そらをはしるモノレール
霜月あかり
そらをはしるモノレール
町の高いレールの上を、モノレールは今日も走っていました。
青い海、きらめく街並み、山の稜線――窓の外には、いろんな景色が広がります。
「わぁ! まるで空を飛んでるみたい!」
「ほんとだ、雲に届きそう!」
子どもたちのはしゃぐ声が、モノレールの中に響きます。
モノレールはくすぐったいような気持ちで思いました。
――ぼくは、ただの乗り物じゃない。みんなの夢を乗せて、空を走るんだ。
ある日、車内で兄妹が言いました。
「ねえ、このモノレールで宇宙まで行けるかな」
「うーん……途中でごはん食べられるなら行けるよ!」
子どもたちが笑い合うと、モノレールも心の奥で小さく笑いました。
「そうだね。宇宙でも、みんなを乗せて走れるなら、どこまででも行けるよ」
◇
けれど年月が流れると、モノレールは少しずつ疲れていきました。
窓ガラスには細かな傷がつき、床のきしむ音も増えてきます。
ある日、整備員の人たちがささやきました。
「ずいぶん長く走ったな。この子も、もうそろそろ引退かな」
その言葉を聞いたとき、モノレールの胸はしんと静まりました。
――もう、子どもたちの笑い声を聞けなくなるの?
そう思うと、心の奥にぽっかりと穴が空いたようでした。
◇
最後の日がやってきました。
ホームには、名残を惜しむように集まった人たち。
子どもも大人も、モノレールに向かって手を振っています。
ゆっくりと走り出した最後の旅。
窓際に、小さな親子が座っていました。
「ねえママ。モノレールって、ほんとは空を飛べるんでしょ?」
「ふふ、どうしてそう思うの?」
「だって、ほら。こんなに高いところを走れるんだよ。だったら、もっともっと上にだって行けるはず!」
「そうね。きっと、この子は星にだって会いに行けるわ」
その会話を聞いた瞬間、モノレールの胸がじんわり温かくなりました。
――そうか。ぼくはまだ、子どもたちの夢の中で走れるんだ。
◇
夜。
モノレールは夢を見ました。
レールを静かに離れ、ふわりと浮かび上がります。
街の灯りが遠ざかり、雲を抜け、月の光が道しるべのように輝いていました。
「いってらっしゃい!」
子どもたちの声が、風にのって聞こえてきます。
星たちはきらきらと瞬き、まるで「よく来たね」と迎えてくれるようでした。
もう悲しみはありません。
モノレールは笑顔で、夜空を自由に駆け抜けていきました。
――そして今もきっと、夢の中で、子どもたちの想像を乗せながら走り続けているのです。
そらをはしるモノレール 霜月あかり @shimozuki_akari1121
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます