俺は君の名前を知らない

高嶺雪

第1話 雨の降る夜に君がいた

俺はあいにく雨が嫌いだ。

ジメジメしてて、低気圧のせいか、頭が痛くなるからだ。

でも、一番の理由は景色が美しくないから。

ほら見ろ。あそこには雨に濡れる少女が…少女が、あそこにいる?

男子高校生の俺。クラスの女子に転んでも助けてくれなさそうな男子クラスメイトランキングという勝手な推測ランキングで一位に選ばれた、『顔だけは良い男』だ。

そんな俺でも、この小さな少女をほっとくほど薄情じゃない。


「君。風邪引くぞ。」

「別にいいよ。」

おい、こっち向け。フイっと反対方向向くなよ…。

「はぁ…。流石に初対面で雨に濡れる少女がいたら見離せないんだけど。」

「勝手にしてよ。」

「勝手にしてって、君なぁ。」

どうすべきか。ここでほっとくことはまずない。

だがしかし、家にあげたら誘拐犯にされないか?

なんかの詐欺で金取られたらどうしようか、身寄りのない俺の金は、命と同等だ。

うーーーーん。

「よし。俺の家に着いて来い。」

「うぇっ?」

「とことん尽くしてやるよ。もし、俺と暮らしたくなったら言うんだぞ~。着いて来い。」

「……うん!」


♢♢♢俺の家・到着♢♢♢


「よっし。まず風呂だな。入れるか?」

「うん、お風呂は好き。」

「俺も好きだ。行って来い。これに着替え。のぼせるなよ~。」

「わかった。」


ふわあっと笑って走る細身の君。

雨の降る夜に君がいた。


♢♢♢お風呂・少女side♢♢♢


私はお風呂が好きだ。

体が温まって、ホワホワした気持ちになるからだ。

でも、一番は一人になれるから。誰にも気を遣わなくて良いから。


私はある男に出会った。

そう、『彼』である。

「なぜここにいるのか」「どうしたのか」そんなことは微塵も興味がないと言いたげで、少し面倒くさそうに風邪を引くことに対してだけ言葉を並べた。

私にとってはとても新鮮で、嬉しくなった。


「おーい、着替えは妹のやつでいいか?」

今ドア越しに話しかけてきたのが噂の『彼』だ。

「い、いいよ。」

あれ?私、服は用意してもらわなかったっけ。

「ん〜。入りすぎるなよ。」

「あ、もう30分入ってるんだ。」

もしかして、出てこない私を心配して…。

ドクドクと鼓動が速くなるのが分かる。

あぁ、私ってこんなにチョロいっけ!私ってこんなに赤い顔をしてたっけ!

のぼせたわけじゃないのに真っ赤な顔をなぜかわからないけど彼には見せたくなくて、雨の降る夜、彼がいたことを思い出す。

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俺は君の名前を知らない 高嶺雪 @yuki-takamine

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