1-8.命がけの税金徴収!

「ここから先は我々では行くことができません。どうかご武運・・・を」


「···マジかよ?」



 脱税容疑の冒険者が逃げ出した先は、なんと魔獣のすみかだった。魔獣を手なずけてるそうで、行く手を阻まれて憲兵が引き返してしまったんだ。


 んで、オレが来たってわけ。···絶対おかしいだろ!?オレ、武器なんか使ったことないんだけど!?魔法はちょっとだけ使えるけどさぁ!



「さあ、署長。行きますよ」


「待て待て!なんでスタイアまで一緒についてくるんだよ!?お前、実は強いのか!?」


「もうお昼過ぎなのに、なに寝ぼけた事言ってるんですか?寝言は寝てる最中に言ってください。ただの秘書が、強いわけないじゃないですか?」


「だったらなんで!?」


「署長の行動を記録するためです。戦闘での経費を脱税犯に追加請求するためですが?」


「ってことはだ。オレは無力のお前を守りながら魔獣に立ち向かえと?」


「···ガンバ」


「···帰らせていただきます」


「そうはいきません!我々も手を焼いてるのですから、ここで一気に倒しましょう!我々も楽に・・・・・なりますから!」



 憲兵が無茶苦茶な論理を言い出し始めたぞ!?オレは逃げ出したものの、しかしまわりこまれてしまった!?あと3回逃げたら逃げ切れ···、そうにないな···。


 退路を憲兵に阻まれてしまったので、前へ進むしかなくなってしまった···。どうして···、どうしてこんな事に···?



 退路を塞がれ、前へ進まざるを得なくなったオレ。そもそもただの一般ピーポーな税務署長を前面に押し出す憲兵ってどういうことだよ···?おかしくね?オレ以外が全員真面目な顔で言ってくるものだから、オレがおかしいように思われてるぞ?


 何が憲兵だよ?ただ武装して立ってるだけじゃねえか!まともなのはオレだけか!?


 はぁ~~、グチを言っても仕方ないのはわかってるけどさ?それでもここまでおかしいと言わずにはいられんぞ···。



 山道を歩くこと30分。歩くって言っても整備された道ではなくて獣道だけどな。そして魔獣のすみかっぽい場所が遠目で見えてきた。


 すみかは切り立った崖の横穴だった。その穴の前にいるのは濃い青色の毛皮のクマだ。4頭いやがるな···。巨大な親1頭と子ども3頭だ。


 今はお昼寝タイムのようだ。ゴロンと寝ていた。そして逃亡した冒険者は···、



「マジかよ···?あんな巨大なクマのおなかの上で寝そべってやがるぞ?」


「素晴らしい才能ですね。あれはブルーベアーという、この辺りでは最も凶悪と呼ばれている魔獣の1種ですね。たいていの冒険者では歯が立たずに『出会えば即死』と恐れられています。憲兵ではまず歯が立たないですね。軍を投入するレベルです」



 とんでもねえ光景だな···。クマのおなかの上で寝るって···。子どもが親のおなかの上で寝るってのはほのぼのとした光景だが、相手はクマだぞ!?



「···おい?そんなヤベーやつ4頭をオレに相手しろってか?」


「はい。ちゃっちゃと片付けてください。夕方には署に戻らないと残業代が発生しますから」


「残業代うんぬんの前に、オレの命がヤバいんだけど?」


「やってもいないのにもう死ぬんですか?いいからちゃっちゃとやって下さい。その上で負けそうなら死ぬ気になって下さい」


「無茶苦茶だろうが!?負けって、それは『死』と同じじゃーーー!!ああもう!やってやる!やってやるぞーー!!」



 一応腰に剣はつけてるけどさ。今のオレにとっては剣なんて飾りですよ。偉い人にはわからんだろうがな!


 って、今のオレの税務署長って偉い立場になるのか?オレ自身がわかってないし、偉い人がこんな事するわけないと思ってるんだが?


 まぁ、そんなのは後で考えるぞ!こんなもの振り回したことねえから接近戦は無謀すぎるな!まずは水鉄砲最大出力で遠距離攻撃だ!



 バシューーン!バシューーン!バシューーン!



