第6話
話を聞くこと数分。
簡潔にまとめると、リオネルを攫えと指示した主犯は確実に手に入れる為にまず、高額で腕のいい刺客を雇った。──が、この刺客、相手が名高い団長の息子だと知り自分の身を案じた。その結果、巡り巡ってただのゴロツキの彼らに面倒事を押し付けた感じになった。
「俺ら主犯は愚か最初の刺客も誰か分かんねぇ。役に立てず、すんません」
シャルルの前で正座して頭を下げるのは、このグループのまとめ役であるダグ。歳は20後半ぐらい。ガタイのいい体に日焼けによる褐色の肌が、この人の苦労を物語っている様に見えた。
「ねぇ、もう帰ろう?」
リオネルは早くこの場から立ち去りたい様で、不安そうな顔をしながらせがんだ。
「そうですわね。貴方がたはどうしますの?」
「このまま戻れば酷い目に合わされるのは目に見えてるが、俺らに行く宛てもないしな。まあ、何とかなるさ、なぁ!」
共感を求めようと、他の三人に話を振れば「そうだそうだ」と笑顔で言ってくる。
見た目は悪いが話せば四人とも良い奴で、人は見かけによらないと言うお手本の様な彼らを、このままゴロツキに戻すのは惜しいような気もした。
「リオネル!」
「聖女様!」
「父様!」
「げっ!」
同じタイミングでレオナードとルイスが現れた。
「父様!僕、泣かなかったよ!」
「ああ、立派だった」
父と子の感動の再会の一方で、完全に行き場を失い、袋のネズミ状態のシャルルは……
「やっと見つけましたよ。手間ばかりかけさせやがりまして」
目が据わり、仁王立ちで睨みつけてくる。怒りで変な言葉遣いになっている事には気付いていない様子。
「あ、あら?怖いお顔…可愛い顔が台無しですわよ?」
「こんな顔にしているのは何処のどなたでしょうね?」
「まあ!私は貴方を産んだ覚えはありませんわよ!?」
「当たり前です!まったく、貴女と言う方は──!」
くどくどと説教が始まり、うんざりした顔で黙って
「聞いてるんですか!?」
ルイスが声を荒らげると、レオナードが合間に入って止めてきた。
「まあ、待て」
「止めないでください。この人はいくら叱っても次の日にはケロッとしてるんですから。それに、今この状況が一番美味しいと思っている人ですよ?」
苛立ったルイスに指をさされたシャルルはニヤケ顔で嬉しそう。シャルルからしたら、レオナードが身を呈してくれたという事が嬉しくて仕方ないのだ。
「お前の怒りももっともだと思うが、こちらもそこの聖女に話がある」
ゆっくり近づいてくるレオナードに、もしかして!?と言う期待で胸が高鳴る。
「まずは礼を言う。助かった」
素っ気なく無愛想で言われたが、お礼を言われること自体が貴重なので本気で嬉しい。
「……そこにいる者たちが実行犯か?」
視線の先には、既に覚悟を決めたダグらが項垂れながら縄に巻かれるのを待っている。
シャルルと目が合ったダグは「心配するな」と言うように笑顔を作って見せた。
その姿が無性に不憫で哀れで、気が付いたら「違います」と言い返していた。
「この方達は私の護衛ですの」
「は?」
これには流石のレオナードも空いた口が塞がらいと言った表情していた。
情が移ったと言われれば、はっきりそうだと答えてやろう。人間だもの、情に流される事だってある。ここで彼らを見捨てたら夢見どころか、三度のご飯まで不味くなってしまいますわ!
「いくら聖女でも、罪人を庇えばそれなりのお咎めがあるのを分かって言っているのか?」
「ええ、彼らは罪人ではありませんもの」
「はっ、聖女様は何処までも慈悲深いようだな。罪人まで庇うのか?だが、リオネルを攫ったのは事実だ。こちらには証人がいる」
視線を向けられたリオネルは肩がビクッと跳ね上がった。
「あら、それは違いますわ」
「なに?」
「
澄ました顔で言い切った。隣で聞いていたルイスは「あぁ、目眩が…」なんて言いながら、その場に倒れ込んだ。
まさに虚をつかれたレオナードは一瞬、言葉を失って唖然としていたが、そこは団長だ。立ち直りが早い。
「ほお?その嘘がまかり通りと?──リオネルどうなんだ?」
口論の矛先が自分に向けられるとは思いもしなかったリオネルは、目を泳がせながら「えっと…」と口篭ってしまった。こうなると、こちらの方が一気に分が悪くなる。
「答えは出たな。その者らを渡してもらおうか」
睨みながら距離を詰めてくる。
「これ以上は無理だ。諦めな。あんたと出会えただけで十分だ。……ありがとな」
「こんな俺らを助けようとしてくれたの、姉御が初めてだもんな」
この後、どんな拷問が待っているのか不安な癖に私を気遣って……
思わず目頭が熱くなり目が潤んでくる。私が泣いた所で状況は変わらないのは分かってる。それでも、込み上げてくるものは止められない。
「僕は攫われてません!」
その場にリオネルの大きな声が響き渡った。
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