灰ゲーマーのヒキニート女子が悪役令嬢に転生。Sランクパーティを追放された隠れチートと出会った。

安ころもっち

灰ゲーマーのヒキニート女子が悪役令嬢に 前編

灰ゲーマーのヒキニート女子が悪役令嬢に 前編


 私の名前は笠野かさの瑠衣るい

 種族・灰ゲーマー(ニート)


 高校時代にいじめを受け、現在引き篭もり生活を3年目。

 親の脛を齧りまくってゲーミングチェアの上を生活の基盤として生きる10代最後のあの日、私はゲロを吐きながら呼吸困難という状態異常を受け、この世をログアウトしてしまった。


 その後の両親の修羅場は想像もしたくはないが、幸いなことに私はそんな現場を幽体離脱で見ることも無く、無事に新たな生命体として生まれた……。


――― と言う前世を今まさに思い出しているのがこの私!ルイーザ=カッサーノだ!


 まさか虐めで挫折した前世の時と同じ16才で、この世界が異世界でおまけに公爵令嬢として生まれたてしまったのだと自覚してしまうなんて!現実は分からないものだ。


 そんな私の現状を説明しよう。

 今まさに、婚約者であるこの国の皇太子に断罪される瞬間であった!


 びっくり仰天な珍事。


 目の前ではまだ私の婚約者であるはずの皇太子、ロンベルク帝国の次期皇帝陛下と成られる予定のダミアーノ=ディ=ロンベルクの腕に、ぶらりんことぶら下がっている子爵令嬢という構図を見せつけられている。


 なんでもこの子爵令嬢、シルヴァーナ=コンティ嬢を虐めたとか?


「私、怖かったんですー?」

 そう言いながら、楽しそうにマッチョな皇太子の腕にぶらりんこしてるシルヴァーナ。


 ちょっと楽しそう?いやお前、周り見ろよ?微妙な空気だろ?

 白い目っていうのは白目じゃないんだなーって純粋に思ったわ!これが白い目かーって。


 それでも絶好調なアホ皇太子は私を断罪したいようで、あれやこれや言っている皇太子と言う名の婚約者様。


 そんな婚約者様は、授業中に寝るんじゃない。教室に戻ってくるのはチャイムが鳴る前。食事中は咀嚼音を出さない。歩くときは腕をぶらんぶらんさせない。婚約者持ちの男性にべたべたと触らない……。


 それって貴族令嬢として当たり前の注意では?


 そう思ってたら、周りの大人達もやはりドン引きしているようで、巻込まれないようにと考えているのかそっと壁際に移動しているのが伺えた。いや助けてよ。


 最近やたらと私の周りをウロチョロしていたこの頭の緩い女に、ついつい注意をしていたのは私だ。放っておけば良かったよ。


 ため息をつき眉間を揉んでいた私はハッとする。


 そういえば、私って、殿下の事はそれなりに嫌いだった!

 そう思いだしてしまった私は、この場から即座に離脱することを決めた。


「殿下、本当に良いのですね?本当に、私と、殿下との、婚約を、解消、するのですね?」

「あ、ああ」

 しっかりとした口調でそう聞く私に、殿下はやや引き気味でそう返す。


 私はにっこりと笑みを浮かべ、この国の宰相、今まさに空を眺めるように天井を眺め無関係を決め込もうとしているシュベール様ににじりよる。


「だそうですよシュベール様?すぐに皇帝陛下に、しかと伝えて下さいね?」

 私がシュベール様の顔を上から覗き込むようにそう言うと、さすがに前を向き首をフルフルと左右に振り始めている。


「陛下に、すぐに陛下にご連絡を!私も公爵令嬢として、このまま殿下に縋り付くなんて無様な姿を晒すわけにはいきませんわ!きっぱりと、はっきりと、婚約破棄を皇太子殿下から、皇太子からの申し出があったと!一字一句間違えぬよう、くれぐれも正確にお伝えくださいませ!宜しいですか?」

 シュベール様はカクカクと頷いてくれた。


「それでは……以上っ!」

 私は長い金髪縦ロールを右手でバッとなびかせた後、身を怯返して優雅に扉まで歩き出す。


 真っ直ぐに前を向き歩く。

 周りの群衆を一切視界に入れぬよう只々真っ直ぐと。


「ほら、殿下がキツイ言い方をするから怒っちゃったじゃないですかー!お可哀想にー!」

 背後から子爵令嬢シルヴァーナのアホな声が聞こえた。


 やっぱり一発殴っとけば良かったかな?

