湧き上がる闘志

 ヒレイが炎で舞台を焼き払えばローズは飛翔し華麗に避け、そこからローズが天を舞ってヒレイへ迫れば聖剣の一撃をヒレイは掴み止めて放り捨てる。エルクリッドがスペルを切ればリオもスペルを切り、その逆もまた然りと短期決戦を狙う両者としては拮抗状態が続く事に相手の手強さと、全力でぶつかれることの喜びとが心を満たす。


(リオさんもローズもやっぱ強い……! 負けられない、勝ってみたい……!)


(初めて出会った時から格段に強くなったのは知っていたものの、やはり手合わせしてこそそれがよくわかる……!)


 最初から飛ばしている事もあって心が高鳴り笑みが溢れ、相手を見てより思いは強くなり血が沸き肉が踊る感覚が二人をより研ぎ澄ませていく。


 そしてそんな両者の戦いを見る者達もまた心が揺さぶられ高まる思いが身体を熱くさせる。膝に置いた手を握り締めるノヴァも二人の戦いに釘付けとなり、その様子を微笑ましく見守るタラゼドは逆隣のシェダがスッと席を立った事に気が付き目を向けた。


「負けてられねぇな……」


「行くのですか?」


 はい、と答えたシェダが挑戦の受付にて渡されたカードを見せ、それが明滅して呼び出しをしているのをタラゼドも理解し静かに頷く。


「二人の戦いに水を差す訳にもいかねぇっすからね、先行って戦ってきます」


「お気をつけてくださいね。ウラナがあるとはいえ……」


「わかってますよ、カードに頼り切るとかはしねぇっすよ」


 戦いに集中しているエルクリッド達の方に目を向けつつシェダは答え、夢中になって観戦するノヴァが気づいてないのにふっと笑みを浮かべつつ静かに戦いへと赴く。


 シェダを見送ったタラゼドは彼が森に消えるまでそちらを見続けてから熱気を増す舞台へ向き直り、幾度となく爪と剣とでぶつかり合っては攻撃を掠め合うアセスの激突が起こす衝撃の強さが肌へ伝わる。


(単純なぶつかり合いを繰り返しながら機会を待てども、お互いに知り尽くした相手故に機を見つけ難い……いつ戦いが動くか、見物ですね)


 体躯の差をものともしないヒレイとローズの激突は延々と繰り返すが如く、しかしその目には虎視眈々とリスナーがくだす判断を待ちつつも手を止めぬという強い意思が秘められ、その刹那を作る為に、見極める為に、攻めの手を緩めずにいた。


 だが永遠というものはない、召喚しその力を使う程にリスナーの魔力は消耗していき、エルクリッドとリオは流れる汗の量が次第に増え息が上がり始めていく。軽減したとはいえ元々召喚維持の為の魔力が多いヒレイはもちろん、記憶を取り戻し実質的な真化を果たしたローズの維持もまた魔力を多く使う。

 短期決戦を互いに狙っている事もあって尚更それは多くなり、だがそれでも焦らずに両リスナーはカード入れに手をかけたまま動かず、相手の出方とアセスの戦況を見つめ続ける。


(まだ、もう少し……!)


(この状況下で使うカードは限られる、時間をかければ尚の事……!)


 魔力の消耗と共に使えるカードは自ずと限られる、そこから予想を立てていくにあたり選択肢が減る事は確実な勝利に大きく影響する。二人が静かに指をカードにかけながらぎりぎりまで相手が動くのを待つ、その間にもアセスは血を流し少しずつ動きのキレが無くなっていく。


 刹那、ローズが盾を正面に構えつつ着地し、次の瞬間にヒレイ目掛けて一気に飛翔し迫りに行き、その瞬間を逃さず二人のリスナーがカードを切った。


「スペル発動ホーリーバインド!」


「ツール使用、魔除けのランタン!」


 聖なる白き鎖がヒレイに襲いかかるが、頭上に現れたランタンをヒレイが角で刺し貫いて中の炎を弾けさせ自身の身体に浴びる事でホーリーバインドを打ち消す。

 刹那に迫るローズの盾を掴み止めて動きを止めさせたヒレイだったが、次の瞬間に盾から手を離していたローズが聖剣ヴェロニカに魔力を込める姿を捉えた。


聖薔薇輪舞ローズ・ロンド……!」


 薄緑色の刃が光を放ち、刹那に放たれる真紅の一閃が空間ごとヒレイを切り裂く。必殺の一撃を決めた事で勝負あり、とローズは思わず、自身の盾を咄嗟に使って斬撃を軽減したのを察しヒレイの眼に燃える闘志を感じとり剣をすぐに構え直す。


「スペルブレイク、ドラゴンハートッ! ヒレイ!」


「スペルブレイク、デュオガード! ラン、リンドウ、力を貸してください!」


 全身に滾る力を全て口内に収束させる白き炎へとヒレイが込めて巨大な火炎弾としてローズへ吐き出し、光り輝く太陽の如き火炎弾の圧力に押されながらもローズはデュオガードの結界に包み込まれる。

 直撃する火炎弾はデュオガードの結界ごとローズを地上へ追いやり、結界の中でローズもまた剣を真一文字に構えながら魔力を集中させてデュオガードを強めて守りを固めていく。


 ヒレイの攻撃がローズの守りを打ち砕くか、ローズの守りがヒレイの攻撃を防ぎ切るかの攻防にノヴァが固唾を飲んで見守る中で、二人のリスナーがさらなるカードを引き抜き魔力と思いを込めて口ずさむはスペルの詠唱だった。


「天を割り大地を焼き、魂を葬る大火に我願うは唯一無二の力にして覇道を進む力なり! スペル発動、アブソリュートパワー!」


「静寂に詠うは揺蕩いし波紋の如き守護の言の葉、束ねられし思い集わせ我を守れ! スペル発動、アクアランブル!」


 詠唱札解術を双方用いてスペルを発動し、エルクリッドのアブソリュートパワーを受けたヒレイがさらに火炎弾を吐いてより炎を巨大化させ攻めへ、リオのアクアランブルによって火炎弾を四方から水流が逆巻きながら火炎弾を包み込んで勢いを抑え守りを固めていく。


 燃え上がる闘志が最後の激しさを表すような激突は円陣サークルの外へ暴風を漏らす程のものとなり、やがて爆発と共に巻き起こる水蒸気が舞台上を包み込んでしまう。

 どちらが勝ったのか、負けたのか、その結果にノヴァ達の注目が集まった。

 

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