授業中につき
コスモス総合魔法院は水の国アンディーナの北西部にある。同国内の数少ない森林地帯の奥にひっそりと存在し、魔法を学ぶ者達とリスナーについて学ぶ者達とが集う。
リープのカードを使えば一度行ったことのあるそこへは容易く行けるが、道中のリスナー達との戦いの為にエルクリッド達は徒歩でコスモス総合魔法院へと向かっていた。
だが本来そこは用がなければ向かわず、また元々は魔法使いの養成機関でもある為に魔法使いどの邂逅も多く戦いが少ないままに辿り着いてしまい、エルクリッドは少しむすっとした様子で紫のとんがり帽子のような屋根が特徴的な古城とも言えるコスモス総合魔法院を捉えていた。
「ついたのはいいけど……あんまリスナーいなかったなぁ……」
「そうですねえ……魔法使いの方が多かった印象です」
ここまでの旅路をノヴァも振り返り、遭遇した旅人は魔法使いがほとんどでありリスナーは少なく、次の挑戦権獲得の為に戦いはしたが実力差がありすぎた事で挑戦権には程遠い結果に終わってしまう。
参加証に蓄積される十二星召への挑戦権は相手との実力が近い、もしくは格上と戦う程に多く貯まり、その逆は少ないという仕組みである。
エルクリッドはここまで三人の十二星召に勝ったこともあり、並のリスナーを相手どるだけでは権利獲得が遠くなってしまっていた。その為予定では目的地に着くと同時にハシュへ挑むつもりだったが、足りない事ですぐにできない事にため息をつきがっくりとうなだれてしまっていた。
「うー……もう片っ端から全員ぶっ倒すとかしないといけないかなー? でも面倒くさい……うぅ……」
「そういう仕組みですからね。今回の星彩の儀は実力者を見つけ出すのが目的なので最終的に絞られる候補もごく僅かとなります、その抜け道として神獣や強い魔物との戦いも含めるとしてるのです」
規定の上ではリスナー以外の存在、魔物や神獣との戦いも含めて挑戦権の獲得は可能ではあるが、それだけの魔物はまず探す事の難しさがあり神獣もそれは同様である。
リスナーならば都市部を中心に探せば数はいるがその実力は振り幅が大きく、エルクリッドのようにバエルへの挑戦権に近づく程にその数も多く必要となってしまう。
そう考えた時にいかにして挑戦権を得ていくか、得たもので誰と戦うかも含め計画的にこなすか正面突破的に死屍累々を築き上げてくか、己の資質の見極め等も求められるのだとエルクリッドとタラゼドの話を聞いてリオは感じ、魔法院の正面口に張られた天幕に並ぶ者達の方へと目を向ける。
「人が多いですね……リスナーの方は、あまり多くはなさそうですが」
二つの天幕の内、人が集中しているのは魔法使いの試練の方であり、リスナーの方は受付が退屈そうに机に肘をついている有様であった。立地的に都市部から外れ一番近い村や町からも距離があるのもあるのや、序列的にはハシュが甘く見られてるのもあるのかもしれない。
気を取り直したエルクリッドが背筋を伸ばし、とりあえず行こっかと言って仲間達と共に受付へと赴く。ウラナを獲得した事で挑戦権を得たシェダはそれを使わずにおり、リオはまだクレスに勝ったのみというのもあり権利獲得まで数をこなす必要はない状態だ。
今回はシェダの戦いを見守るという事になる、神獣という強力なカードを得た彼が何処までやれるかはエルクリッド達も気になる所ではあり、しかし一方で、シェダ自身からまだ扱えないという話も聞いていた。
「ウラナの方は使えそうなの?」
「召喚以外は何とかってとこだな……ま、スペルを中心に扱うハシュさん相手には切り札にはなるから、あとは使いどころ、ってとこだな」
スペルを無力化し打ち消す力を持つウラナのカードは、スペルを中心とした戦術を行うハシュには有効なカードである。アセスとして扱えずともその点は大きく、エルクリッドに答えつつ受付の方へとシェダは進み手続きを始めていく。
参加証を提示し挑戦権がある事をまず伝え、それから対戦方法がシェダへと伝えられる。
「十二星召ハシュ殿との戦いは一対一の無観客試合となります。現在ハシュ殿は授業中ですので、終わり次第こちらのカードでお伝えします」
すっと受付の男性が差し出すカードをわかりましたと答えつつシェダは受け取り、とりあえずエルクリッド達の所へと一度戻り対戦内容などをそのまま話す。
「一対一で無観客らしい、で、授業中だから待っててくれってさ」
「それじゃあ応援できませんね……どうしましょうか?」
「ま、気持ちだけは受け取ってやるしかないな。とりあえず時間潰ししねぇとな」
しゅんとするノヴァへ快活気味にシェダは返し、ハシュに挑むまでの合間をどうするかを考える。
エルクリッドとリオの権利獲得を稼ぐのを見守るにしても、今近くに他のリスナーがいる気配はなく、やれるとすれば二人が戦うという事ぐらいだ。
しかし同時にそれしかないと自然と思い至り、エルクリッドがカードを引き抜くとリオも引き抜き互いに裏表紙を見せ合う。
「んじゃ場所見つけてやりますか、リオさん」
「お手柔らかにお願いします」
お互いに意思を示し笑顔で戦いへ。とはいえ場所をまず見つけねばならないのと、あまり離れすぎてはシェダの試練に差し支えがあるのを考え、自然と土地勘もあると思われるタラゼドへ一同の視線が集まり、彼を苦笑させた。
「すぐ近くに実技実習用の場所はありますが……使用許可を貰わないといけませんね」
「じゃあ許可とって使わせて貰いましょ、リオさんとやるのも久々だから早くやりたいです」
快活なエルクリッドの様子にタラゼドもそうですねと返しながら微笑み、許可を取る為に魔法院へと歩を進めていく。
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