異世界コンプリート! ~<万物図鑑>を埋めるほど便利になる冒険者生活~
四谷蜂
第1話
空を見上げると月が2つある。
それを見るたびに本当に異世界に来てしまったんだなと実感してしまう。
俺、日本人の森野涼が異世界に連れてこられたのは数日前に遡る。
「ふぅ、面白かったこのゲームもこれで完全クリアか...」
デスクのモニターの前でコントローラーを置いて一息つく、画面には【達成度100%】と表示されている。
やっていたゲームにはメインシナリオの他にやりこみ要素やサブクエストなどが豊富で、何よりアイテム図鑑やモンスター図鑑というのがあり、それらを100%にすることで達成できる実績もある。
特定のモンスターが低確率で落とすアイテムや、特別な条件を満たさないと出現しないモンスターなど膨大な数の収集要素があり、しかもそれら一つ一つにフレーバーテキストが書かれている作り込みなので、そういうのが好きで気になってしまうゲーマーとしては図鑑埋めをずっとやり込んでしまった。
サブクエストの報酬や裏ボス撃破などで手に入るアイテムもあったので、必然的にゲームの全ての要素をやりこむことになってしまったがそれらも楽しんで遊ぶことが出来た。
「いやー、このレベルの完成度のゲーム久しぶりに遊んだな。近年稀に見るボリュームだった。最近は時間の少ない現代人向けにサクッと遊べて達成感を味わえる系が好まれてるけど、やっぱ長くてもコツコツ積み上げたり世界観を楽しめる方が俺が好きだな」
そう言って画面に表示されている【達成度100%】の表示をまじまじと見つめる。
「にしてもどれぐらいか掛かったかな、このゲームやりこみ要素がありすぎてまだネットの攻略サイトとかも発展してないから自分でしらみつぶしに遊びまくって、平日の夜や休日をかなり費やしたけど」
そう思ってゲーム内のシステムからプレイ時間を見ようとコントローラーを握り直す。
「えーとプレイ時間は...っと」
確かめようとした所で涼の意識は突然途切れた。
「...は?」
そして次に意識が戻ったのはやけに座り心地の良いソファーに座っている所。
眼の前には謎の老人が同じようなソファーに腰を掛けこちらを見ている。
「ホッホッホッ、目が覚めたようじゃの」
「えっと、夢?そして誰ですか?」
「突然連れてきてしまいすまんの、儂はお主の世界の管理人、まぁつまるところ神様とか言われてる存在じゃ」
「はぁ...」
「とりあえずいきなりの事で戸惑ってるじゃろ、茶でも飲んで落ち着けい」
そう眼の前の自称神様が言うと何もなかったテーブルの上にホカホカの緑茶がよくある湯呑みに淹れられて現れた。
うーん、夢なのかな。
「まぁ夢というのも半分正解じゃな、今この場は世界と世界の狭間にある神域と呼ばれる場所じゃからの」
熱そうなお茶をズズッと平気で飲みながら老人は言う。
あれ?今俺声に出したっけ?
「ここは儂の神域じゃ、考えてることは言葉に出さずとも分かる」
そう言うと今度はどこからとも無く出した煎餅を食べている。
「つまりえーと、俺は死んだとか?」
「死んだ、何を持って死とするかは...ええい、そんな小難しい話をするためにお主をわざわざここに連れてきた訳じゃないわい。
簡単に言うとお主には珍しい適正が見つかったから別の世界へ転移してもらってそっちの世界で活躍して貰おうって話じゃな」
適正?俺はしがないサラリーマンで特に運動が出来るとか勉強が出来るとかではなかったが...。
「その適性についての詳しいあれこれは送る先の管理人が教えてくれるじゃろ、儂の役目はお主への転移の簡単な説明とささやかな贈り物じゃな」
「ちなみに拒否権とかは...」
「すまぬが受け付けておらぬ、じゃがお主は対してあのサラリーマン生活に未練もないじゃろ?そう言う者を選んだからの」
まぁ確かにやりたい仕事もなかったから、大学を卒業して生活するために適当な企業に入社してサラリーマンをして、彼女もいなければ親とも死別してるし兄弟もいない、ゲームだけが癒やしだったからな。
「安心せい、お主が唯一楽しんでたゲームのような世界へ転移させることになってるからの、ホッホッホッ」
茶を飲みながら眼の前の神様は言う、ゲームのような世界か...楽しみではあるけど不安だな。
「むっ、お主を送る世界の管理人から早くせいと言われておる、早速じゃがささやかな贈り物をお主に付与しよう」
そう言って老人は何処からか杖のような者を取り出して何やら呪文のようなものを呟いている。
すると杖の先から光の玉のようなものが出てきて俺の体へと入ってきた。
「これぐらいの事しかお主に出来ずにすまぬの、世界間の転移にはあれこれはうるさい制約があっての...」
何を貰ったのがわからないが、よくあるチート能力みたいなのだと嬉しいなぁ。と言ってもささやかと言ってたし制約ってのもあるからそんな強力な能力やアイテムは貰えないだろう。
「さて!短い時間じゃったが儂も久しぶりに現世の者と話せて楽しかったぞい、またいつか相まみえようぞ」
そう眼の前の老人が言うとまたしても意識が遠のいていく感覚に襲われた。
涼のいなくなった神域には世界の管理人の老人が一人で茶を飲んでいた。
「行ったか、それにしてもあの世界の管理人も無茶を言う...頑張ってくれ若人よ...」
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