第11話 冒険者ギルドで初めての依頼を受けることにしました
さて、碧と沙織があちらの世界に行くに当たって何をしたいのか訊ねてみました。
二人の要求は以前と変わらず――
『お兄ちゃん!! 私、冒険者になって無双して私TSUEEEEEな生活を送りたい!!』
『お母さんも冒険者になって美少女を助けまくってイチャイチャしたいわ!!』
とのことです。
どちらも冒険者になりたいようなので、俺も冒険者について知っておく必要があります。
『ファイナルストーリーズ』の冒険者ギルドは、困っている人が発注したクエストを主人公が引き受けて解決し、報酬を受け取るというシステムでした。
実際の冒険者ギルドも大体同じです。
誰かが発注したクエストを冒険者が引き受け、解決することで報酬を貰います。
ゲームでは強力なアイテムがもらえることもありましたが、基本的には金銭での支払いですね。
ここまでが事前に集めた冒険者ギルドに関する基本情報です。
というわけで、俺は魔法学園をサボタージュして王都にある冒険者ギルドへやってきました。
あ、ちなみに魔法学園の方は今日もアルシエルが不在で自習だったため、何の問題もありません。
冒険者ギルドの建物は、こちらの世界では珍しい三階建ての大きな建物でした。
一階はクエストの受注手続きをする受付があり、吹き抜けの二階は仕事終わりの冒険者たちが打ち上げをするために併設された酒場があるようです。
ちなみに三階は寝泊まりする宿がない冒険者に貸し出している宿で、一定数面倒なクエストを引き受けることで格安で貸し出してもらえるとのこと。
「おいおい、なんだぁ? そのダッセェ仮面と肩に乗せたデブトカゲは!!」
「……我はデブトカゲなのだろうか……」
「デフォルメされているだけで、しっかりドラゴンに見えますよ」
「我をドラゴンと言ってくれるのは汝と碧と沙織だけだな。……汝の仮面も、別にダサくはないぞ」
ディアベルは色々な人にデブトカゲと呼ばれることにショックを受けながらも、ダサいと言われた俺の仮面を擁護してきました。
そう。
俺は今、前世で中二病真っ只中の時に自作した黒衣をまとい、仮面を被っていました。
稀にですが、冒険者ギルドには貴族がクエストを発注しにくることもあります。
もしそういう貴族と鉢合わせして、王子が冒険者をやっているとバレれば何かと面倒事が増えるでしょう。
面倒事は全て消し飛ばしてしまえば解決できますが、暴力を躊躇いなく振るう姿を二人に見られたら嫌われたり、怖がられたりするかもしれません。
そういうわけで二人の前ではできるだけ暴力を振るわなくて済むように、問題が起こらないように仮面で正体を隠そうと思ったのですが……。
冒険者ギルドの建物に入るや否や、いきなり絡まれてしまいました。
見たところ冒険者のようではありますが、背中に巨大な斧を担いでおり、酔っ払っているのか息がお酒臭いです。
さて、どうしましょうか。
今後この冒険者ギルドを碧や沙織が利用することも考えれば、王都で活動する冒険者とのトラブルは極力避けたいです。
ひとまず正体を隠すために口調を変えて、道を開けてもらえないか要求します。
「申し訳ないが、そこを退いてもらえないだろうか」
「おいおい、誰に命令してんだ? オレは二級冒険者、『かち割り斧』のガルフだぜ?」
冒険者には十級から一級までの等級があります。
当然ながら一級に近いほど実力があり、実績がある冒険者になります。
かち割り斧、というのは微妙にダサイ気もしますが、このガルフという男は王都で活動する冒険者の中でも有数の実力者なのでしょう。
先に言っておきますが、魔法を除けば俺に戦闘力はありません。
筋肉ムキムキの大男に詰め寄られてしまえば、対抗する手段がないのです。
前世で中二病を患っていた時、刀と銃を用いた戦闘術を考案しましたが、所詮は脳内妄想なので使い物にはならないでしょう。
魔法を使えば永遠に黙らせることはできるでしょうが、碧や沙織が今後冒険者ギルドで活動するなら問題は起こしたくないのが本音です。
ここは適当なおべんちゃらを使ってやり過ごしましょう。
「ガルフ、か。強大な魔物にも怯まない勇猛果敢な戦士だと聞いたことがある。貴殿がそのガルフだったか。失礼した」
「ん、お、おう、そうだ!! オレがそのガルフだ!! 分かってんじゃねぇか!! お前、気に入ったぜ!! よく見ると仮面もイカしてるじゃねぇか!!」
見るからに脳筋そうでしたが、この程度の持ち上げで気をよくするとは。
単純で扱いやすいですね。
しかし、お陰で何の問題もなく道を空けてもらい、無事に受付まで辿り着くことができました。
「ようこそ。冒険者ギルドマギルーク王国王都支部へ。本日のご用件をお伺いしても?」
「冒険者登録をしたい。手続きを頼む」
「承知しました。ではこちらの書類に記入を」
俺は受付からもらった書類に必要事項を書き込みました。
「はい、ミナト様ですね。こちらのギルドカードをどうぞ」
「ギルドカード?」
「そちらは冒険者の方にお配りしている魔導具でして、触れるだけで受注中のクエスト内容をいつでも確認することができます。冒険者の証でもありますので、失くさないようにしてくださいね」
「ふむ、了解した」
『ファイナルストーリーズ』には存在しなかったシステムです。
とはいえ、クエスト内容をいつでも確認できるというのはいいですね。
と、その時でした。
「だ、誰か!! 助けてください!!」
