1-5.取立人による強制執行を立ち会うぞ!

「エチゴヤ商会!貴様らの入口はあたいが完全に包囲してやった!ムダな抵抗はやめて、おとなしく税金払えーーー!!お母さんは泣いてるぞーー!!」



 魔法のメガホンを片手に、お店の前で大音量で叫ぶヴェロッタ。その文言って、一昔前の立てこもり犯への投降を呼びかけるアレだわ···。


 ってか包囲ってヴェロッタ1人だけなんだけどな。ここの建物、裏口がないんで表しか出入りできないみたいだ。だからこれでいいのか?


 なぜか周囲には人だかりができていた。見せ物じゃないんだけどなぁ〜。



 さて様子を見ていると、入口の扉は固く閉ざされていて、へんじがない。ただの居留守のようだ···。


 にも関わらずヴェロッタは中に踏み込もうとせずに腕を組んで待っていた。···どういう事だ?



「おいヴェロッタ?なんで踏み込まないんだ?」


「督促の期限が昼だからな。あと···、5分で期限切れになるからそれ過ぎたら実力行使が思う存分・・・・にできるんだよ」


「···ニヤニヤしてるけど、ただ単に暴れたいだけじゃ?」


「んなわけねえだろうが!?立派な仕事だ!!あー、早く出てきて税金払わねーかなー?」


「後半は思いっきり棒読みじゃねえかよ···。思ってもいないことを言ったんだな」



 ある意味、『滞納した税金の取立て』っていう大義名分をもらって、堂々と暴れ回れるからなんだろうなぁ〜。


 そんなやり取りといろいろ考えてると、期限切れの時間になった!



「よっしゃーー!!それじゃあ『国に仇なす者として』強制執行する!とつげきぃーー!!」



 そう言ってる気十分のヴェロッタは、背中に背負っていた大ハンマーを前に構え、そして大きく振り上げて扉めがけてフルスイング!!



 ズドーーーン!!



 ···たった一撃で扉をぶち抜いてしまったわ。とんでもねえパワーだな。



 中に入ると、そこはもぬけの殻だった。無造作に木箱が置いてあったけど、全部空っぽだったわ。


 これ、夜逃げされたんだな···。



「あ〜、これじゃあ税金取れないじゃねえかよ···」


「はぁ?何言ってんだ?ここからが楽しいのによ」


「へ?夜逃げされてるのにか?」


「だいたい逃げられた後だぞ?ここからが楽しいんじゃねえかよ!」


「ヴェロッタ?どうする気だ?」


「追跡するぞ!あたいから逃げられたヤツはいねえからな!」



 そう言ってヴェロッタは建物内を歩き回った。そして、無造作に置かれていた木箱をどけた。そこには···、



「こ、これは···!」


「んな事だろうと思ったぜ。地下下水道を通って逃げたんだな。まぁ定番だな!行くぜ!」



 木箱の下に鉄扉があったんだ!どうやら地下下水道につながってるらしい。


 オレとヴェロッタは地下下水道に降りた。明かりはヴェロッタが魔法で光の玉を作ってくれたので問題ない。


 かなり広い空間だった。一段下に汚水が流れてるようで、さらに風が弱く吹いていた。思ってたほどニオイはないな···。元の世界だと硫化水素中毒で死亡事故が多いんだけどな。



「地下下水道は王家の逃げ道にもなってるんでな。町のガキどもの秘密基地もあるぞ。こんなかんじで人工ダンジョンになってんだよ」


「すげえなぁ〜」


「さてと···。足跡を見るとこっちだな。まだくっきりしてるから、通ったのは昨日か今日だな。行くぜ!」



 まるで某探偵のように状況から推理してたぞ···。ただの大ハンマーを振り回すだけじゃないんだな。ヴェロッタは交差点や地上への階段の場所では立ち止まって足跡を確認していた。


 そして···。



「ここから外に出たってか」



 下水道の出口から外に出た。と言ってもカギかかってる鉄格子の扉があるんだけどな。どうやらカギをかけ直してるようだった。今は閉まってる。



「おい?カギなんて持ってないぞ?引き返すか?」


「そんな悠長なことできるか!『実力行使』だーー!どっせーーい!!」


「ちょ!?」



 ドカーーーン!!