 とりあえず子どものクマの頭を狙撃してやった。魔法だから、ちょっと狙いが外れても飛んでいく道中で軌道修正してくれるのはありがたい。


 水鉄砲は子どものクマの額か口の中に当たった!衝撃でひっくり返ってしまったが動く気配がないので、やったっぽいな。


 その時だ!親のクマが起きた!腹の上で寝てた冒険者は転がり落ちて目が覚めたようだ。


 すぐに子どものクマがやられたことに気づいた!2本足で立ち上がり、超激おこな顔で周囲を警戒し始めたぞ!?冒険者も状況を把握したみたいで、すみかの穴に逃げ込みやがったな···。


 ヤバいな···。ここにいたらいずれ気づかれるぞ?とりあえず木の上から狙撃再チャレンジしてみるか?とても接近戦で勝てるとは思えんからな!



「スタイア。木の上から狙撃する」


「了解です。では先に私がそこの木に登ります。···下から覗いたら私が・・署長を殺しますから」


「見ねえよ!さっさと上がれ!気づかれちまうだろうが!?」



 覗いたらって、お前ズボン履いてるだろうが!?スカートだったら良かっ···?いいえ、なんでもありません。ちなみにオレは白が好きです。小さなリボンがついてればなおいいです。何が?とは言わせんなよ?言わなくてもわかるだろ?


 スタイアが登ったのを確認後、オレも登った。ちゃんとスタイアから確認とってから登ったぞ。木登りなんてした事なかったけど、まだ使いこなせてないオレの身体強化魔法でなんとか登れたな。


 木の上から様子を伺うと、まだ親クマは警戒したままだった。オレがいた場所を重点的に見ていて···、こっちにゆっくり向かってきやがった!



「気づいた···?いや、だったら走ってくるな。近づいて確認しようってか···」


「すでに有効射程範囲ですが、撃たないんですか?」


「ちょっと博打だが、どうせ近づいてくるなら近い位置から撃てば威力も大きくなる。親だと防御力高そうだからな」


「なるほど。やればできるじゃないですか」


「こっちも必死なんだよ!?あれこれ考えて当然だろうが!?」



 その時だった!オレの叫びが親クマに聞こえてしまったようだ!見ていたらクマの頭の上に『!!』が点灯したぞ!?某かくれんぼゲームかよ!?



「グルァアアアアーーーー!!」


「やっべ!?気づかれちまったぞ!?」


「もう、何してるんですか···?自業自得ですね。ちゃんと汚名挽回して下さい」


「お前のせいだろうが!?オレのせいにするんじゃねーよ!?」



 親クマはものすごい勢いで走ってきた!そしてすぐにオレたちがいる木の下までやってきた!そして···!?クマが登ってきたぁ!?



「み!?水鉄砲!!」


「グァアアアアーーー!?」



 とっさに水鉄砲を放ってクマを地面に落としてやった!威力調整とかまったくしてなかったので極太の水圧カッターの威力で撃っちまって口から貫通させてしまった。あぁ~、そう言えばクマって木登り得意だったっけ?完全に忘れてたわ···。



「お見事でした。遠くからの狙撃ではなくてゼロ距離射撃、いいセンスです」


「はあっ!はあっ!マ、マジで怖かったーーー!!」


「さあ、あとは穴に隠れた冒険者を捕縛しますよ。さっさと降りて下さい」


「···お前って、まったく動じないな?」


「動じて状況が良くなるんですか?いいからさっさと降りて下さい。残業代が発生しますから」


「···へいへい」



 クマは身動きしてないから大丈夫のようだ。ホント、めっちゃ怖かったぁ~。


 さて、オレとスタイアは魔獣がいなくなったすみかの穴へ向かった。そこには怯えた冒険者がいた。



「な、なんなんだよ···?オレが何したってんだ!?オレの家族・・を殺しやがって!!」


「家族って、魔獣だろうが?しかも超凶悪だろ?」


「だから何だってんだよ!?オレが長年お世話になった家族だったんだぞ!?半年前にお子さんが生まれて···、一緒に祝ったのに···」


「お前が脱税してここに逃げ込んだのが悪い。さて、逮捕はふもとにいる憲兵がするから、お前をそこまで連行するぞ」


「そんな事はさせんぞ!」



 そう言って冒険者は小さな笛を取り出して吹いた!···え?聞こえないんですけど?超音波?


 すると、遠くから木が倒れるような音が近づいてきた!



「お前!?何をしたんだ!?」


「ははは!熊五郎を呼んだんだよ!お前たちはもう終わりだ!!」


「熊五郎?もしかして···、魔獣に名前つけてたのかよ!?」


「当たり前だろうが!?家族同然の付き合いだからな!エリザベス···、トンヌラ···、マリー···、クロスケ···。仇はとってもらうからな···」



 なぜに親父だけ日本っぽいんだよ?コイツのネーミングセンスはよくわからんが、ここからが最もヤベー戦いになりそうだぞ?

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