1-9.なんでオレが魔獣退治までやらにゃならんのだ!?

「グルァアアアアーーーー!!」


「···うわぁ」


「すごく···、大きいですね。さあ、ちゃっちゃとやっちゃって下さい。私はこいつを縛っておきますから」


「やっぱりオレがやるのね···?」


「なに当たり前なことを言ってるんですか?いいから早くして下さい。残業代がかかると総務部からクレーム来ますよ?」


「わかったよ!やってやる!やってやるぞーー!!」



 魔獣のすみかに逃げ込んだ脱税冒険者を捕まえようとしたら、ブルーベアーというこの周辺で最も凶悪な魔獣一家がいたんだ。今目の前はお父さんらしい。妻と子どもがやられてるのを見て、それはそれはもう超を通り越して激おこぷんぷん丸でしたよ···。額に青筋いっぱい出てますもん···。まるで某龍の玉を集めるアニメの戦闘シーンのようだわ···。家族全員やられたらそうなるか。


 ちなみに脱税冒険者が熊五郎と名付けていたこのお父さんクマ、体長3m近いんですけど?平屋の家の屋根の高さぐらいあるからデカ過ぎるんですけど!?


 こんなヤツ相手にタイマンなんてできるか!お得意の水鉄砲で倒してやる!


 そう思って水鉄砲を最高威力でぶっ放した!しかし!?



「フンッ!!」



 な!?なんと!?右腕で顔をガードしやがった!!多少ダメージあるようだがもしかして、オレが顔を狙ったってわかってた···?


 まずいな···。一撃必殺はムリって事だな···。だからって接近戦なんてまずムリだ!


 どうする···?あんまり悠長に考える時間はないぞ!?なんとかクマの動きを止めて、剣で首か心臓を突き刺すしかないのか!?そんな事を考えてたら熊五郎が襲い掛かってきた!!



「に、逃げるんだよぉーーー!!」



 オレは足腰に身体強化魔法を施して全速力で逃げ出した!すると、同じ速度でついてきやがったぞ!?


 藪の中に飛び込んだり木の上を跳んで渡ったりしたけども、つかず離れずについてきやがったんだ!


 まさかコイツ!?オレがスタミナと魔力切れを狙ってやがるのか!?だとしたらこのままだとジリ貧だ!


 しかもヤツはオレがすみかから遠く離れないように誘導してやがった!このままスタイアほっぽり出して逃げようとしたのに、それをさせないだと!?


 本気でオレを狩るつもりなんだな···。となると、やっぱりタイマン勝負するしか手がなさそうか···。できるのか?いや!やるしかない!


 気が付いたらすみかに戻されてしまっていた···。ここで狩るつもりだったようだな。


 ···よし!だったらこれでいこう!相手が魔獣だから、この攻撃は問題ないな!


 オレは剣を抜いた!···うぉっ!?け、剣ってこんなに重いのかよ!?腕がプルプルしてるわ···。


 そんな情けないオレの姿を熊五郎は見てニヤッってしやがった!完全になめられてるな···。いや、そりゃこっちは素人ですし···。


 だからこそ油断していたんだ!オレは水鉄砲を放った!目標は···?



 チーーーーン!!



「フギュルワァッ!?」



 ···そう。あそこ・・・だ。男の最大の弱点です。やったオレ自身もこの攻撃は反則だなぁ~って思いましたよ?でもな?こっちも必死なんだよ!?


 想定通り熊五郎は動きを止めて股間に両手を当てて前に倒れようとしていた。ちょっと卑怯だけど今だ!攻撃の最大のチャンス!


 オレは剣を突く体勢で突っ込んでいき、心臓を突き刺してやった!オレの力では貫けなかったけど、熊五郎の体重も乗ってあっさりと胸を貫いてやった!!



「はあっ!はあっ!な、なんとか倒したぞ···」



 人間、初めてのことでも必死になればなんとかなるもんだなぁ~。凶悪なクマを5頭も倒しちゃったぜ···。


 さあ!こんな場所からとっととおさらばするぞ!早く帰ってあの食堂でビール飲んで帰って、ゆっくりふとんで寝たいっ!!


 オレは振り返ってすみかの穴へ向かった。その時だ!



「グルァアアアアーーー!!」



 後ろから熊五郎の叫び声が聞こえたんだ!どうしてだよ!?心臓潰したのになんでまだいきてやがんだよ!?



