この恋がツモるまで

@yakamocchi

第一局 入学式

「遅刻するよー」


 そんな声を聞いて部屋から出てきた彼ー東西南北あさいなおはどうにも気怠そうな顔をしながら、私ー東雲氷鳴しののめひいなにこう言った。


「入学式だし、そんなに早く行かなくていいんじゃない?」

「そんなわけないでしょ、入学式だからこそじゃない?」

「はーい」


 今日もそんな会話を繰り返す。

 今日は上司かみつ高校の入学式。新しい生活の始まりとともに、私だけの東西よもくんとの春休み生活は終わりを迎える。

 そう、私も東西くんも学校が始まると、そんな時間も少なくなる。


「友達、できるかな…」

 不意にこんなこと言う。

 彼は超顔が整ってたり、所作がとても綺麗というわけじゃないけど、そこそこの見た目だし、何ならそこに刺さる人もいるだろうし。

「大丈夫」

「全員とはいかなくても、数人くらいは分かち合えるよ」

「それに、何かあったら私がいるし」

「そっか。ありがと」


 気恥ずかしそうに笑う東西くん。そんな顔を見て少しドキッとする。


「…ずるい」

「ん?何か言った?」

「いや?何も」


 こうやって不意打ちをしてくるからずるい。

 だから可愛いって思えてくるの。


 そうです。私は彼に恋をしています。



「クラス同じだといいなー」

「そうだね」


 学校へ向かう途中、心配そうな声で言ってきた。彼は極度の人見知りで、初対面の人がいると声のトーンがほぼ0になる。地元からは県を一つまたいでいるので、基本的に知り合いは私だけ。さらに、通う高校は公立なので、だいたい知り合いがそれぞれ固まっている。

 …まあ私は結構フレンドリーに行けるからたぶん大丈夫だろうけど、東西くんは‥ノーコメントで。

 そんなこんなで学校に着いて、受付をすると、


「氷鳴何組だったー?」

「私は4組だったよ。そっちは?」

「終わった…6組だ…」

「まあ気軽に会えるし、大丈夫。じゃあまたね〜」

「うん、またね…」


 そんな彼を尻目に、指定された席へと進む。私も同じクラスじゃないのは残念だけど、その分東西くんがより友達づくりに集中できるわけで…って、だめじゃん!そしたら!私とよりも他の人と過ごす時間が増えちゃう!…とりあえず東西くんが友達をつくりすぎないことを願っとこう。

 心の中で一人葛藤しながら、校長先生の祝辞を適当に聞き流すのであった。


 入学式が終わり、クラスに戻ったことで、自己紹介をすることになった。自分の出自についてと好きなこと、ものについて話した。無難オブ無難だろう。案の定クラスメイトから話しかけられたが、それよりも早く帰ろう。たぶん東西くんは待ってくれてるだろうし。


「ごめーん!待った?」

「いや、待ってないよ。僕もちょっと前についたばかりだし」

 そう言って、私達は帰路につく。

「そういえばそれ、何食べてるの?」

「これ?階段から落ちそうだった人を助けたら何かリトルチョコもらっちゃってそれで…って、どしたの氷鳴!めっちゃ顔怖いよ!」

「いや、そんなことないよ。ただなぁ…ちなみに女子?」

「女子だけど…どうかした?って、やっぱり怒ってるよね?」

 怒ってるつもりはないんだけどな。ただ冷ややかな視線を送ってるだけなんだけど。

「ごめん。わかったよ。コンビニでなにか買うからさ、機嫌直して?」

「あーほんと?じゃあお言葉に甘えさせてもらうね」


 正直これで収まるわけないんだけど、東西くんから何かもらえるのならいいや。

 その後、コンビニスイーツを買ってもらって機嫌直してもらった私なのでした。



 家に帰り食事を済ませた後、


「麻雀しない?」

「いいよー三麻さんま四麻よんまどっちにする?」

「じゃあ三麻で」


 東西くんの誘いで麻雀をすることに。…ん?人が足りないのにどうやって三麻するかって?それは、ネットの麻雀を使ってCPUと対戦すれば無問題もんだいはなし

 最近調子悪いからな…勝てるか心配だけど頑張るか。


 数局経って、私が39000、東西くんが18000、CPUが48000でオーラス

「本当最近のCPU強いよね」

「ほんとそれ。何なら僕飛びそうだし」

「いや〜もう結構きついでしょ」

「まあ私とCPUの一騎打ちかn…」

「あっそれロン」

「え?」

 あれ?もしかしてやばいの打っちゃった?

「えーと二盃口リャンペーコー・抜きドラ3・赤ドラ1・ドラ4の裏2のって数えだね」

「あのー親って」

「僕だね」

「飛ぶ?」

「飛ぶね」

「嫌だああああああ!」

「じゃあ48000で逆転。対あり!」


 何であそこから捲られるの、もう!…って、そういえば全然話できてないじゃん。


「もう一局やらない?」

「オッケー三麻ね?」


「そういえばさ、クラス馴染めそう?」

「んー大丈夫かな、たぶん」

「隣の人がめっちゃ親切だから」

「ふーんどんな子?」

「聞き逃したことをちゃんと覚えてくれるし、一緒に話してくれるし、あと同性だから話しかけやすい」


『同性』という単語を聞いて私は安堵した。ほんとに良かった〜!

 数局後、私が32000、東西くんが32000、CPUが41000となって、私はかなりツモ運がいい。ハクチュンはもうポンして何なら白加カンして手牌はハツ3、トン2、へー1で絶賛聴牌テンパイ中。誰か抜いてくれないかなー。

 そんな矢先、CPUが抜いてくれた。こういうとき全部抜いてくれるからありがたい。


「ロン!」

「手牌強すぎない?」

「でしょ?大三元ダイサンゲン字一色ツーイーソー二倍ダブル役満!!64000!」

「危ねー北普通に抜こうとしてたわ」

「もういい時間だし、寝よっか」


 時計の短針は11を過ぎているところで止まって見える。

 こうして、私は大勝利を収めたのだった。今日はよく眠れそうだ。



 おまけ


 次の日。身体測定があって、現実を知らされる日になることは明白だった。

 ちなみに私の身長は178cm、体重は(ピー)kg。


「やっぱり太ったな…」

「東雲さーん!」

 そう嘆いていると、東西くんがこっちに向かってきた。

「どうだった?」

「聞かないでよ。太って萎えてるんだから。」

「でも、身長なら言ってもいいよ〜?」

「絶対煽ってるでしょ。まあいいや。身長は168cm、体重は44.3kgだったよ〜」

「は?」

「いやいやいやいや!おかしい!」

 44.3?私と(ピー)離れてるの?痩せ過ぎでしょ。

「どうしたの?」

「ちょっと話しかけないでもらっていいかな?」

「そんなに怒らないでよ〜!何でも一つ言うこと聞くからさ」

「何でも…?じゃあ太ってよ」

「それは…ちょっと…ゴメン」


 私の顔はさらに暗雲がたちこめてきただろう。

 …絶対に許さない。

 そこから学校では不機嫌が目立ち、「氷姫こおりひめ」と呼ばれるのはまた別のお話で…

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