第7話
「攫われてない!」
そう叫んだリオネルに視線が集まる。
「……どういう事だ?」
レオナードの低く冷たい声が届く。リオネルは威圧感で押し潰されそうになりながらも、必死に口を開いた。
「ぼ、僕は、シャルルと、で、出掛ける約束してたんだ」
声を震わせ、小さな体で私とダグらを護ろうとしてくれる。尊敬する父に嘘をつくという罪悪感と戦いながら……それだけで十分気持ちは伝わった。
「それに偽りはないか?」
「ッ!あ、ありません……!」
レオナードに睨まれ一瞬怯んだように見えたが、グッと力強く言い切った。流石に5歳の子に手を挙げるなんてことはないと思うが、相手が相手なだけにその場に緊張が走る。
お互いに睨み合った結果「はぁ~…」大きな溜息がレオナードの口から吐かれた。
「まったく……こっちは裏も取れている。お前達が何を言おうとそいつらの罪は変わらん」
「……」
リオネルの顔が曇り、もう駄目だと下を向きかけた。
「だが、お前達が
「!!」
その場にいた全員が勢いよく顔を上げた。
「もっとも、そこの聖女の側にいるには相当な覚悟と根性がいると思うがな」
チラッと胃を押さえながら蹲るルイスに目をやりなりながら問いかけた。
「どうする?」
最終確認だとダグを睨みつけるが、ダグ達はもう覚悟が出来てるようで真っ直ぐにレオナードの目を見ていた。
「そんなの決まってるさ。なあ?」
「どんなに辛くて、しんどくても姉御の為ならやってやるッス」
「俺の汚ねぇ命も姉御の為ならいくらでもくれてやる」
口々に私の側にいることを望むと言ってくれる。嬉しさで涙が出そう……出会って数分しか経っていないが、確かにその絆は結ばれている。
「──だとよ。俺ら全員が同じ気持ちだ」
「……分かった。お前達の処遇は聖女預かりとしよう」
ダグの決定にレオナードは険しい顔をしながらも承諾してくれた。その瞬間、嬉しさのあまり全員で抱き合い喜びを分かち合った。
「坊主!」
離れて見ていたリオネルも、ダグが呼び寄せると嬉しそうに駆け寄って来た。
「貴方にしては随分と寛大な処遇ですね」
レオナードの背後からゆっくりラリウスが近づき声をかけた。
「仕方ないだろ」
「ははは、なんだかんだ息子に甘いところがありますね。……それとも、聖女様に絆されました?」
見透かしたような物言いに、レオナードの顔が怯んだ気がしたが一瞬の事。すぐに蔑むように睨みつけ、その場を離れて行った。
「おやおや、図星でしょうか?」
クスクスと笑いながらレオナードの後を追って行った。
***
ダグ達は尋問という聞き取りの為に一旦城に連れて行かれた。
「酷いことはしない」そう言っていたのに、数時間後に戻って来た彼らの顔はやつれて生気を失っていた。
「どうしたんですの!?」
「あ、姉御」
ヘラッと力なく笑う顔は、口を開くのもやっとといった感じだった。
「拷問されましたの!?いくらレオナード様でも約束が違いますわ!これは異議を問いに参りますわよ!」
腕を捲り、息巻いて教会を飛びそうとした所でルイスに止められた。
「何処へ行こうというんです?」
「レオナード様の元ですわ!約束が違いますもの!」
「また貴女は……話を最後まで聞きましたか?」
「聞かなくとも一目瞭然じゃありませんこと!?」
見て見ろと言わんばかりに指を指すと、ルイスは呆れながら彼らに問いかけた。
「そう言ってますけど、実際の所どうなんです?拷問されたんですか?」
ルイスが冷静に問いかければ、ダグらは必死に頭を振って違うと訴えてきた。
「団長様は酷い事なんてしなかったぜ!」
「むしろ、黙って見られすぎて精神的に来たって言うか……」
「そうそう、あの圧が精神をゴリゴリ削ってくるって言うんスかね」
「そうなんだよ!逆に怒鳴られた方が幾分かいいよな!」
どうやら彼らは、レオナードの凄みと気迫に圧倒されて心労がたたったらしい。
「いいですか。この人は話を聞かずに突っ走る傾向があるんです。気を付けてください。野放しにしたら面倒事しか持ってこないんですからね」
まるで躾のなっていない犬のような言い草だが、あながち間違ってもいないので、反論しようにもできない。
それに、ルイスは彼らの指導役でもある。当然、彼らを迎え入れるにもルイスと一悶着あった。ほぼ聖女という肩書を盾にして無理矢理黙らせた点がある。ここで文句を口にして、ルイスの機嫌を損ねたら面倒臭い。
「はい!分かりました先輩!」
幸いなことにルイスも素直な彼らに好感を持ってくれたし、何より先輩面が出来るのが心地よいらしい。ニヤニヤとだらしない顔をしていた。
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