上(神)さん

愛加 あかり

第1話疫病神


 

  


「お醤油取って」


「あきまへんえー、コレが我が家の味です。今後は、この味に慣れてもらいますよって。堪忍しておくれなはれ」


 カミさんは、俺の身体の事を気遣っての事だろうが。京都独特のお番菜の文化に、舌が付いて行かない。

 今までは、東京でお互いの家を、行き来しても、暴飲暴食を止められることは無く、醤油も、ソースも、マヨだって、咎められてなかった。


 カミさんのお腹に、子供が宿り。取り敢えず、籍だけを入れて、カミさんの実家のある京都への移住が決め。『新婚生活が始まる』と、思った矢先に、食生活の改善が始まる。


 お小遣い制にされて、ビールの本数も制限された。マヨラーの俺には、結婚が地獄の始まりだと感じていた。


「俺の稼ぎで、喰わせて貰っているんだから。醤油くらい、好きに使わせろ」


 俺は、カミさんに抗議した。マヨを一口舐めたかった。無謀な抵抗となったが。


「宜しいおすえー。保険料の上乗せ分は、お小遣いから、引かさせていただきますよって、お好きなだけ、使わはって下さい」


 カミさんの手が止まり、冷たい目で睨んできた。


「生命保険を、もう一件増やしはったら。豚骨ラーメンの背脂を、増し増しで、提供しますよー。いかがどすえー」


 カミさんは、持っていた箸を置いた


「分かったから。来月の小遣いは、減らさないでくれ」


「最初から、仰々しくしせんと、大人しくしてはったら宜しいのに。何で怒らす事を、言わはるかな」


 カミさんの機嫌が戻り、箸が動き出して。


 夫婦は、節約の為に、一緒にお風呂に入り。

 アナタの子供を、私が身籠っています。

 コレから、もっと、大きくなりますよ。頑張って下さい。

 末永く、私達を、養って下さい。

 出来れば、あと一人は欲しいです。


 言葉では感じ取れない、プレッシャーの中で、一緒の布団に入り寝た。



 この時から、うなされ始めた。


【辞めろ、辞めてくれ。何年、この体に取り付いていると、思っているんだ。

 早く、この女と別れろ。コイツは、俺の獲物だ。

 コイツの魂は、俺が太らせて、美味しく頂くんだ。邪魔をするな】



 外に出ると、誘惑が俺を待ち受けている。

 コンビニの菓子やアイス、社食の空揚げに、タップリのマヨをかけるヤツを横目に、カミさんの煮物を噛みしめる。


 3ヶ月も経つと、体は軽くなり。後数キロで、健康診断はパスできそうだ。


【お前の魂よりも、美味しそうな奴を見つけた。アバヨ】


 疫病神の悪夢は見なくなり。


 俺は、標準の体重に戻り、健康診断をパスした。

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