気づいたら……いつの間にかエロホムペの主役少女がカクヨムに迷い込んでいて困った件

楠本恵士

第一話・ご主人さま〔マスター〕ここどこですか?

 その少女は、某ファストフード店で食事をしていたオレの向かい側のイスに、いきなり座ると、オレが食べかけでテーブルの上に置いてあったハンバーガーを、ムシャムシャと食べはじめた。


(なんだ、この?)

 オレはなぜか、親しみを感じる少女の顔を凝視する。

 少女もオレの顔を見つめる。

 愛が生まれる……はずもなく、オレは思っていたコトを口にする。

「もしかして『帆花ほのか』か……エロホムペの主人公の」

 帆花は、オレの飲みかけの飲み物まで飲んで笑顔で言った。

「当たりぃ、はじめまして……帆花です、えーとなんてお呼びすればいいんですか?」

「創造主、ご主人さま、マスター、お兄ちゃん……好きな呼び方をすればいい」

「じゃあ、シンプルに『作者』で……」


 そう言うと、帆花はイスから立ち上がると、腰を屈めてパンツを脱ごうとした。

「帆花、ファストフード店内でナニやっているんだ?」

「だって、エロホムペだと脈略なく『パンツ脱いで、股開くんでしょう』」


 オレは慌てて帆花の行為を止める。

「わーっ、わーっ、意味なく脱がなくていい! ここは、カクヨムだから!」

「カクヨム? なんですかそれ?」

 オレは、帆花がいる場所が、カクヨムという健全小説サイトだと説明した。


「とにかく、ここではエロ行為は自粛じしゅくしてくれ……帆花、なんでカクヨムの小説にいるんだ?」

「わかりません、気づいたらココにいて……作者を見つけたから店内に……作者、エッチなホムペとはペンネーム違いますね……ホムペでは……」

「わーっ、わーっ、それは秘密! あっちの世界の自分と、こっちの世界の自分は別人だから……でも、なんでエッチホムペのキャラがカクヨムの中に?」


 オレはいろいろと考えてみた。

(思い当たるのは、最近エロネタが枯渇して、もう書くコトが無くなったから放置していたからか……その影響か)


 帆花が上目遣いで言った──さすが、長年妹属性のエロ娘、エロ動作は半端ない。

「作者……あたし、ここで何をすればいいんですか? 催眠術をかけられてエッチなコトされるんですか?」

「う~ん、催眠とか洗脳ネタは作者が得意とするところだが、カクヨムで帆花にエッチなコトをする気にはならないな……下手すればカクヨム運営からあかバンされるかも知らないから」


「垢バンってなんですか?」

「アカウント凍結のコトだ……過去に一度、作者はカクヨムに登録した初めての時に、性描写の加減がわからずに過度な名称性描写で、削除警告メールを送信されてきたコトがあるからな」


 その時のBL作品は「べらんめぇ! 消される前に消してやらぁ!」と短編作品削除してから、オレは事あるごとにネチャネチャとその時の、警告メールネタを今だに出している。


「とにかく、カクヨムでは不要なエロ行為は自粛じしゅくしろ」

「〝催眠にかけられて、路上で全裸露出させられる〟とかは?」

「ダメ……」


「じゃあ……〝催眠かけられて、強制発情させられて、知らない女の人と百合やらされる〟のは?」

「ダメ、ダメ……せめて、お風呂イベントのみ」

「そんなのつまんないです……あたしの存在意義が、あたしからエッチを取ったら何が残るんですか?」

「う~ん、何が残るんだろう?」


 最初からエロ目的で誕生させたキャラだから、それ以外のコトとなると……オレは、とりあえず帆花の住む場所を考えるコトにした。


「カクヨムでの、帆花の居場所を見つけないとな」

「あ、それなら大丈夫です……背景さーん、居場所変えてください」

 帆花の言葉を受けて、場所がファストフード店から、どこかのマンションの一室に変わった。


 オレは驚く。

「わぁ? いつの間にそんな特殊能力を?」

 帆花は、服の上から胸を揉みながら笑顔で答える──やっぱりエロホムペの住人は性的なアピールが半端ない。


「えへっ、作者結構、エロホムペのシュチエーションでマンション登場させていますよね……女の子拉致してきて、どこかのマンションの一室に軟禁してエッチなコトしたり、変な実験室でエッチな実験したりして」


「そりゃあ、まあそうだが……帆花? おまえ、壁に向かって笑顔で手を振って、何やっているんだ?」

「何って、カクヨムの読者の方々にご挨拶ですよ……カクヨムの読者のみなさん、初めまして帆花です……エッチな娘です、いきなり小説の登場キャラから手を振られて話しかけられて驚きましたか?」


 オレは頭を抱えた。

(まさか、カクヨムに現れた影響で帆花に〝第四の壁越え〟能力が備わったのか)

 第四の壁というのは演劇用語で、客席と舞台を分ける架空の境界線のコトだ。

 時には、その第四の壁を越えて、役者が客席に話しかけてくる芝居もある。


「第四の壁越え能力……オレの創作した作品の中では、その能力を持たせているキャラは少ない」

 オレは、しばらく考えて、あるキャラを呼び出すコトにした。

「仕方ない、あのキャラに帆花がエロに暴走しないように監視してもらおう……おぉい、『ロヴン』いるか? この声が聞こえたら出てこい」


 マンションの床に、エンジ色のジャージ姿で横臥して、スマホゲームをしている地味な眼鏡女が現れた。

 少し眼鏡ズラしてオレを見ながら、壁越え女神のロヴンが言った。

「なんですかぁ、作者……あたし、忙しいんですけれど」


「忙しいってゲームしかしていないだろうが……ロヴンに頼みがある、帆花の面倒を見てエッチな方向にいきそうだったら、抑制してくれ」

「あたしがですかぁ……まっ、いいですけれど……手に負えなかったら別の作品のキャラ呼び出してもいいですか?」

「召喚を許可する」


 立ち上がったロヴンは、胸に斜めに掛ける変身アイテムを装着した。

「じゃあ、必要な時にまた現れますから……良い夢を」

 そう言い残して、ロヴンは姿を消した。


 オレは少し不安になった。

「ロヴンに任せて大丈夫かな……不安」

 ロヴンは元々は、北欧神話に登場する地味で、目立たない女神だったが……その性質から男女の仲を取り持つ女神となって。

 女神ロヴンを気に入ったオレが、男女の仲を取り持つ特徴から発展させて『第四の壁越え女神』として登場させた。

 ロヴンのイメージはマーベルコミックで赤いコスチュームで、背中に日本刀を交差させて背負った、不死身の不真面目ヒーローを連想するといい。


 オレは、脈絡もなく服を脱ごうとしている、帆花のエロ行動を止めた。

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