かけっこクラブ
霜月あかり
かけっこクラブ
ユウタは、町のはずれにある牧場で馬の世話を手伝っていました。
一番のお気に入りは、茶色の毛並みがつやつやした若い馬――「ハヤテ」。
朝、えさをあげると、ハヤテはくりっとした目でこちらを見て、鼻をすりよせてきます。
「おはよう、ハヤテ。今日も元気だね!」
ユウタの胸は、いつもぽかぽかあったかくなるのでした。
---
ある日の放課後。
ユウタはハヤテにひみつの遊びを持ちかけました。
「ねえ、ぼくらだけの“かけっこクラブ”を作らない?」
牧場の広場が、そのままレース場です。
スタートラインを決めて、
「よーい、どん!」
ユウタは全力で走り、ハヤテは軽やかに駆けだしました。
あっというまに差をつけられてしまうけれど、
風をきって走るハヤテの姿を見ているだけで、胸が高鳴ります。
---
でも、その日は少し違いました。
石につまずいたユウタは、地面にころんでしまったのです。
「いたっ……」
膝をすりむき、涙がにじみます。
ハヤテは走るのをやめて、とことこと戻ってきました。
ユウタの横にぴたりと立ち、
まるで「だいじょうぶ?」と聞くように、鼻でユウタの肩をつつきます。
「ありがとう、ハヤテ。負けてもいいや。きみといっしょに走れたら、それで楽しいんだ」
ユウタは、すりむいた膝を気にしながらも、心の中がふしぎなくらい温かくなっていました。
---
次の日も、その次の日も、ふたりの“かけっこクラブ”は続きます。
ユウタは走るたびに少しずつ速くなり、
ハヤテもそれに合わせるようにリズムを変えてくれるのでした。
走ること。笑うこと。転んでもまた立ちあがること。
その全部を、ハヤテと分けあえるから。
ユウタにとって、いちばん大事なチャンピオンは――いつも隣にいるハヤテでした。
かけっこクラブ 霜月あかり @shimozuki_akari1121
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます