23. 光の届かぬ宵の闇
……やはり…と言うべきなのだろうか。
「…なるほどね…」
黒百合もまた、過去に問題を抱えている。そしてそれは、俺とあるまのそれよりも、きっと、比べていいのかどうかわからないほどに大きい。
たびたび『無敵の人』という表現が使われることがある。それは、自分の持っていたものを全て失った後。もうなにも失うものがない状態にある人のことを言うのだろう。そう言う人間は、なにをしてくるかわからないから怖いのだ。
黒百合 美波…事情は理解したし、同情もする。だが…
「…だからと言って、こんなことをしていい理由にはならない」
だからこそ、言わなくてはいけない。これは間違っていると、だが…
「うん、そんなことわかってるよ、自分のしていることがおかしいことだって、私だって…私だって、こんなことしたくないよ、でも…ごめん」
そう言って、何かを取り出して、
「もう私には、これしかないの、選択肢なんて、残されてないの、だから、ごめんね」
また、俺の視界は暗転した。
〜〜〜
『ねぇ……まだ連絡つかないの…?』
「…………うん」
『…大丈夫、きっと、大丈夫、絶対に』
「……………そうかな…」
月曜日。私は初めて、体調不良以外の理由で学校を休んでしまった。もしみりがひどいことをされていたら?、もう帰って来ないんじゃないか?、ってずっと考えて、ご飯も食べられなくて、不安で何回も何回も吐いてしまって。ずっと部屋にこもっていた。
昔、位置情報アプリを入れて、みりのスマホカバーに入れておいたエアタグを使えば、位置がわかるんじゃないかと思ったけど…
「…電波…遮断されてる」
どこにいるのかは、わからなかった。
あれから、行方不明になったみりを、警察も調査しているがなかなか見つからない。どうやら、体育館裏は監視カメラがないせいで、みりの動向を掴むことができなかったみたいだ。
みちるちゃんからメッセージで送られてきたけど。
みちる>(やっぱり学校には来てない、みりもだけど、黒百合さんも)
……なんでなんだろ、なんでみりが居なくなったら、こんなに死にたいって思うんだろう。
「もう、みり無しじゃ、私は生きていけなくなっちゃった」
彼女にとって、みりは言葉通りの意味での運命共同体と化していた。
彼女にとって、彼の命は、自分の進むべき道を示してくれる存在だった。
彼女にとって、みりは、この世界で生きる理由になっていた。
「…私にできることはない…私はなにもしてあげられない、みりが危ない時に」
私がピンチに陥った時に、みりは颯爽と私の前に現れて助けてくれた。あの時は本当にダメだと思った。でも、
「…ほんとにかっこよかったなぁ…」
反応することがないとわかっているはずの、みりの位置情報を、何時間も何時間も眺めては、今日もまた自己嫌悪の海に沈んでいく。私は無力だ、
「…絶対、帰ってきてね、あなたは私の希望なんだから」
誰もいない部屋の中で、彼女はそう呟いた。
〜〜〜
…また気絶させられていた。
「また何かで…縛られてる?」
前と違うのはベットの上、今は何時だ?
「はい、気づきましたか、あれから一日が経って、月曜日です、学校にはもちろん行ってませんよ」
「……なんでだよ…」
「とりあえずこれ、ご飯です、食べさせてあげます」
そうして一食を食べ終えて…
「そろそろ流石にお風呂に入れたほうがいいですね…このまま置いておくと不衛生ですし…」
「…それならまず拘束解いてくれないことにはどうしようもないんだけど?」
「それはそうなんですけど、一人で入れると逃げられる危険が…あ!、こうしましょう、私が一緒に入って、全部洗ってあげます」
「……嫌」
「拒否権はありません」
スタンガンを取り出しながらそう言う黒百合…
「…どうすればいいんだよこんなの」
自由はほとんどなく、言われたことをその通りに従わないといけない日々。仮にそれが、自分にとって不自由のないものだとしても、こんなことは間違ってる。でも、なんと言えばわかってくれるのだろうか…!、一つ、いいことを思いついた。だがこれは、
バレたら殺される可能性も十分にある、そして、相手が俺のことをずっと見てくれていることに賭けた、監禁されている自分が取ることのできる、唯一の打開策だ。
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