1-7.冒険者ギルドに査察へ行くと···?

「おい、テメェ!?どんだけ税金ふんだくるつもりだ!?」


「い、いや···。国が決めてますんでね」


「先日に凶悪な魔獣に襲われて命からがら逃げてきたんだ!防具もボロボロだったから買い換えたんだぞ!経費だろうが!?け・い・ひ!言葉の意味がわかってんのかぁ!?」


「その経費だけどさ···。あんた何回買い換えてんのさ?去年だけで53・・回だぜ?ほぼ毎週じゃねえかよ?金額にしたら報酬大幅に上回ってんだけど?」


「それがどうした!?防具は命を守るためのもんだから、悪くなったら買い換えは当たり前だろうが!?」


「確かにそうだけどさ。あんた買い換え頻度が突出し過ぎなんだよ。だから···、脱税・・の疑いがあるのさ」


「なぁ!?」


「確かに冒険者は武器防具は経費として報酬から相殺した金額を所得として税金が計算される。あんたを信用して計算するのはギルドのお仕事だ。もちろん経費が報酬を上回ることもあるさ。でも···、あんたの場合はいくらなんでも多すぎ。もし本当なら命を捨てに行ってるも同然だぜ?あんた、プロの冒険者として恥ずかしくない?」


「ぐぬぬぬ···」



 今日は冒険者ギルドに来ている。本当なら異世界に来たら冒険者って憧れの職業だと思うんだよ。仕事内容は討伐クエストからただの使いっ走りもあるけどな。


 でだ。税務署長であるオレが冒険者ギルドに来た理由は?と言うと、オレも冒険者!···ではなくて、冒険者から納められる住民税におかしな点があったので、今日は秘書のスタイアと一緒にやって来たんだ。今はギルドに個室を用意してもらって順番に尋問している。ちなみに憲兵も別室に来てるぞ。


 なんでオレ自ら乗り込んだか?って?そりゃ···。



「ちっ!バレちゃあ仕方ねえな!」


「白状したな。じゃあ追徴課税として300万ジールだ。端数は切り捨てておいたからありがたく思えよ」


「はっ!税金なんざ払うもんかよ!くらえ!!」



 ほらな?逃げるじゃなくて攻撃してくるんだよ。これじゃあ普通の署員じゃあ怖すぎて対応できんわな。



 バーーーン!!



「ぐわっ!?テ、テメェ!?」


「じゃあ身ぐるみはぐぜ?水鉄砲!」



 オレは防御魔法としてバリア魔法を頑張って作り上げた。ある程度の攻撃は弾けるんでな。こうして煽ってやって実力行使した連中に使ってる。


 そして水鉄砲。ウォータースプラッシュだと水量と圧力が高すぎるのが欠点だった。そこで水鉄砲にして水量を減らしつつ、圧力を高めた魔法を頑張って作り上げた。人相手なら弱めにするが、本気でやったら水圧カッターまでいけたわ···。今回は牽制目的だけどな。



「ぐわっ!?な、なめやがってーー!!」


「ウォーターハンマー」



 ガンッ!!



「んがっ!?···きゅう」



 ウォーターハンマーも、弾力ある仕様にしたので、横っ面を思いっきり引っぱたいて気絶で済ませた。



「さすがです、署長。では家宅捜索と有り金の押収の指示出します」


「まったく···。武器防具の購入が『節税目的』とは思わなかったけどな」



 どうも武器防具を買って、その当日だけ短時間身につけて中古品扱いで売却してやがったんだ。キズない状態のいい装備だから、購入金額よりも多少減額程度で売却してたんだ。


 もちろんギルドには買った金額の領収書を出して経費扱いにしてやがったんだ。だから帳簿上ではこいつの所得はマイナスだったので最低金額の1000ジールしか払ってやがらなかった。確かに武器防具は経費だけど、これは節税・・のレベルを超えて脱税・・レベルだった。


 ···そう。ここのギルドにはそう言った不正をやってる連中がかなりいた。ほかの連中を尋問すると、『いい節税・・方法がある』って持ちかけられて広まったらしいな。さらには···、



「あんた、なんで同じ防具を20セット・・・・・・・・・・も買ってんのさ···?しかもかなり高額だぞ?」


「あぁ!?オレの体にフィットして動きやすいし、軽くて丈夫だからに決まってんだろぉ!?防具は命預けるもんだ!!」


「確かにお気に入りの防具だったらそうだろうな。だけどなんで今装備してないのさ?そしてこれ、有名な鍛冶師らしい『サ・ギシ』の製品だそうだけど?オレもチラッとだけ見たけども、実用じゃなくてどっちかと言えば芸術品っぽかったな。あれ、金持ちが玄関とかに飾るような観賞用だぞ?」


