5-2

 じゃじゃ馬を超越する暴れ馬、女らしさのカケラもない名ばかり王女、シャーロット。


 自分が彼の妻になったら、彼の評判は確実に落ちる。

 王位継承権第二位の、立場が揺らぐ。


 だから早く、婚約破棄でも解消でもなんでも良いからしてほしかった。

 彼の負担になりたくなかった。


 もっと淑女らしかったら。

 もっと国民から愛される王女になれたら。


 努力しても失敗ばかりで、周囲に嗤われるだけ。


 セオドアは嗤ったりしなかったけれど、「変える必要があるとは思えないんだが」と冷たく言うばかり。


 あなたのためになりません。

 婚約について考え直してください。


 何度も言っても、破棄も解消もしようとしない。


 つまり、あれか。


 嗤われながら「名ばかり」の公爵家夫人へなれと。

 嗤われる一生を過ごせと。


 第二夫人や愛人を娶れば、自分とは「名ばかり」の関係でも公爵家の後継者問題は起こらない。

 本人から聞いたことはないけれど、セオドアには想う人がいるらしいと、姉がこっそり教えてくれていた。

 もしかしたら、あなたの婚約者はその人と、と。


『可哀想なシャーロット。わたくしはいつでもあなたの味方だから、辛くなったら遠慮なく頼ってちょうだいね?』


 わたくしたちは、姉妹なのだから。


 妖精姫の二つ名を持つ異母姉は、自分へ寄り添い、励ましてくれた。


 ……けど。


『僕が愛しているのはシャルだけだ』


 あの言葉が、本当なら。


 セオ様は自分を、好いてくれている?


 なら、彼の想い人は?

 姉が内緒で聞かせてくれた話は?

 姉が教えてくれたもしもの未来、第二夫人や愛人の話は?


 最初に姉が『花言葉の意味』を教えてくれて、だから、頑張っていたけど。


 王位継承権の話題は別として、セオ様が好いてくれているなら、名ばかりの夫人にならないのでは? あれ? え?


 混乱し始めたシャーロットの横で。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る