 若干イラっとしながらも頭の中でこれまでの事を反芻する。


 よし!どう考えてもこれは確定事項だ。

 この世界……ゲームの世界だ!


 私は前世でPvPに疲れた時にやっていた乙女ゲームを思い出す。


 乙女ゲームは良い!キュンキュンさせながら最短で攻略するルートを探し、攻略した後は全てのルートを虱潰しに辿る作業と化すのだ。脳が活性化してすんばらしい気分転換になる。


 チャットで友にその話をすると「それは病気だ」と言われたが、暇を持て余していた私が制覇した乙女ゲームは数知れず、今のこの世界の元となっているであろうゲームは、れはそれなりに気に入っていた奴だった。

 ゲームのシナリオ通りであれば、私はこれから殿下に縋り付き、散々暴言を吐かれた後にあらゆる悪事を擦り付けられ、最後は処刑され首を落とされ死亡。と思いきや魔物化して暴れまわり、最後は主人公でもある子爵令嬢が覚醒して真っ二つ。と言うアホな展開な奴だ。


 よりによってこれかよ……そう考えた後、自分がこのアホゲーの、しかもこのクソポジで生まれたことに吐き気がした。またゲロ吐きそう。だがこれでフラグはへし折った。何の未練もないから綺麗さっぱり忘れて生きよう。


 そんなすっきりとした気持ちのまま家に戻った私。


 すでに何かしらの連絡が入っていたのか待ち構える両親。

 全てを話せと言われ、事細かに説明した。


 お父様は青筋をピクピクさせて「戦争……だな」と静に言えば、お母様は「王家をこの世から消し去ってくれるわ!」と言いながら、どこからともなく細い剣を両手に持ち振り回していた。


「お父様!お母様!落ち着いてください!そもそも私はあの男は嫌いだったのです。嫌々婚約者として従っていましたが、正直生理的に無理でした!後腐れなく離脱出来てとてもすっきりしていますわ!」

 私は満面の笑みを浮かべそう言った。


「左様か」

「なら、良いわめ」

 急にほんわかなムードになった両親の指示のもと、我が家はこの日、深夜遅くまで使用人も交え盛大にお祝いした。いやー、楽しぃネー!


 次の日、面倒になるだろうと予見した私は学園をサボった。

 昨夜こっそり飲んだ酒が残ってるので教室で吐く自信があったし。


 そんな私が向かうは冒険者ギルド!

 一応このゲームでも攻略キャラに冒険者もいたはずだ。Sランク冒険者のリーダーを務める俺様男。だが私はそんな男に一切興味は無い!


 私が!この世界で最強の冒険者に成ってやる!

 そう思って早速ギルドで登録。急いできたので少し気持ちが悪い。トイレどこー。


 やってきました初心者用の狩場にて、最底辺の新人冒険者らしく薬草採取の依頼を受けてきましたよっと。


 だが偶然にも魔物と遭遇したのなら、依頼なんて関係ねーぜ!私は魔物を倒してレベルを上げて、いずれ最強の冒険者として君臨するのさ!


 そう思ってファーストコンタクトに成功した一匹のスライム。

 どりゃーと振り下ろした家から持ち出した短剣での一撃。


 それを躱す華麗な動きのスライム。

 おのれスライム!この私を愚弄するつもりか!


 そう思って何度も振り下ろすが一向に当たってはくれない。

 もうだめ、体力の限界。


 こんなん続けてたら、いずれ死ぬかもしれん……そう思った時、目の前のスライムが視界から消えうせた。

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