 ヴェロッタは大ハンマーを鉄格子の扉にぶち当てて、扉が吹っ飛んだ!



「おい!?何やってんだよ!?これどうすんだ!?」


「修理は後だ!修理代は巻き上げる税金に上乗せに決まってんだろ?」


「そんなのが通用するのかよ!?」


「···あのなぁ〜?壊さないと税金取れねえだろ?そもそも逃げずに払えば、この扉は壊す必要なんかねえんだ。わかるな?」


「···まあ」


「だから、逃げて壊さざるを得ない・・・・・・・・ものは、すべて逃げたヤツの支払いになんだよ!」


「もし家を壊したら?」


新築代・・・払うに決まってんだろ?」


「修理じゃなくて新築ぅ!?」


「もちろんだ!あたいが一番苦手なのが『力加減』なんだよ。修理できる程度じゃ済まないんでな。だからあたいが取立てに来ると、周辺住民が集まってあたいの攻撃の余波で家が潰れねえかなぁ〜?って見に来てんのさ」


「···タフな住民だなぁ〜」


「タフって、当たり前だろ?タダで新築にしてくれるんだぞ?逃げたヤツの補償で作ってるから固定資産税もかからないしな」


「···それはうますぎるな」


「だから滞納してるって気づかれたら、ご近所さんから即通報されるぞ。あたいが来るのを待ってるんだろうな」


「···怖ぁ〜」



 まぁ、ある意味ちゃんと納税しないとヒドい目に遭うってか···。五人組制度かよ···。



 話は戻して、ヴェロッタは追跡を再開した。って、屋外だから足跡は辿たどれないはずだけど?



「おいヴェロッタ?こっちで合ってるんだろうな?」


「もちろん!」


「足跡ないのに?」


「あたいのもう一つの能力で問題ないぞ?」


「へ?もう一つの能力?」


「そうだぜ!『ターゲッティング』ってんだ。ターゲットを見定めたらどこにいるかがわかるんだぜ。あたいは獲物を逃さない!」


「どうやって見定めたのさ!?」


「足跡だな。あれでわかんだよ。他のものでもいけるぞ」


「···犬かよ」


「···あぁ?なんだって?」


「スマン!悪かった!」


「···まぁいいか。どうやら馬車で移動してるっぽいな。走る速さじゃねえな」


「どうする?馬を用意するか?」


「そんな経費、誰が払うんだよ!?」


「じゃあ?」


「走るに決まってんだろぉ!!」


「マジで!?」


「ウソついてどーすんだ!?早く行くぞ!身体強化魔法を足腰に使えば楽勝楽勝!」


「オレムリ!」


「じゃあ署で待っててな!いっくぜーーー!!」



 ズドドドド!!



 ···そう言い残してヴェロッタはあっという間に見えなくなった。ありゃオレの脚力じゃムリダナ。


 しかし身体強化魔法か···。あんな超人みたいに魔法でなれるんだなぁ〜。ちょっと家で練習してみるか?


 そんな事を考えながら、オレは署に戻った。



 夕方···。



「帰ったぞ〜!大漁大漁〜!」



 ヴェロッタが満足げに戻ってきた。どうやら今日は迷わず帰ってこれたみたいだな。


 ヴェロッタの後ろには縄でふん縛られた男がいた。観念したようでおとなしかった···、というか怯えてるぞ?



 その後、エチゴヤ商会の会頭は身ぐるみ全部はぎ取られ、隠し財産全額没収と商会の建物が競売にかけられて、全額税金として納められた。足りない分は懲役でタダ働きで返すんだとさ。


 もちろんヴェロッタが壊した下水道の鉄格子の扉の修理代も上乗せされていた。巻き上げた金額からすれば大した額じゃねえけどな。


 金って、持ってるところにはあるんだなぁ〜。世界が変わってもこれは同じだった。もしかしたら、宇宙の真理なのかもな。


 本人は懲役20年プラス税金完済まで懲役延長だそうだ。相当な金額だから生きて出られるかわからんそうだぞ。税金関係は罪が重いんだとさ。

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