「それがどうした!?着用して使えば実用だろうが!?」


「それにしたって購入しすぎ。あんた···、転売・・してんだろ?」


「なっ!?」


「だろうなぁ~。実用じゃない防具を大量に購入して値切って、そしてほかで高額で売りさばいてるわけだ。『買い占めてる冒険者がいる』ってタレコミもあって裏取りできてるし、ちゃんと転売現場はうちの署員が確認したんでな。買い占めて正規ルートじゃ手に入らないから、倍以上値を吊り上げてるのも確認済みだ。えげつねぇぼったくりだなぁ~。一定金額以上の売買は商人許可証いるし、あんた売上税払ってねえだろ?」


「あ···、う···、お···」


「はいギルティ!じゃあ追徴課税1700万ジールね。温情であんたも端数切っといたから。ありがたく払ってな」


「払うわけねえだろうが!?なめとんのかぁ!?こちとら、魔獣退治でケガしてロクに稼ぎねえんだ!仕方ねえだろうが!?」


「だからって、定めたルール破っていいわけねえだろうが?正規で購入したい人たちの気持ちをテメエの身勝手で踏みにじりやがって」


「他人なんざ知るか!ボケェ!生きるために必死なんだよ!死ねやぁ!!」


「水鉄砲」


「ぐぁああああーーー!?古傷直撃ぃーーー!?」



 まさか異世界でも転売ヤー・・・・がいるとはな···。仕事に就けないからってルール逸脱していいわけねえだろうが。


 こいつら、頭悪いな。やっぱり入れ知恵したヤツがいるな?一人じゃなさそうだから、どうもブローカーがいそうな気配がするが、そっちは憲兵の仕事だ。オレが出る幕じゃねえ。資料は提供するけどな。



「署長のおかげで長年放置されていた案件が片付きました。これで署の収入···、ゴホン。税収が上がりますね」


「オレ、冒険者ってもっとかっこいい仕事だって思ってたんだけどなぁ〜」


「どういう想像をしていたのか知りませんが、冒険者は大半が『仕事がない人が行き着く先』ですが?腕っぷしが強くないと魔獣に食われますし、雑用も人手が足りないから・・・・・・・・・という期間限定雇用です」


「思いっきり派遣会社じゃねえかよ···」



 ここ、異世界なんだよな?ホント、ファンタジー感ねぇわ〜。



 今日の成果は21人逮捕。総額3900万ジールを家宅捜索で押収した。···どんだけ所得隠して払ってやがらねえんだよ?


 本来ならギルド側で対応して欲しいんだけどなぁ〜。受付嬢がかよわい女性だから、中々言い出しにくかったんだろうなぁ〜。だからってこっちの仕事を増やすのは正直勘弁してほしい。冒険者指導して守るのがギルドの役目なんじゃねえのかよ?


 あとは査察が来てると知って逃げ出した連中もいる。脱税容疑が固まってるので、一応指名手配扱いだけどな。何人かはヴェロッタにお任せしておいた。



 1週間後···。スタイアからこんな報告が来た。



「署長。先日の冒険者ギルドの指名手配犯ですが、厄介な場所に逃げたとの情報が来ました」


「厄介な場所?どこだよ?」


「魔獣のすみかです」


「···はぁ!?食われるだろ!?」


「どうも魔獣を手なづけてるそうですよ。憲兵たちが出動しても魔獣たちに追い返されたとか」


「マジかよ···?調教師の才能あるんじゃね?」


「かもしれませんが、このままでは家宅捜索して押収できません。我々が出動しましょう」


「···おい?」


「はい?いいからとっとと準備して下さい」


「ちょいと待てや!なんでオレが出動なんだよ!?憲兵でもムリだったんだろうが!?」


「税金を徴収するためですが?徴収するために税務署が出動するのは当然ですが?」


「そうだけど!命の危険がある場所に徴収に行けと!?署長自ら!?」


「はい。魔法が使えるなら大きな戦力です。署員は署長ほど使えませんからムリですし嫌がります」



 ···やっぱ普通じゃねえな。署長自ら魔獣のすみかに突撃って···。いくら仕事でもこっちの命がいくつあっても足りんわ!!

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