19. 監禁②

「うーん……」


 目が覚める。意外なことに、自分がいるのはベットの上。昨日寝るときは、椅子に縛られていたはずだ。なのに縄の拘束が解かれていることに驚く。


「それより…この部屋は?」


 広さはそこそこ広い。高校の教室より広い…これは…


「明らかに数人で済む想定の広さ…」


 ガチャ


「おはよー、休みの日なのに起きるの早いね〜」

「…!?」


 なぜちょうど起きたタイミングで入ってこれる?、偶然か?、いや、よく見ると部屋の隅にカメラが設置されている…全部監視されていると…


「そんなことより、朝ごはん食べるよ〜」


 黒百合は手慣れた様子で朝ごはんを用意しだした。あたかもそれを、いつもの日常かのように。


「なにそんなヤバいものを見る目で、見てきてるの?、朝ごはん食べようって言ってるのに」


 明らかにおかしい状況なのに、なぜ普通に振る舞えるんだ?


「はい、頑張って朝から気合い入れて作ったよ、食べて!」


 そう笑顔で黒百合はそう言った。それは屈託の無い笑顔に見えて、手の届く範囲に包丁が置いてある。逃げようとしたらきっとこれを手に取って追いかけてくるのだろう。


「…いただきます」


 もう諦めて普通にご飯を食べる…美味しい、


「どう?、美味しい?」

「…うん」

「ありがと!」


 自分のためにこうやって朝ごはんとかを作って、何でも世話を焼いてくれて、ヤンデレで…容姿が違うだけで、持っている性質は、ほとんどあるまと全く同じものだ。


 …もし、俺があのまま月乃と付き合っていたら、あるまは一体どうしていただろうか?、もしかしたら、あるまが暴走して、俺をこうやって監禁するなんて展開も、有り得たのかもしれない。そう、これは、


「…有り得たかもしれない未来…か、」


 なぜか俺の目につく場所にスマホが戻されていて、一体どういうつもりかも思ったら、


「SIMカードは抜いてあるし、Wi-Fiも繋げられないと思うし外と連絡は取れないよ、この部屋電波も通じないし」

「…流石にか」

「調べ物をしたかったら私に言ってね、全部調べてあげる」


 ご飯を食べ終えた黒百合は、すぐ隣に座ってきて、やけにくっついてくる。


「せっかくこうしてずっと一緒に居られるのに、何もしてないと暇だよね、だから映画見ようよ」

「……ご勝手に」

「もちろん付き合ってもらうからね?」

「………」


 機嫌を損ねると、刃物を持ち出して脅してくるため、俺は今、相手の要求を全て受けるほかないんだ。


「これ、面白いね、そうは思わない?」


 ホラー映画を見て、事あるごとに飛ぶついて来たと思ったら、次は恋愛映画。こっちも事あるごとにくっ付いてくる。これが普通の恋愛だったならば、あるまが彼女として居ない状態だったならば、心が揺れていたかもしれない。


 でも、自分は監禁されている中で、彼女が居ることを、こいつは知っているはずなのに、その上でこの行動を取って来ているのだ。これは果たしていつ終わるんだ?、多分、それは俺が黒百合を選ぶまでなんだろう…


 だけど、俺が好きなのはあるまだけ。昨日、あれから連絡がつかないことに気づいてどうしてるかな。きっと、すごく不安だろうな。ごめんな、ほんとに。


「ふー楽しかったー…それで」

「…ん?」

「ねぇ、宵闇さん?、でいいのかな?、今のあなたの彼女」

「…そうだけど」

「あの人と別れて…私と付き合って」

「……その申し出は、聞き入れられない」

「…どうして?」

「…俺には、あの子しか居ない…」

「……………そっか…」


 そういうと彼女は、目つきが急に変わって、捲し立てるように言葉をぶつけてきた。


「私だって…あなたしか居ない。私には、もう何にもない、全部、全部なくなった、最後に残ったのがあなた、なのに…なのに…なのに!、あなたも私を拒絶するの!?、ねぇ!、ねぇ!、ねぇ!!!」

「………拒絶したいわけじゃない、ただ、全てを取る事はできない」

「あの人なんか捨てて、私と一緒にいてよ!!!、どうして!、どうして!」

「……なぁ…なんでそんなに、変わってしまったんだ…?」


 俺は、落ち着いて話を続ける。


「ここを引っ越す前の君と、ここに戻って来てからの君は、その根本から変わってしまったような、そんな気がする…一体何が君をそうさせたんだ?、君はこんなことをする人じゃなかったはずだ…なのにどうして…?」


 彼女はヒステリックに騒ぐのを辞め、俺のことを見つけてこう言った。


「壊れちゃったんだよ、全部」


 彼女は、自分の過去を語り始めた。

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