3. 追憶
「もう、起きて!」
ぽか、と頭を叩かれる感覚。それで俺は起き上がる。
「あ、ごめん、僕、寝ちゃってたみたい」
これは…なんの記憶だ?、少なくとも小学生時代のものであることは間違いない。
目の間には、綺麗でサラッとした黒髪の少女が居る。いかにも真面目そうで、高校とかになったら風紀委員とかしてそうな印象を受ける。
「もう、誰か寝ちゃってたら、号令かけられないんだから、ちゃんとしてよね」
「ごめんね、ありがと」
俺は頭をフル回転させて、この記憶がなんなのかを解き明かそうとしたが、最低でも6年以上は前の日常の話を鮮明に思い出せるほど、良い頭は持っていないのだ。
『それじゃ号令かけるぞ、起立!、気をつけ、礼!』
なんの変なところもない普通の授業。算数とかならいつ習ったものかわかりやすいものだが生憎国語。いつ習うものなのか覚えているわけもなく…終わってしまった。そして給食の時間
「今日も一緒に食べましょ」
自分が通っていた小学校では、席をまとめてテーブルクロスを引く。そしてある程度は、席を自由に移動しても良いことになっていた。だから大体は仲のいい人たちで集まって食べる。だが俺は…思い出した、
この子はずっと一人で食べてたんだっけ。真面目なのはいいのだが、その性格が災いして、周りといいように馴染めなかった。性格に難ありで、周りから煙たがられることもしばしば、だからこそ、自分が声をかけて、それから一緒にご飯を食べるようになったんだっけ。
「今日の給食はおいしいね」
「そうね」
どうやらその日の給食は、ソフト麺にカレーソース(ソースというにはびちゃびちゃだが)をかけたもの。要はカレーうどんのようなものだ。給食を食べていた頃はなんとも思わなかったが、なんなんだろうな、あの給食のソフト麺のゴワゴワ具合と言ったら。あそこまでゴワゴワの麺に、今まで出会った事がない。
「ねぇ…みり君って、他に一緒に食べる相手とか居ないの?、私のところに無理して来なくてもいいんだよ?」
「ううん、大丈夫だよ、僕が一緒に食べたくて一緒にいるんだから」
「…ありがと」
〜〜〜
「…そろそろご飯の時間よ〜、寝てるの〜?、起きてきなさーい」
「みりー!、せっかく私が晩御飯作って一緒に食べにきてるのに、降りて来なきゃ損だよ〜!」
…は!、もう晩御飯の時間!?、というかいつの間にか眠ってしまっていたらしい。それより気になるのは、さっきまで見ていた夢だ。
あの女の子のことは覚えている。一年ほどずっと学校で仲良くしていたけど、自分が小六に上がる時に、親の仕事の都合か何かで転校していってしまった。
「名前は…なんだったっけ?」
いつも肝心なところを思い出せない、遠いところで、元気にやっているといいんだけどな。
「…って夢をさっきまで見ててさ」
「記憶の追体験、にしてもなんでいきなりその子の夢を見たわけ?」
「だから、それがわかんないんだよね」
ほとんど記憶にも残っていなかったはずの、夢を見なかったら、きっと記憶の奥底に終われていたであろう記憶。
「ていうか、仮に夢であっても、他の女の子のことが頭に浮かんでるのは良くないよね〜、これは後でお仕置きが必要かな〜?」
「お仕置きって何するのよ」
「それは、お・た・の・し・み、ってことで」
「怖いなぁ…」
「大丈夫大丈夫!、そんなに無理難題を押し付けたりしないから!」
あるま基準の大丈夫は、俺基準の大丈夫でない事が多いから心配である。
「ならいいんだけど…なんというか、今も昔も、俺の本質は変わってないんだなって、改めて思った」
「?、どういうこと?」
「俺はいつになっても、困ってる人がいたら助けちゃうんだなって、なんかそういう人見てるとほっとけないっていうか、なんとかしてあげたいって思うんだよな」
「……それは、とってもいい心がけだと思う。実際、私もそれに救われてきたわけだし…ただ彼女を差し置いて、他人のことを助けるというのに、私の感情が納得してくれないんだよ〜!」
ぷっくりと頬を膨らませるあるま、可愛い。
「そういう時は、あるまを一番に助けるし労わる。俺にとって一番大事なのはあるまだし、」
「その言葉、覚えたからね?、嘘ついたら針千本飲ますからね?、文字通りの意味で」
「ヒッ」
そう言ってあるまが顔を覗き込んでくる様子に、俺の背筋が若干凍りついてしまうのであった。
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