオドアの背中へゆっくりと腕を回していく。


 何も言えない、言ってはいけない。

 セオ様が話し終えるまで、粗暴で口下手な自分は何も言わないほうがいい。


 思ったシャーロットの、言えない代わりになればと、セオドアを緩く抱きしめるように回した腕。


 彼女が、シャルが、背中に腕を回してくれること。抱きしめてくれること。


 それがセオドアへどれほどの愛おしさと勇気と安堵をもたらすか、シャーロットは気づけない。


 けれども「ありがとう、シャル」と言ってくれたセオドアの声は、シャーロットの耳に先ほどよりも柔らかく響いた。

 縋るように込められていた腕の力も、少し抜けたように感じられた。


 セオ様のためになれたなら、良かったです。


 喋ってはいけないからと、シャーロットはセオドアの背中を軽くさすった。

 感謝の言葉を口にしようとしたセオドアは、ほんの一瞬ひとまたたき逡巡し、感謝はあとで伝えようと決め、止まっていた続きを話していく。


 今、シャーロットへ向けての言葉を発しようとしたら、声が震えてしまう気がした。


 愛おしさと、罪悪感で。


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