限界の先へ
閃光と暴風が視界を覆い尽くす中でエルクリッドを守るべくセレッタが蹄より水流を巻き起こし分厚い壁を作って守り抜き、空が晴れて風が止むと共に壁を水へ戻し直後にエルクリッドが一歩前へ躍り出る。
(シェダ……!)
砂煙がまだ舞い上がりシェダの姿は見えず、代わりに神獣オハムが雄々しく佇み静かに目を向ける。が、すぐに砂煙の方へと視線を戻し、その中より現れる白銀の刃の如き角を持ち、刺々しい鎧を纏う神獣ウラナが姿を見せその隣に立つシェダがまっすぐオハムを捉える姿があった。
「シェダ! あんた……さすが、だね」
「なんとかな、けど、せいぜい一発だな」
称賛に答えるシェダの声は冷静であったが、彼の服の下から流れ落ちるおびただしい量の血や消耗しきってしまい魔力ももうない事をエルクリッドは悟る。それ程に無茶な方法をとり成功したものの、危険な賭けというのが伝わりぐっとエルクリッドは手を握りながら固唾を飲む。
勝負は一瞬で決まる、ゆっくりウラナが影へと身体を沈め始めるとオハムもまたぐっと姿勢を低くし攻撃態勢へ。そして風が止むと同時にウラナが影に潜みオハムが角を地面に突き刺し一気に大地をめくり上げた。
影を遮る事で動きを制限させながら視界を隠すというやり方にシェダも即応してカードを引き抜き、オハムの狙いや動きを予測し最後の一撃を通す策を展開する。
「ツール使用、魔獣の檻!」
地面を突き破るように現れオハムの背後を塞ぐは細かいトゲと刃を持つ格子。それが右、左と現れ上も蓋をするように現れて檻となって行き場を奪い、刹那にめくり上げられ壁となっていた大地を突き砕きながらウラナがオハムへと向かった。
角を赤熱化させたオハムが力強く後ろ足で地面をめり込む程に踏み込みながら真っ向からぶつかり合いに行き、ユナイトにより角を得たウラナと角同士をぶつけ互いに押し合う。
激しい衝撃が辺りに響き大地を隆起させながら風を呼び、互角の押し合いは神獣同士の力が拮抗しているものなのがよくわかる展開である。
刹那、ウラナの一本角が帯電し始め黒と白の雷を纏い始め、オハムの熱とぶつかりバリバリと轟音をかき鳴らす。瞬間、シェダは直感に従ってカードを引き抜き、残り僅かな魔力を全て込めてその一撃へと繋ぐ。
「スペル発動サンダーフォース! ウラナ!」
発動されたスペルの力がウラナへ宿ると共にバキッと音を立て宙へ舞うはオハムの角の一部だった。次の瞬間にはウラナがさらに押し込むように前へと出てオハムの身体を角で刺し貫き、だが目を光らせたオハムが爪を突き立てながらウラナを引き剥がし力強く地面へと叩き伏せる。
刹那、オハムが両腕の爪を振り下ろし切り裂きにかかり、だがウラナは身体に纏った鎧で受け止め破損されるも構わずに身体を振り上げ腕を弾き、次の瞬間に角でオハムの身体を切り裂いた。
構造色の鱗が砕かれ、裂かれ、斜めに線が走る傷から赤い血が飛びオハムが後ろへとよろけつつ足をつき、そこへさらにウラナが突っ込むのに対し負けじと頭突きをやり返して両者の角が砕け散る。
と、ここでウラナの身体が煙のように消え始め、シェダが片膝をついて崩れ落ち地面に手をつき息を切らす。魔力の限界、身体への負担、カードへと戻るウラナとヤサカが手元へ戻ってくるのを受け止めつつカード入れへと戻し、汗だくの顔を上げながらもしっかりオハムを捉えて目を合わせた。
「流石に、かてぇな……もうカード一枚も使えねぇ……」
呼吸を整えながらそう漏らすシェダの方へゆっくりオハムが歩き始め、それには見守っていたエルクリッドがセレッタと共に前へと出て立ちはだかる姿勢を見せ、オハムも一度止まりエルクリッド達を捉える。
だがオハムの目から攻撃の意思がないのを感じ取るとエルクリッドもカード入れから手を引き、セレッタもそれを見てから静かに下がり道を開けるように横へと退いてオハムが再びシェダへと歩み寄っていく。
