2-4.税務署長就任のあいさつで参りました~

「組長!例の税務署長があいさつしに来ました!」


「···入れ」


「失礼します!おい、コウ。くれぐれも失礼ないようにな」


「わかってるって。ここまでありがとな」


「···ホント、変わってんなぁ〜。終わったら外まで案内するからな」



 ユミの案内で組長の部屋まで来た。さあ、どんなやつが組長なんだ···?


 扉が開くと、中はそこそこな応接セットにそこそこ立派な机がある部屋だった。オレの署長室よりちょっと狭いぐらいかな?


 そして机で仕事をしているのが組長だな?


 ···すんげえ女性だったわ。上半身きれいに筋肉あるぞ?さすがに男ほどとはいかないものの、かなり鍛えられている。そりゃ王国軍とタイマンできる組織の長だからな。腕っぷしもすごいって事だろうな。



「あたしの予想通りだったね。思ってた以上に早かったけどな」


「初めまして。オレはコウ。ここを管轄する税務署長だ。今日は就任のあいさつで参った次第だ。今後もよろしく頼むぜ」


「あたしはレイ。このスラムの組長やってる。立ち話もなんだ。そこに座りな。ユミ!茶を用意してくれ!」


「わかりました」



 レイ組長に誘われて、オレたちは応接用ソファに腰掛けた。···意外と座り心地がいいぞ?これ、どこで売ってんだ?経費で署長室に入れたいぐらいだぞ。


 そしてユミがお茶を持ってきてくれた。オレはすぐに・・・そのお茶をいただいた。



「へぇ~!アンタ、度胸あるな」


「ん?どういう事だ?」


「毒が仕込んでないかを疑わないのかい?」


「オレを殺すつもりならここでやらんだろ?死体処理めんどいだろうしな。だったら腕利きを使って外で暗殺したほうが手っ取り早い。それにユミは『こちらも筋を通す』って言ってたから、毒なんて入れないってわかってたさ」


「ははは!なるほどねぇ〜。これまで相手してきたバカどもとは一味違うようだね。気に入ったよ。でだ···。ただあいさつに来たわけじゃあないんだろ?用件はなんだ?」


「そうかすなって。レイも忙しい身だろうけど、お互いのことを知ってから本題に入った方がいいと思うけどな」


「ほう?まぁ、忙しい身なのは当然だけど、多少は余裕がある。お互い情報交換って事かい?」


「まぁその通りだな」


「こっちは話すようなことはないね。情報は命に等しい。対立相手に教える気はないね」


「そういう意味じゃねえんだけどなぁ〜。じゃあオレから情報を提供するか」


「署長?何を話す気です?」


「いいからここは任せとけって。まず、オレの立場からすると、ここのスラムの人たちから住民税を取りたいってのがあるんだ」


「アンタ、バカか?」


「最後まで聞けって。もちろん、今日ここを視察して、それが現状のままなら・・・・・・・不可能だってのは十分にわかったさ」


「···何が言いたい?」


「ここの収入って何なんだ?オレが就任前は税務署うちを襲って資金集めしてたみたいだけど?」


「明かすわけねえだろうが?なめてんのか?」


「そう言うだろうと思ってた。ただの確認だ。そうそう、うちへの集金・・はもうやめておいたほうがいいぞ。全部撃退してるから、人的資源のムダ遣いになってる。別の事業に回したほうが効率いい」


「いい収入源だったんだけどなぁ〜。···あんたのおかげでこっちはかなり厳しい財政状況だ。命を落とした者もいる。···どう落とし前つけんだ?」


「申し訳ないが、それについては正当防衛だから謝罪はできない。レイもそうだろ?襲われたら反撃するだろ?」


「もちろんだ」


「うちだってそうさ」


「だが、あんたたちが集めた金は税金だ。本来、税金は『富の再配分』って事を忘れてやしないかい?」


「ほう!?税金の使い道の本質を知ってるか!」


「当たり前だろ?こう見えてもあたしは元王城勤めだったんでな」


「···えっ!?マジで!?」


「知らねえのかよ?」


「···おい、スタイア?マジで?」


「初耳ですね」



 なるほどな···。レイも訳ありって事か。王城勤務経験があれば、国の仕組みなんてのも理解してるって事だ。


 だからだな。王国軍の情報を知ってるから、その裏をかけるってわけだ。ただの賊じゃあ、そんな立ち回りなんてできやしないからな。


 多分明かさないだろうけど、おそらくレイは王国軍出身だな。鍛えられてるって事は内勤ではないだろうし。


 どうしてスラムに来たのかはよくわからんな···。おそらくその理由がこの『勝ち組』を組織した理由なんだろうけど···。探り入れてみるか。



「話は終わりかい?」


「いや···、最後に聞かせてほしい事がある。場合によっては···、援助・・できると思う」


「署長?何考えてるんです?そんな権限はないですよ」


「スタイア、ちょっと黙ってろ。これは交渉・・だ」


「援助だって〜?ははは!そこの女が言ってる通りだぞ!たかが一つの税務署に、何ができるって言うんだい?」


「やってみなくちゃわからんさ。できるかもわからんけどな。だが、やってみる価値はあるさ」


「言うだけならタダだけどね。で?何が聞きたいんだい?」


「···どうしてスラムに?」


「···答えられないね」


「そうか···。どういった内容で王城からスラムに来たのかがどうしても気になってね」


「そんなの気にしてどうするんだい?」


「いや、理由によってはレイの味方になってもいいって思っただけさ」


「理由によってだって?」


「そう。例えば···、汚職が多すぎてそれの被害者になったとか、スラムに対する王国軍の横暴に頭にきたとか?」


「············」


「おっ!?もしかしてビンゴか?」


「···あんた、何者だい?」


「ただの税務署長だが?」


「そんな話じゃない。どうして気づく?」


「スラムってのはワケアリな者たちが集まる場所だ。って事は、ここの事を知ってる事と、王国軍が手も出せない軍事力を持ってるということは···、単に自衛ってレベルじゃない。内戦起こして国家転覆を狙えるってわけだ。となると国に恨みがある。だいたい恨みってのは汚職絡みがほとんどだ」


「···参ったね。ほぼ当たりだ」


「内容のいかんによっては援助ってのはな?資金稼ぎの方法を教えるって事だ」


「それが援助だって?」


「ああ。直接税金で援助はできないが、コンサルティング・・・・・・・・はできる。それで稼いでもらえれば税務署うちにも住民税が入る。一石二鳥だろ?」


「ほう?いいのかい?資金稼いだら武器買うんだぜ?内戦が早まることになるが、それでもいいんだね?」


「うちは税務署だ。ちゃんと税金納めてくれるならそれでいいさ。治安はうちの管轄じゃない。それに、一斉検挙とかの動きがあれば伝えてもいいと思ってる」


「本気かい?犯罪の片棒担ぐことになるよ?」


「うちとしては『正しく税金を納めてる連中を正当な理由なくしょっぴかれたら税収が落ちる』って抗議するんでな。もちろん正当な働きをしてもらうのが前提だ。犯罪による収益だと、かばいきれんしな」


「ははは!税務署がグルになるってかい!?面白そうだね。試してみる価値はありそうだ」



 こうして税務署うちはスラムと手を組むことになった。とんでもない事態にしてやったが、そもそもこの世界は常識が通用しない。


 だったらオレも非常識な事をやってやる!それだけさ。

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