十歳を過ぎたばかりと思われる、年端も行かない少年です。
着ている服はボロボロで、身体の至るところに痛ましい傷があります。
「む、村に、村にゴブリンの群れが!! 早く助けに行かないと皆、殺されちゃう!!」
「え、ええと、ゴブリン退治のご依頼、ということでいいのかしら?」
「何でもいいから助けて!! 皆、皆が戦って僕だけ逃がして、冒険者ギルドに依頼しろって!!」
子供は本当に焦っているようで、受付の女性がどうにか状況を聞き出しています。
すると、二階の酒場で冒険者たちが少年には聞こえないような小さな声で話し始めます。
「ゴブリン退治か」
「大した報酬は出ねーだろうな」
「ゴブリン一匹で金貨一枚なら大喜びで引き受けるけどよ」
「いやいや、どうせ一匹銅貨数枚だろ」
「はは、王都で溝さらいした方が儲かりそうだな」
どうもゴブリン退治は不人気なようで、誰も少年の依頼したクエストを受けるつもりはなさそうでした。
……ふむ。
俺は涙ながらに助けを求める少年に近づき、片膝をついて目線を合わせます。
首を傾げる少年の目を仮面越しに見つめながら俺は一言。
「そのクエスト、俺が引き受けよう」
「ほ、本当!? 助けてくれるの!?」
「ああ」
二階の冒険者たちはどこか俺を馬鹿にしたように笑いました。
「おいおい、アイツさっき冒険者登録した奴だろ」
「十級冒険者か。よく引き受けようと思ったな」
「ゴブリン退治が割に合わないって知らねーんだよきっと。誰か教えてやれって」
「やだよ、面倒くさい」
「そーだそーだ。何事も無知な奴が悪いんだ」
酷い言われ様だが、俺は何も伊達や酔狂で少年を助けようと思ったわけではありません。
しかし、大半の冒険者たちにはそう見えてしまったのでしょう。
見かねたガルフも声をかけてきました。
「二階の奴らも話してたが、ゴブリン退治は実入りが少ねーぞ。オレがもっと報酬のいいクエストを教えてやろうか?」
別に俺はお金がほしくて冒険者になったわけではありません。
その気になればお金なんて国王を脅してじゃぶじゃぶ手に入りますから。
ゴブリン退治のクエストを受けるのは、あくまでも冒険者ギルドの俺に対する印象をよくするためです。
誰も引き受けないせいでクエストを積極的に受注したら、冒険者ギルドはさぞ喜ぶでしょう。
とはいえ、馬鹿正直に打算を口にしてはよくなる印象も悪くなります。なので適当に格好を付けることにしました。
「冒険者は人助けをするのが仕事だろう?」
「「「「……」」」」
その時、ふと冒険者ギルドが一斉に静まり返りました。
二階で騒いでいた冒険者どころか、受付の女性まで俺を見てハッとしています。
何かまずいことを言ったでしょうか。
そう思っていると、おもむろにガルフが少年へ声を掛けました。
「……おい、坊主。ゴブリンの群れの数がどれくらいか分かるか?」
「え? えっと、村長は少なくとも五十匹はいるって言ってた」
「五十、か。下手したら騎士団が動かなくちゃいけねー数だな。いや、動きの遅い連中じゃ村は手遅れになるか。……おい、お前さん。ミナトだったか」
少年からゴブリンの数を聞いたガルフが真剣な眼差しで俺の方を見つめます。
オッサンにまじまじと見つめられても反応に困りますね。
「なんだ?」
「一人じゃ五十匹のゴブリンはどうにもならねぇ。オレも一緒に行くぜ」
「ゴブリン退治は実入りが少ないんじゃなかったのか?」
「いじめてくれるなよ。ただ、その、ガキの頃に故郷の村がゴブリンに襲われて、冒険者に助けてもらったことを思い出しただけだ」
「……そうか」
頭をがしがしと掻きながらガルフが言った言葉に、冒険者たちはざわめきます。
「……なんか、昼間っから酒を飲んでる自分が情けなく思えてきた……」
「そういやオレもガキの頃、お袋が病気で特別な薬草が必要な時に冒険者に助けてもらったっけ」
「冒険者になったばかりの頃は依頼主にお礼言われるだけで満足だったのに、俺らいつの間に報酬でクエスト選ぶようになったんだっけ……」
「な、なあ、お前ら」
「おう、そうだな。俺らも、ちったぁ初心に戻らなきゃだよな」
二階にいた冒険者たちがぞろぞろた階段で一階に降りてきて、少年を囲みました。
「あー、坊主。俺らも助けてやるよ」
「っ、ありがとう!! おじさん!!」
「お、おう、へへ」
とまあ、そういう流れでその場にいた冒険者全員でゴブリン退治へ赴くことになったのですが……。
「いや、乱戦になったら俺が魔法を使えなくなるから別に来なくても――」
「汝、今は感動的なシーンだから黙れ」
「痛いです、ディアベル」
ディアベルに尻尾で頬をひっ叩かれてしまいました。
とても痛かったです。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント小話
ディアベルの最近の趣味は碧とゲームをしたり、庭でシヴァと一緒に寝たり、沙織の作るご飯を食べること。ぐうたらな生活をしているせいで少し太った。
シヴァと昼寝するディアベルかわいい、と思ったら★★★ください。
「デブトカゲ呼ばわりで傷付いてて草」「冒険者たちが思ったよりいい奴らだった」「感動的なシーンで余計なこと言うな笑」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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