25. 突破口
「あるま?、晩御飯、外に置いておくわよ」
今日もお母さんは早く帰ってきてくれて、ご飯を作ってくれていた。いつもは私が全部やっているのに、忙しいお母さんの手間をとらせてしまったことにすごく申し訳なくなってくる。
あれから数時間、なにをやるにしても手がつかなくて、ずっと位置情報アプリの画面に張り付いている。
「……なにもないな」
彼女自身、みりに依存していたことは言うまでもなくわかっているが、
「…いざ本当にいなくなったら、ここまでなにも出来なくなっちゃうなんて…」
今は、夜の八時。みりがいなくなってから三日が経った。警察の方でも捜査が進んでいるようだが、まだ発見には至っていない。私は、どこかで、みりの居場所が映らないかを期待してしまっている。
「でも…そんなこと、あるわけないよ…」
そこで、反応があった。これまで途絶えていた位置情報が、急に動き出したのである。
「!!!…」
私はその画面をすぐさまスクショして、後にそれを提供できるようにしたのに、そこがどこなのか、それを確かめる作業に入っていった。
「これは…確か…」
位置情報が指していたのは、私たちが何回か通ったことのある道の脇にある、大きな家だった。
「この家は…もしかして、黒百合さんの家?」
その家の住所を、部屋の電気をつけて、紙にメモをし始めた。
「絶対に、迎えに行く、助けに行く、誰にも、奪わせなんてしない!」
数日間、光を失っていたあるまの目には、今確かに、光が灯っていた。
「私ができることなんてないって?、私は無力だって?、そんなの知らない、私には何にも出来ないのだとしても、どうにかしたいっていうこの想いは変えられない。運命が私からあの人を奪おうって言うのなら、その運命を捻じ曲げてでも、絶対に助け出す、みりが生きてくれるのなら、世界中の人が死んでも構わない。」
みりが行方不明になって二日。あるまの証言から、事件性の高い誘拐事件の可能性があるとして、警部があるまに話を聞きに来ていた。その過程で、
『小さなことでもいい、何かわかったことがあれば、この電話番号にかけてほしい、情報提供を待っている』
彼女は、登録していた電話番号に、すぐさま電話をかけた。
「もしもし、先日のことでお伝えしたいことが」
それから、みりのスマホ入れていたエアタグが反応して、どこにいるかがわかったこと、そしてそれら示した住所を、その警部の人に伝えた。すると、
『情報をありがとう、もう大体目星はついていたんだがね、確証がなかったんだ、ありがとう、感謝する』
「絶対に、無事に助け出してください」
そこで通話を終え、数日間出ていなかった部屋を出て、お母さんにも話をした。それから、かれこれ入れていなかったお風呂に入って、ひどい状態だった肌のスキンケアをすまして。
「…待ってて、みり」
小さくそう呟いて、また部屋の中に入っていった。その目は、いなくなることの不安と恐怖に打ちのめされたものから、強い決意に満ち溢れた目へと変わっていた。
あれから二日後、ついに警察の人が家に対して突入することが決まった。令状を取ったり手間取ることにはなったが、やっとだ。やっときたんだ、この時が…
「…怖い」
もちろん不安だった、もしかしたら、もうみりは生きてないんじゃないかとか、もう、相手のものになってしまってるんじゃないか、とか。不安感は尽きない。でも、
「先輩なら…きっと大丈夫ですよ」
「元カノとして言わせてもらうけど、信念は堅い方よ、だからもし黒百合さんに迫られていたのだとしても、そう簡単に靡いたりしないわ」
雫ちゃんと、みちるちゃんが一緒にいてくれた。警察の人の突入に、私がついていくことは、当然出来ない、だけど、家の前にいることは許してもらえた。
不安で押しつぶされそうな私に、大丈夫と、言葉をかけてくれる、大切な友達と一緒に。
「信じるのよ、あなたの恋人のことを」
「絶対に大丈夫です、きっと、私もそう信じています」
「雫ちゃん…みちるちゃん…」
できることなら、私が突入して、相手のことをはっ倒して、みりのことを取り返しに行きたい。でも、それは許されない、だから、私はみりのことを信じるしかない。
「…うん、私がみりのことを信じなくて、誰が信じるんだって話だね。わかった…もう、大丈夫」
敷地に入っていく警察官の姿を、後ろから見守ることしか出来ないもどかしさを抱えながら、無事に帰ってくることを祈るあるま、この祈りは届くのか。いや、届かせる、その心の持ちようで今までやってきた。そして、これからもやっていく。その強い決意を持たせてくれたのは、
「みり、あなたのおかげだから」
ついに、取り返すための、助け出すための突入作戦が始まった。
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