塩むすびとコーラ
佐藤アサ
課題で読まされた小説に、味や匂いや色で身体が穢れそうだから食べるのは好きではない、みたいな話があった。
だったら、黒いもの、白いものに限ったら、黒か白かで塗り潰せるんだろうか。
間をとればグレーか。まあ、それでもいい。
今、自分がごちゃごちゃわけのわからなくなっているのを、どうにかしたいだけだ。
多少こじれるくらい、許して欲しい。
「昨日のが断ッ然、マシじゃね? いや、よそさまのメシにケチつけたいんじゃない。でもおれとは文化が違うっつーか」
「無理に丸くしようとすんな。おれだってこの文化じゃないんだよ。なんかこれしかなかったんだって、今日は」
「親と喧嘩中? 断った? 反抗期?」
「違うって。せめて自立って言えよ」
塩むすびとコーラ。
両方、好きだ。今朝、炊飯器に残っていた米を自分で塩つけて握った塩むすび。コーラは割高でも冷たいのがよくてさっき自販機で買ってきた。
でも目の前に今日の昼飯はこれですと組み合わせたら、少し違うな、とは思う。
昨日は食パン一袋にコーヒーだった。万人受けする、とはいわないまでも、これは許容範囲。
それで今日も今日とて、昼休み、こいつはやって来ている。
気の合う会話を求めて、気を使わない姿勢でもって、昼飯を抱えて他の生徒の隙間を抜け、いくつかの教室を越えて、おれの席まで、来る。
こいつの弁当はいつもきれいだ。
玉子焼きの黄色、肉団子の茶色、ミニトマトは赤、法蓮草が緑、雑穀だから米も白いだけじゃない。
家のひとが気合いを入れているのかと思えば、玉子は自分で朝焼いたし晩の残りを詰めたという。
「で、栄養バランス偏り文化圏のお方、玉子、一個食う?」
「いい。今日は偏ってる場所にいるんで」
「なんか平気か? 具合、悪いんじゃね?」
机を挟んで対面、首を傾げるようにこっちを軽く覗く、眼元が涼しい。
周りで他のやつらが購買だ次の授業だなんだかんだ、がやがやとやっている中で、一瞬、おれだけがしんとなる感じ。
色とりどりのものを食べているから、こいつは鮮やかに見えるんだろうか。
それでこっちは、なんだかいろいろ混じってしまっているのに。
息をついた。
「……何食っても一緒かもしれねえわ」
「塩むすびとコーラ?」
「好きなんだよ、結局んとこ」
「いいじゃん。好物、大切にしろ」
勝手なことを言ってくれる。
コーラのペットボトルが、時間の経つのにつれ、結露の滴を細かにまとう。
おれは塩むすびのラップを剥がしにかかる。
塩むすびとコーラ 佐藤アサ @sato_asa
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