と、シェダの手元からウラナのカードがひとりでに飛んでその姿を現すとそのまま黒い影となり、大地をゆっくり進み何処かへと去ってしまう。エルクリッドが追いかけようとも思ったが、オハムが近くにいる手前それもできず、シェダが立ち上がるのを腕を持って支えてやり寄りかからせる。
「わりぃ……って、お前のが背が高いんだから……」
「んなの気にしてる場合じゃないでしょ」
「いやそうじゃなくてだな……」
背丈の差がありまっすぐ立てないのもある関係でシェダはちょうどエルクリッドの胸の高さに頭が来ることもあり、彼女から目をそらすも逆隣のセレッタが目を細め恨めしい眼差しなのに気づきオハムの方へと目を向けるしかなくなってしまう。
気を取り直し神獣オハムは角を折られた状態であるが穏やかな雰囲気でさらにゆっくりと前進し、静かにシェダへ頭を下げてから軽く小突き触れるように促す。
応える形でシェダがオハムの頭に触れ、金属質にも見える角から伝わる温もりを通し神獣の意思も伝わってくる。那由多の記憶と、その中に紛れるようにしてオハムの思考を見つけ、一つ一つ結びつけていく。
(俺を試す為に戦った、か……それにダストの土地の事もあって、か)
少しずつ見えてくるオハム襲来の理由にシェダは整理しながら理解を示す。苦手とする神獣アヤミの力がかけられた土地に近づくのができなくなり、それから虎視眈々とウラナの力が使われる事を待ち続けていた。
そんな中で神獣達が活動期となりウラナを得た者が来た事を察してやって来たこと、ウラナを通しシェダという人間の心を見透かしたこと、様々な情報が流れ込み強い頭痛が襲うもシェダは声を聴き続けやがてオハムが頭を引く。
次の瞬間にオハムが頭を上げるとキラキラと細かな光となってカードとなりシェダの手元へ飛び、受け取ったシェダがカードに目を向け少し強く握る。
「オハムの、カード……」
そう呟くとシェダは目を閉じガクンと項垂れ、意識を失ってしまったのを察しエルクリッドがすぐに支えるのをセレッタが割って入り彼を背に乗せた。
「不愉快で不本意ですが僕の背に乗せてやってください。麗しきエルクリッドが汚れるよりはマシですから」
「そんな言い方しないのセレッタ、スペル発動ヒーリング。でもまぁ……すぐ追いついてくるから、負けてられないな」
ヒーリングのカードを使いつつシェダを癒やすエルクリッドは、彼が二体目の神獣に認められた事を受け入れつつ少しの悔しさを覗かせる。
以前イリアを手にした時はその力を全て使えず認められたとは言い難く、シェダはウラナに続きオハムに認められ手にしっかり握るカードの絵柄も色彩豊かで完全なものだ。
思いの強さが神獣の心を動かす、今回のオハムは完全に倒されこそしなかったもののシェダを認め、それがリスナーとして心を通わせた事が大きいというのはエルクリッドも見ていてわかり、単純な力だけではないものを改めて思い知る。
(強さ……か……)
シェダを背に乗せたセレッタと共に帰路へつくエルクリッドは強さとは何かと思案する。困難を乗り越える力、大切なものを守れるだけの力、自分が求めるべきはそれだけか。
傷ついたものを包み込む優しさ、その思いに触れ涙を流せる思い、心を通わせ理解し合うのもまた強さ。
シェダが自分にない強さを確実に身に着けていく姿に思う事はある、悔しさも、嫉妬も。だがそれを認め受け入れ進む事もまた強さへ繋がるとエルクリッドは思い、両頬を叩き前を見据えた。
To the next story……
星彩の召喚札師Ⅹ くいんもわ @quin-mowa
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