冒頭で引き込まれ、そのまま最後まで読みました。
情景が鮮やかに目の前に広がって、気づいたらページをめくる手が止まらなくなっています。
主人公は人魚のセレイアで、お話の大半が海の中になります。
読みながら海に溶け込んでしまうような、海の中で自然と過ごしているのを体感するような、不思議な読み心地があります。
優しく無垢なセレイアは、海を深く愛しながらも、陸や空の世界に興味を持ちます。
ふらふらと出歩くセレイアを心配する、しっかり者の妹メルヴィナ。少しの会話で、二人の姉妹の絆の強さや人となりがわかります。
セリフの妙もこの作品のよさのひとつです。
そしてセレイアが出会うのが、翼人族の男性、カイルラス。
彼は最初は義務的にセレイアと接しますが、彼女の純粋さと無邪気さに少しずつ心の壁を崩していく様子が、丁寧に描かれます。
このふたりは、生きる世界がなにもかも違います。
考え方も、信じるものも、寿命も……。
それでも互いを理解しようと歩み寄り、友情が深まり、やがてもっと大切な感情へと育っていく。
種族間のいさかいは、よくあるものだと思っていました。
人魚のセレイアとメルヴィナ、翼人族のカイルラス、そしてカイルラスの友人。
新しい世代が種族の壁を越えて手を取り合えば、きっと平和な未来がおとずれる。
そう思って読み進めましたが、真相はもっと深く、悲しく、根深いもので……。
この小説は、情景描写も素晴らしいです。
海底の幻想的な世界。きらめく光、魚の群れ。広い海原を泳ぐ気持ちよさ。
美しく響く歌声。優しい人魚たち。
海に生きるもの、空や陸に生きるもの、それぞれの命が輝く、本当に美しい作品でした。
透き通るほどの純粋さのなかに、深くて重い悲しみが共存している物語です。
最後は、この世界がずっと続いてほしいと思えるほど、最高のハッピーエンドです。
オススメです!
人魚姫、と聞いて最初に思い浮かべたのは、嵐の海で王子様を助け、泡になって消える寓話でした。
優しく、美しく、ちょっぴり悲しいお話なのかな、と読みはじめた本作は、優しく、美しく、めちゃくちゃ悲しく、けれど深い愛が根底にある、素敵な物語でした。
本作の魅力はまず、明るく心優しい人魚姫セレイアが、高潔で堅物な翼人カイルラスの心の壁を突き崩していくところだと思います!!寡黙な武人が可愛らしい人魚に絆されていく様子はもー尊い以上の感想はありません!!
そして、カイルラスの主人であり友人ノアリス王と、姉さん大好き有能苦労人魚のメルヴィナ姫の取り合わせもまた尊い!!
この四人が、人間、翼人、人魚、三種族の和平を目指して言葉を交わすシーンが本当に温かで可愛くて、も、ずっとこれだけみていたい! ……と思いますがそうもいきません。
可愛らしい絵本のような物語は、段々と暗さを帯びていき、少しずつ、セレイアの失われた記憶が明らかになり、物語は佳境へ。
この情報の出し方が本当に絶妙で、不穏な空気を感じ取りながらも、祈るように読み進めてしまう魔力を感じました。
セレイアはただ可愛いだけのお姫様ではなくて、実は強い芯を持った気高い姫で、カイルラスは無骨さの中に熱い心を持った青年です。
ノアリスは軽薄なようで民のために心を砕く真摯な王で、メルヴィナは父王からの冷遇にもめげず、努力を続ける一生懸命な女の子。
登場人物がみんな魅力的で、人間臭くて、読んでいる最中、彼らの幸せを祈らずにはいられませんでした。
サブキャラの中だとパン屋さんになった人魚の店主と、長年仕えた老人魚がいい味を出していて、物語をきゅっと引き締めています。
ラストは是非、ご自身の目で確かめてください。
切なくて、温かくて、優しい気持ちで目頭が熱くなること、請け合いです。