『先輩と俺の二度目の出会い』

えん@雑記

『先輩と俺の二度目の出会い』

 そうだ! 別れましょう。そう言われた僕はクリスマスのイルミネーションの中、笑顔で言う先輩の顔に見とれてしまった。


 先輩は僕より2歳年上の大人なはずなのに子供っぽい大学3年。

 出会ったきっかけは推しのキャラが描かれた数量限定キーホルダー。


 シリアルナンバーが付いたちょっとしたレア物でアニメ自体は数年前に終わってはいたけど俺はカバンに付けてに登校していて先輩に見つかったのだ。


 突然に『頂戴』と言う先輩の一言から交流が始まる。


 いつも笑う先輩で、時には一晩中推しの話、休日には映画。

 会う機会が多くなると食事も一緒にするようになる、そうなるとお酒も入る。


 たまに小さい約束をは、大事な事はわすれないから。と小さく笑う。


 自然と付き合うようになった俺と先輩は卒業するまで……いや正直結婚すると思っていた。


 それが一方的に『そうだ。別れましょう』と思わず先輩らしい行動で少し笑えてしまう。最初は冗談と思っていた。


 だって初詣の約束もしていたのだ。


 翌日から先輩は大学では見なくなってしまってメッセージもブロックされた。

 推しの限定キーホールダー先輩に取られたまま。

 苦い思い出とともに僕の推し生活も終わる事になる。



 連絡が取れないまま春頃になると先輩と仲の良かった人から先輩が病気だった。と言うのを知った。


 記憶が消えていく病気。


 早期発見で治療すれば治る確率は高いらしいが、それまでにどれだけの記憶が無くなるのか。


 先輩1人で悩んで1人で考え込み、俺には笑顔を見せてくれた先輩らしい行動だ。

 地元の病院では対応が無理で、僕は見舞い行く勇気もないまま先輩は大きな病院へと移ったのを人伝に聞いた。




 あれからは大学を留年しながらも卒業をし地元から逃げるように都会に出ると、休憩時間には煙草代わりの飴を口に入れる。


 季節は夏。

 噴水のある公園で1人の女性が噴水の周りをぐるっと回っている。


 俺と眼が合うとその女性は突然に走って来た。

 肩から掛けた小さいショルダーバックには限定のシリアル入りキーホルダーがつけらている。



「あの? もしかして、お会いした事ありませんか?」



 っ!?

 懐かしい声だ。

 一瞬で数年前の記憶がよみがえってくる。



「いいえ…………あの、知らない人……知らない男にいきなり話しかけないほうがいいですよ。勘違いする人もいますので」

「ごめんなさい! 少し言いにくいんですけど、記憶障害って言うんですか? 昔を忘れる病気があって……あっ今は治ったんですけどね」

「それは大変ですね……その昔の恋人も……いや恋人との思い出ってのも忘れたんですか?」



 俺はキーホールダーから眼が離せなく、まともに女性の顔を見る事も出来ない。

 自分でも何を聞いているのか、同じ人なわけがないと頭に言い聞かせる。




「はい、忘れましたよ」



 聞いた俺が馬鹿だ。

 何を期待したのか、そもそも質問も意味不明だ。

 この場から逃げよう。と席を立った瞬間手を握られた。



「でも、もう一度、あなたと恋を出来ると思うと幸せになりませんか?」



 推しのキーホルダーが揺れるなか、女性は大学時代に会ったあの時と同じように俺へと笑いかけて来た。


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『先輩と俺の二度目の出会い』 えん@雑記 @kazuna

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