そらをはしるモノレール

霜月あかり

そらをはしるモノレール

町の高いレールの上を、モノレールは今日も走っていました。

青い海、きらめく街並み、山の稜線――窓の外には、いろんな景色が広がります。


「わぁ! まるで空を飛んでるみたい!」

「ほんとだ、雲に届きそう!」


子どもたちのはしゃぐ声が、モノレールの中に響きます。

モノレールはくすぐったいような気持ちで思いました。

――ぼくは、ただの乗り物じゃない。みんなの夢を乗せて、空を走るんだ。


ある日、車内で兄妹が言いました。


「ねえ、このモノレールで宇宙まで行けるかな」

「うーん……途中でごはん食べられるなら行けるよ!」


子どもたちが笑い合うと、モノレールも心の奥で小さく笑いました。

「そうだね。宇宙でも、みんなを乗せて走れるなら、どこまででも行けるよ」



けれど年月が流れると、モノレールは少しずつ疲れていきました。

窓ガラスには細かな傷がつき、床のきしむ音も増えてきます。

ある日、整備員の人たちがささやきました。


「ずいぶん長く走ったな。この子も、もうそろそろ引退かな」


その言葉を聞いたとき、モノレールの胸はしんと静まりました。

――もう、子どもたちの笑い声を聞けなくなるの?

そう思うと、心の奥にぽっかりと穴が空いたようでした。



最後の日がやってきました。

ホームには、名残を惜しむように集まった人たち。

子どもも大人も、モノレールに向かって手を振っています。


ゆっくりと走り出した最後の旅。

窓際に、小さな親子が座っていました。


「ねえママ。モノレールって、ほんとは空を飛べるんでしょ?」

「ふふ、どうしてそう思うの?」

「だって、ほら。こんなに高いところを走れるんだよ。だったら、もっともっと上にだって行けるはず!」

「そうね。きっと、この子は星にだって会いに行けるわ」


その会話を聞いた瞬間、モノレールの胸がじんわり温かくなりました。

――そうか。ぼくはまだ、子どもたちの夢の中で走れるんだ。



夜。

モノレールは夢を見ました。


レールを静かに離れ、ふわりと浮かび上がります。

街の灯りが遠ざかり、雲を抜け、月の光が道しるべのように輝いていました。

「いってらっしゃい!」

子どもたちの声が、風にのって聞こえてきます。


星たちはきらきらと瞬き、まるで「よく来たね」と迎えてくれるようでした。

もう悲しみはありません。

モノレールは笑顔で、夜空を自由に駆け抜けていきました。


――そして今もきっと、夢の中で、子どもたちの想像を乗せながら走り続けているのです。

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そらをはしるモノレール 霜月あかり @shimozuki_akari1121

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