4-2

 ユーリイ・アッシュホロー・ヴァルクレスト。

 それがユーリイのフルネームだ。


 長兄のアレクセイは、体は丈夫で、剣技も魔力も人並み・・・の才能を備え、少し狡猾で領地経営に秀でた、貴族の跡継ぎとして必要な資質は全て持っている人物だ。

 次兄のパヴェルは、非常に体が丈夫なことを除けば、全てが凡庸な人物であった。

 三男のユーリイは、剣技と魔力に特別優れた才能を持っていて、だれより素直で正義感に溢れた子供だった。


 それは、貴族家の三男としては、あまり求められない資質であった。

 ユーリイは、二人の兄を、兄として尊敬していた。

 だが二人の兄は、ユーリイの才に好意を示さなかった。


 アレクセイが、ユーリイの才を愛でていれば。

 もしくはパヴェルがユーリイを弟として愛していれば。


 ユーリイの人生は、違っていたかもしれない。

 余計ものとして、それほどの才があるのならば、その才で身を立てろと、追い出されることもなかったかもしれない。


 現・ヴァルクレスト侯爵は、三男を "いないもの" と扱い、成人する前に家から離した。

 それでも、ヴァルクレストの紋章のハイった短剣を渡し、もしもの時は名を使うことを許し、身を立てるために必要な費用──見習いとして最長である一年分の賄い金を持たせた。


──僕は、余計ものだ。


 14歳のユーリイは、それまでの人生を父と二人の兄の関心を買うことに費やしてきた。

 家を出された日は、その全てを否定された日だった。

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