22. 崩れていく平穏②
「なぁ聞いたか?」
「経営してた会社が、もうすぐ倒産?、するんだってよ、可哀想なやつだな」
………あれから、お父さんは、この事態をどうにかするべく駆け回っていた。しかし、この一件で業界からの信用を失ってしまったことで、もはやどうすることも出来ず、倒産するまで秒読みというところまで来てしまった。
それに今はSNSが普及している世の中。個人が有名人、組織、ましては政府までを匿名で叩けるような時代になってしまった。だからなのか、この騒動は、普段ニュースを見ることもない、同年代の高校生の間でも、広まってしまっていた。
…普段そういうニュースに関心を示さない輩も…知り合いの親がそうなったということで…きっと誰かが話題にあげたんだろう、そのせいで…
「おい…あいつ大丈夫なのか?」
「さぁ…
私の周りの人は、私を忌み嫌い…元々孤立してたこともあって、ついに、誰も私のことに触れようとしなくなった。
『何であいつまだ学校来てんの?』
『勉強しか出来ないのに、それすら出来なくなりそうなの、笑える』
『中学校同じだったけど、めんどくさいやつだったよ』
うるさい、うるさい。もうその言葉が、本当に言われているのか、周りの人が吐く言葉が、全て私を嘲笑ってるかのような気がした。そうして時期に、学校に行こうとすることだけで、体が拒絶反応を示すようになった。
「ウォェ!、ゲホ!、ゲホッ!、」
学校に行こうと思うだけで、心の中の私が責め立ててくる。
『お前がいたところで何になる、勉強しか出来ないゴミが、とっとと死ねばいいのに』
『お前に価値なんてない、生きたところで何も出来やしない』
『あ、まだ居たんだって思われるだけだよ、とっとと辞めたら?』
私の周りには誰もいない、こんな言葉が聞こえるわけがない。これは私自身が作り出した声だ。そうわかっているのに…今日もトイレに一時間こもって、吐き続けた。
家族に関しても、お父さんは、SNSで連日あることないことを言われ続けてしまった影響で精神が壊れてしまった。今では、元々の事業も他に取られてしまって、最後に残ったのは、あの騒動関連でできた借金だけ。お母さんは…抜け殻みたいに何もしない、もう、何が何だか、わかんなくなっていった。
そして、私の両親は、離婚した。
私は、元々住んでたところに戻ることになった。家は、差し押さえされる前に、元々こっちで住んでいたお父さん名義の家をこっちに渡してくれていたので、住む家は大丈夫だった。
だけどお母さんが精神病院に入ることになったので、たまにおじいちゃんとおばあちゃんが来てくれる。だけど、それ以外の時間はずっと一人。
一人で住むには大きすぎる一軒家に、なぜかお父さんが、
『秘密基地を作ろう!』
と言って作った、核シェルターにも使えるらしい地下空間…。
どうしてこうなってしまったんだろう。学校では煙たがられ、大切な人は離れていって、育ててくれた家族は、みんな壊れて離れ離れになった。今の私は空っぽだ…
「……でも、高校は卒業したい」
私はこれでも、勉強はできた方だ。だから、このまま高校を卒業しないままは嫌なのだ。
「……ハハ、学校なんで、大っ嫌いで、誰とも話したくないはずなのに…」
信じてしまう。昔、私に話しかけてくれた、あの人の存在を…そこで、ふと家の外を見ると、近くの高校生が、歩いて家に帰っているところだった。
「……あの人は…」
ちょっと目つきがキツくなってる、でも。
「……私の記憶の中のあの人と一緒だ…」
横にいる女の子が、腕に抱きつきながら歩いている…
「ハハハ…まだここに居たんだ。もう、昔の私が持ってたはずのものは、全部なくなっちゃったよ…今も変わらずいてくれるのは…あなただけ、彼女?、関係ない、あなたは私のもの、絶対、他の誰かになんて渡さない」
友達も家族も居なくなって、誰も信じられなくなった私が、唯一縋れる存在。あなただけが、あなただけが変わらずに、そして傍にいてくれればそれでいい。
「待っててね、今、迎えにいくから」
彼女の家族がこれまで壊れて変わってしまったように、かつての彼女が持っていた正義感も、何もかもが壊れてしまった。もうこの時点で、みりが覚えている彼女の面影は、もはやどこにもなかった。
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