「おい!?さっきの魔獣、まだ生きてやがるぞ!?心臓突き刺したのに!?」


「ブルーベアーは心臓が左右に1つずつあるのですよ」


「なんだって!?さっき死に物狂いで急所刺したってのに、もう1回やれだと!?あんだけ荒れ狂った状態のヤツだぞ!?」


「でないと我々が死にますね」


「なに冷静に言ってんだよ!?お前も命ヤベーんだぞ!?」


「そうですね。ですが、私に戦闘能力はありません。ただの秘書ですから、ジタバタしてもどうにもなりません。署長に頑張ってタイマンしてもらわないと」


「ああ!もうーー!!人間、死ぬ気でやりゃなんとかなる!やってやる!やってやるぞーー!!」


「その意気です。ガンバ」



 ···延長戦やることになってしまいました。引き分けにして帰りたいけど、そうは問屋が卸さないようだった。


 今回はさらに最悪なことに、剣が手元にありません···。剣はどこにあるか?と言うと、熊五郎の胸に刺さったまんまなんです···。


 こうなると、オレの攻撃手段は水鉄砲しかないんですよ···。残り魔力もわずかなので、撃ててあと4発が限界です···。


 疲れ果ててるので逃げ回ることもできましぇ~ん···。なので、ここから狙撃で倒します。これでダメだったら、もうゴールしてもいいよね?


 熊五郎は心臓を一つ潰されたせいか、荒れ狂ってるものの動きが非常に鈍い。今のうちに機動力を削ぐ!


 1発目の水鉄砲は右足。これで動きが取りにくくなった。


 2発目は撃たれた右足を押さえようとした右腕、3発目は左腕だ。これで熊五郎は腕で防御もできなくなった。


 そして最後の4発目!狙うのは首だ!どんな生物でも、首が切れたら確実に死ぬ!···とこの時は思ってました。後で知ったんだが、アンデットってヤツは元から死んでるから大丈夫だそうで···。


 話は戻して、オレは残る魔力のすべてを振り搾ってこの1発に賭けた!



「うおおおーーー!!」


「(ザシュッ!)グァアアアーー!!」



 渾身の一撃が熊五郎のクビを撃ち抜いた!こ、これで···、終わったぁ~。



「はあっ!はあっ!な、なんとか倒せた···」


「さすがです、署長。それでは解体して換金できる部位のみ持ち帰りましょう」


「はあっ!はあっ!そ、そうだな!ちょっとしたお小遣いになるしな!」


「いいえ、国庫・・に入ります。我々は公務員・・・ですから」


「············」


「何をボーッとしてるのです?早くしないと、血の匂いを嗅ぎつけた魔獣が集まってきますよ?」


「···やってられるかーーー!!」



 結局は解体していると残業代が発生してしまうので、換金の金額と残業代を天秤にかけたスタイアは帰ることを選択した。


 ってか、もうそんな解体なんてしてる体力も気力も魔力もないんだけどな···。グロッキー状態でふもとに戻ったんだよ。憲兵が心配そうな顔してたけど、これは本来お前らの仕事だからな!!文句言う元気もなかったから言わなかったけどさ···。


 その日はなんとか終業時刻に帰ることができた。脱税冒険者は憲兵に引き渡して、オレたちを馬車で送ってくれたよ。


 仕事帰りにフラフラな状態でいきつけの食堂に入り、お気に入りになってしまったビールである『ユウヒ アルティメットドゥラァアアィイ!!』をしこたま飲んで、泥酔状態で家に帰ってすぐに寝た。翌日は休みにしておいて良かったわ···。



 2日後···。



「おめでとうございます。署長の奮闘のおかげで我が署は税収ワースト1から3に上昇しました」


「···あっ、そう」


「税収が上がったことで、国からボーナスが出るとのことです」


「へぇ~!そりゃあ、みんな喜ぶな!」


「いえ、喜びません。むしろ嫌な顔をしています」


「へ···?なんで···?」


「所得が上がると来年の住民税が上がるからです。それにボーナス支給の手続きで『余計な仕事が増えた!』と総務部からブーイングが来てます」


「············」


「みんな、やる気ないんじゃないんです。税金対策で残業代欲しくないだけです。上がっても税金でほとんど取られますから」


「···意味ないじゃん」


「ですので、順位上げるならトップ3入りしないと手取りが増えません。さらに署長には命張って・・・・頑張ってもらって、我々の手取りを増やして下さい」


「···これ以上やってられるかぁーーーー!!」



 ホント、この国っていうかこのエーレタニア!もう嫌だーーーー!!




 ···ここは国の某所。いわゆる暗部。



「税務署長が交代して厳しくなったですって?」


「へい。いつも襲撃して巻き上げてましたが、最近は警備が分厚くて巻き上げれません!」


「フンッ!やっかいなヤツが来たものね···。署長の名は?」


「確か···、コウっていう貧弱なヤツです。水系の魔法が得意らしいっす」


「ふ~ん···。もしかすると、ここに来るかもしれないわね···。場合によっては···、戦争するかもしれないわね」


「ま!?まじっすか!?」


「向こうの出方次第よ。こっちも大義名分はあるんだから···。好き勝手させないわよ?」


「へ、へい···」


「でも、来るならお迎え準備をしないとねぇ~。ちょっと忙しくなりそうだわ」



 この後、国を2分する大事件に発展するとは、コウはこの時思っていなかったのだ···。



    第1章   完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る