12話 知ってるか? 

 翌朝、冒険者ギルドに訪れていた。

 隣にはリドゥル。


 駆け寄ってきてくれたのは、ランさんだ。


「こちらが依頼書となります。ユリウスさんの任務達成度と貢献度を合わせると、ポイント的に受注はギリギリ可能ですが……相当危険ですよ……」


 依頼書には、オークゴブリンの巣の壊滅と書かれている。

 達成度は、成功率みたいなものだ。受けた数に応じて、どれだけの日数で終わらせたのか、キチンと終わらせたのかが記載される。

 貢献度は、冒険者ギルドの個人査定だ。これは人格査定と思えばわかりやすく、ゴミ拾いやスライム掃除などをすると上がるし、みんなが嫌がる仕事をすれば上がっていく。俺の場合、貢献度は高いが、達成度の数が少ない。

 どちらが重要ということでもなく、どちらも重要である。


 ランさんのおかげでソロでもポイントは上がっていたが、もっと強くなるためには、もっと稼ぐために上を目指していく。


「無理はしないよ。生き延びることが大事だしね」

「……わかりました」


 うう、と声を上げるランさん。

 よく見ると、実際に泣いている。こんなに感受性が豊かな人だっけ?


「それじゃあ、行ってくる」

「いこうユリウス。私が守る」

「リドゥル、君はお留守番だよ」


 すると、この世の終わりのような顔をした。

 え、そんな表情豊かだっけ?


「ありえない。今から魔物と戦うのに私を連れて行かないだなんて。そんなの、世界が許しても私が許さない」

「大袈裟すぎ。でも、ダメだよ。まだ体は治ってないでしょ。それに、一人で行かなきゃならないんだ」

「……どうして」

「リドゥルがいると安心するというか、緊張感が減っちゃうから」


 ソロの良さはヒリツキだ。自分だけしか頼れない。そのギリギリが強くさせてくれる。

 もちろん相応のリスクは背負う。

 でも、だからこそソロでやる。


 一番大事な最初だからこそ、舐めずに本気を出すのだ。


 能力を得たことで強くなれた。

 だからこそ、今ここで手抜きしちゃいけない。


「でも、ユリウスに何かあったら、私は耐えられない」

「絶対帰ってくるよ。逃げるのは得意だから」

「遠くから見守る謎の人物は?」

「ダメです」

「……はい」

「ギルドの待機所でのんびりしてて。ランさんが、個室を貸してくれるから」

 

 ギルドには、依頼者専用の待機所がある。

 簡易ベッドもあるし、のんびりできるところだ。


「……なら、ここにいる」

「よろしくね。――それじゃあ、行ってくるよ」


 二人に見送られながら、ギルドを後にする。


 だが俺は嘘をついた。

 本当の目的は、他にもある。


 でも多分、それを伝えると行くなって言われるだろうしな。


 ◇ ◇ ◇


 いつもの森から北へ進んでいく。

 道中、単身のゴブリンと遭遇したが、能力を使わずに駆逐した。


 簡易的に素材になりそうなものだけ小型鞄に収納し、前へ進む。


 ほどなくして、オークゴブリンの巣を見つけた。

 彼らは二種類の個体が混ざった亜種だ。

 おそらくどちらにも馴染めず、このふもとまで降りてきたのだろう。


 深呼吸してから、右手のロングソードを強く握った。

 今までは身軽さを重視して短剣だったが、ロングソードに変えてきた。


 強度も格段に上がったが、何よりもリーチの差が欲しかった。


 身体が震える。だが、ゆっくりと前に出た。


 一人は、外でだらけたように眠っていた。


 オークのようなデカい図体だが、風貌はゴブリンそのものだ。

 力が強く、魔法抵抗が高いので魔法使い殺しと言われたりもする。


「――悪いな。不意打ちで」


 寝ているところに問答無用で首を斬る。

 決して小さくない悲鳴を上げると、どこからともなくオークゴブリンたちが現れた。


 その数は十体。想定していたよりも多いが、だからこそいい。


 ――干渉インターフェア


「さて、練習台になってもらうよ」


 高鳴る鼓動を抑えながら、近距離で能力を使いながら、敵の攻撃を回避。

 着実にダメージを与えていく。


 単純ではあるが、なかなかに骨が折れる作業だ。

 彼らが持っているデカい棍棒に魔法は通っていないが、ただシンプルに力が強いため、直撃すると骨が折れてしまう。


「ギャギャギャ! ギャ!?」


 だからこそ、インパクトされる瞬間に能力を使う。

 相手は驚きながら攻撃が止まり、何が起きたのかわからず死んでいく。


 この能力は先手こそすべてだと思っていた。でも違う。本来は反撃カウンター用なのだ。

 効果時間に差があるからこそ、距離を詰めて、ここぞというときに使う。


 ――ああ、楽しいなァ。


 

 気づけば死体の山の上に立っていた。

 ここまで没頭したのは初めてかもしれない。息を整えて、静かに聞き耳を立てる。

 魔力感知も可能だが、魔物は魔力ゼロでも一撃を加えてくるやつがいる。油断せず、その場から動かず確かめた。


 どうやら打ち損じはいないようだ。

 

 ふうと肩で息を整えてしゃがみこみ、足を休めようとしたが、そこでほんの少しだけ空気が揺らぐ。


 どうやら俺の勘は当たっていたらしい。


「出てこいよ。今、俺は感度がいい。隠れててもわかってるぞ」


 何もない木に向かって話しかけると、思っていたよりもすんなり男たちが現れた。

 それぞれが顔にフードを被り、右手には剣を持っている。


 ザッと見える数は五人だが、隠れているヤツもいるだろう。


 冒険者には見えない。おそらく手練れだ。


 そして間違いなく、奴隷商人の差し金。


 これこそが俺の本当の目的だった。


 もし奴隷商人が、俺たちを監視していたら?

 

 秘密を探るため、追っ手をつけるだろう。


 だがリドゥルと一緒にいるときに手は出してこないはず。

 なぜなら、彼女を傷つけたくはないはずだ。ボロボロだったはずのダークエルフが歩いている。

 彼らからすれば、そのまま手に入れたい。


 でも主人は? 多少傷つけても構わない。むしろ、痛めつけたいだろう。


 じゃあいつにする? どのタイミングがいい?


 そう思っていたら、一人で森の奥深くへ進んでいく。


 やがて、魔物と戦い始める。パーティー用をソロで、魔力を使って、剣が血油で覆われていく。


 今か? 今しかない。



 そう、考えるのが当然だ。


 顔を覆っている可能性も考慮していたが、的中してほしくはなかった。

 これで難易度が上がる。けれども、俺はいたって冷静だった。


「なあ、知ってるか?」


 俺は、奴らに問いかけた。

 

 これ以上は言わない。言っても、意味がない。


 気づけば口角が上がっていく。


 能力をもらってから、能力を使うと。



 ――軽い興奮状態になるんだよ。



「かかってこいよ。俺みたいな雑魚冒険者に怯えずにな」

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