速攻

 許可を得てからエルクリッド達はコスモス総合魔法院の実技実習場へとやってくる。ちょうど建物から北西へ少しの所に拓けた場所に作られた三つの舞台があり、円陣サークル用の魔法陣も画かれ長椅子も置かれているので見るのも問題はない。


 誰もいないというのもありエルクリッドは真ん中の舞台へと跳び乗り、次いでリオも上がりそれぞれ位置につくのを見ながらノヴァ達は観戦の為に長椅子へ座る。


「そーいえば円陣サークルありでも大丈夫でしたっけ?」


「問題ありませんよ。実力を競う合うのに再起不能となっては意味がありませんからね」


 そっかとリオに答えつつエルクリッドが深く息を吐いて心を落ち着かせ、ぱんっと両頬を叩きその目に光を灯す。そのまま両者臨戦態勢へ移ると円陣サークルが展開し薄い白の結界が包み込む。


 エルクリッドとリオの二人の戦いは最初の出会い以来。そして共に実力がある事から、この一戦で二人の挑戦権も獲得する事に繋がるのも間違いはない。

 少しの緊張感の中でノヴァが固唾を飲む、と、ぱたぱたと足を揺らす存在が隣にいるのに気がついて振り向くと、ぬっと真っ赤な瞳が大きく映りびくっとノヴァは竦みタラゼドに支えられる。


「えへへ、びっくりした?」


「カミュル様、こんな所に来ていていいんですか?」


 にこっと無邪気な笑みを見せながらいつの間にか来ていたのはコスモス総合魔法院院長のカミュルであった。タラゼドの問いかけにヒマなんだもんと舞台の方へ目をやりながらカミュルは答え、幼い容姿の彼女にノヴァはひとまず落ち着きつつ隣に座り直す。


「えっと、院長さんは院長のお仕事があるのではないですか?」


「ハシュがぜんぶやってくれるからカミュルはやらなくていいの。でもハシュはいまじゅぎょーちゅーだからカミュルはとってもたいくつなの」


 カミュルが人間ではないというのはノヴァ達も知っている事である。しかしハシュのアセスというわけではないらしく、自由に行動し離れている。

 だがアセスながらも自立している存在としては十二星召セレファルシアのノヴェルカの例もあり、カミュルも同様と考えると問題ないのだろうとノヴァは考えつつ、視線に気がつき振り向く彼女が寄ってくるのに少し驚く。


「あなたいいこだね! カミュルとなかよくできそう!」


「えと、あの、ノ、ノヴァっていいます」


「ノヴァはカミュルのともだちね! それじゃいっしょにみよー!」


 元気いっぱいに腕を上げ声を響かせるカミュルにノヴァは戸惑いつつも笑みを見せ、それをタラゼドが微笑ましく見守りつつも逆隣のシェダと共に舞台へと目を向けた。


 カミュルが来た事にはエルクリッドとリオも一旦手が止まり、改めてお互いを捉え直してカードを引き抜き戦いの火蓋を切る。


「赤き一条の光、灯火となりて明日を照らせ! いくよヒレイ!」


「翼持つ守護者よ、誇り高き名を胸に剣を掲げ降臨せよ! お願いします、ローズ!」


 燃え盛る炎を突き破るように雄々しき姿を現すファイアードレイクのヒレイが力強く降り立ち、聖なる光を切り裂くように舞い降りる戦乙女ローズもまた静かに舞台に立つ。


 お互い最初のアセスは最も信頼を寄せる存在を召喚し、そこから考える事は同じと察して互いに目を合わせ笑みを浮かべた。


「リオさんも、あたしと同じ事考えてますね!」


「先手必勝、手の内はお互い知り尽くしていますからね。ならば最初から全力を尽くして相対する、ということです、ね」


 リオが言葉を言い切ると共にローズが剣を抜き、ヒレイもまた低く唸りながら足に力を入れ尻尾で舞台を一度叩き威嚇する。お互いを知るからこそ様子見せずに一気に攻め込む、考える事は同じ、それが共にいる事で影響しあったことによるものなのはわかりきっており、一瞬の沈黙の後に二人がカード入れに素早く手をかけると共にローズが前へ、ヒレイは口内に炎を蓄えた。


「スペル発動フレアフォース!」


「スペル発動ホーリーフォース!」


 まずはお互いに強化スペルを使ってのアセスの支援をし、ヒレイが吐きつける炎を盾で防ぎながらローズが翼を広げ迫る。が、ヒレイの吐く炎に押されてローズは減速し、刹那にあえて押し切られる事で距離を置いてから受け流し飛翔する。


(流石はヒレイです、簡単に切り込ませてはくれませんね)


(この俺の炎を冷静に受け流すか、ローズの技量はかなりのものか)


 互いに相手の実力を称賛しつつ次のぶつかり合いが始まる。ローズが真一文字に聖剣ヴェロニカを構え薄緑色の刃が光り輝くと、その場で剣を振り抜き薄緑色に光る刃が放たれヒレイへ向かう。

 対するヒレイは一度は口から吐く炎での迎撃を考えたが速度があった事からすぐに切り替え、翼を大きく広げはばたき身体を浮かせて躱す。


 ローズとヒレイとの体格差は歴然。しかし小回りという点で言えばローズが勝り、力という点はヒレイが勝る。

 ローズが蛇行するように飛んでヒレイを撹乱しながら距離を詰めていき、ヒレイは身体に熱を貯め込むとそれを一気に全身から放って熱波をぶつけにいく。


 放たれた熱波の勢いにローズが盾を構え防ぐも動きを止め、すかさずヒレイが迫り炎を纏わせた右手の爪を閃かせ一気に引き裂く。が、引き裂いたローズの姿が煙のように消え、それがリオのスペルによるものである事をエルクリッドと共に看破し背後から迫るローズの突きを紙一重で躱した。


「流石ですね、ですがアサルトミラージュの効果はまだ終わりではありませんよ!」


 凛とし言い切ったリオの言葉通り、四方からヒレイへ四人のローズが迫りくる。いずれかが本物で残りは偽物、アサルトミラージュのカードを前にエルクリッドがすかさずカードを切る。


「スペル発動デュオガード! スパーダさん、ローレライ!」


 二体のアセスをダウン状態とし強力な結界を展開するデュオガードが発動されヒレイを包み込み、ガキンと激しい金属音と共にローズの攻撃を防ぎ止める。が、構わずローズは結界を切り続け攻撃の手を緩めず、その意図がスペルが切れた刹那を逃さない為と悟りヒレイは舌打ちし、ならばと全身に熱を蓄えていく。


 目に見えぬ程の素早い剣の嵐が繰り出される中でアサルトミラージュの効果が切れてローズの幻影が消え、同時にデュオガードも効果を切らし刹那にローズの剣がヒレイを捉えた。

 が、喉元の手前で剣は止まっており、それがヒレイが器用に尻尾でローズを締め上げ動きを封じた為だと視認したリオがカードを抜くと共にヒレイがローズを地上へ投げつけ、さらに火炎弾を吐きつけ追撃とする。


「スペル発動プロテクション!」


 薄い膜がローズを守る壁となって炸裂する火炎弾を防ぎ、ローズもまた激突寸前で体勢を立て直し静かに着地に成功しながらヒレイを見上げ、並々ならぬ相手と互いに感じながら闘志をさらに燃やす。

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