ゾンビアポカリプスモノにおいて、ゾンビが最期まで主役になる為には

リンリ

第1話 納得いかない

「ん……」


 隣から何か言いたげな、だが迷うような鳴き声レベルの小さな呟きが聞こえる。


 ボロ家であちこちガタが来ている家は家鳴りが止まらず、外れかけた窓からは降りやまぬ雨がBGMの様にトタンの屋根を叩いて妙に心地よい。


 本来ならそんな二つの音に掻き消されて聞こえないはずのその呟きは、嫌に俺の耳を打った。


「どしたん〜?」


 腐った死体が歩き、銃撃と悲鳴ばかり聞こえるテレビの画面からは目を逸らさず、ただぼう、とした頭でふにゃりとした言葉を吐く。


「あー……いや、なんでもないわ。全部見終わったら言うね」


「そか」


 うん、とだけ言って隣に座る友人は空になった酒瓶をちょんちょん、と突きながら映画に集中していた。


 やがて、映画はエンドロールへと差し掛かる。


 そこでやっと、隣に座るのんびり屋の彼女は口を開いた。


「納得いかないわ」


 要領の得ないたったそれだけの言葉から言わんとしている事を悟るのは困難で、何が?と俺が問えば彼女はより詳しく説明をし出した。


「これってゾンビアポカリプス……要はゾンビのせいで世紀末状態になった世界のお話なのよね?なんで最期ゾンビが一切出ずに人間どうしの争いになる訳」


「いや、そうは言ってもよトキ。この映画のゾンビは歩くだけの腐った死体だぜ?対策や対抗策っていうのは人間なら時間は掛かるが生み出すはずだ」


 そうなれば後はその対策にそって必要な物資や施設、罠の設置なりをするだけだ。

 そして目出度く文字通り背景と化したゾンビに代わってメインを張る存在が必要になり、それが人間なのだから。


 だが彼女……トキはどうにもそれが気に食わないらしく、


「じゃあさ、ゾンビが最期まで主役を張れるにはどんな条件が必要だと思う?」


 と来た。


 トキとは古い付き合いで、酒が入ったり今日のように暇で仕方のない日だったりはこうした話をよくしていた。


 興味や好奇心が刺激されれば例えそれが便所の下駄であれどこぞの有名なアイドルの話でも何時間でも様々な角度や視点から話を広げて無限に話せるものだ。


 今日はどうやらゾンビの話題になるらしい、とトキの投げ掛けたテーマに乗っかる。


「そうだなあ……取り敢えずさ、ゾンビが歩くって言うのはまずどうなんだ」


 ゾンビという話題に対し、対抗策を練る、妄想するではなくどうしたら人間の脅威になり続けれるかを考えるという新しい発想は存外と俺の興味の虫を刺激した。


 少しだけわくわくした声色をしているのがトキにバレたのか薄く笑ってトキは返事を返す。


「じゃあ走るっていうの?走るゾンビってはたしてゾンビなの?」


「だが運動能力はある程度ないと脅威にすらならないと思うぞ?それこそ手作りでも槍なんかの長柄の武器一つあれば簡単に倒されそうだ」


 囲まれたらそりゃおしまいだが、相手が歩くしか出来ないと知っているのなら周囲を観察する余裕はあるはずだからそんなシチュエーション早々起こり得ないだろうし。


 加えて言うなら歩くだけの死体相手に所謂軍や警察が全滅、という話が無理のあるように感じてしまって少し映画を見る側としてはその設定はちょっと好みじゃない。


 やはり説得力はある程度必要に思う。


「ふんふん、なら腐った死体じゃなくてウイルスによって変異したゾンビになるわよねその場合。だって腐った脚じゃとてもじゃないけど走れないわ」


「そうだな。軽い段差や壁程度ならよじ登ってくるなら人間側も単純なバリケードや砦を作るだけじゃ厳しいはずだ」


 そんな映画をトキと昔見た気がする。


 あれもウイルスによって変異したゾンビで、めちゃくちゃに走ってくるゾンビだったはずだ。

 病院で目覚めた主人公が静まり返り荒れ放題の街で走るゾンビ相手になんとか逃げる最初のシーンが印象的だった。


「そうなってくると人間はどう対策するのかしら。正面衝突はゾンビな時点で分が悪くなる訳よねこのゾンビなら」


「そうだな。ならそもそも見つからないように隠れる、っていう風に動くんじゃないか?」


 そうなったら武器も銃じゃなくて弓やクロスボウが多くなりそうだな。

 あるいはサプレッサーとかが付けられるなら銃も少し視野に入るだろうか。


 車のオイルフィルターが人気になりそうな世界観だ。

 きっとオイルフィルターが通貨の様に扱われているに違いない。


「じゃあ映画あるあるのショッピングモールとかに隠れるのが定番かな」


 トキはそう前置きして話始める……


________________________後書き


 ゾンビ大好きで気が合う十年?くらいの付き合いの友人に知恵をちょっと借りて書き始めました。

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