第2話人間の愛とは、不老不死とは何なのか

「本当に不死は得られるのか。」

ギルガメッシュは半信半疑でしたし、反対したチーチェンがあっさりと認めたことも不可解でした。

「あなたは、アスタルテと違って限られた命の体しか持っていません。ですから、私はあなたの体の細胞の中にある遺伝子を書き換えて、あなたがいいと思うだけ寿命を半永久的に延ばしてあげましょう。」

体の細胞の中身を書き換えてと言われると怖かったのですが、ギルガメッシュはそれでも死ぬことがあるのかどうかを先に確かめました。

「その体で、私は死ぬことはあるのか。」

「あなたが望めば、死なせてあげるわ。」

自分が死を望むことがあるのか、それは彼自身にもわからなかったのですが、チーチェンの申し出はとてもあり難かったので、即座に答えました。

「お願いします。永遠の命をください。12人の部下の犠牲に報いるためにも。」

チーチェンは、もう一度念を押しました。

「人の心の悲しみ、そしてその愛を知るためにあなたに与えるのです。その覚悟は十分ですか。」

「はい。」

そこでチーチェンは一つ条件を付けました。

「では、余りにあっさりと投げ出されると意味がありませんから、あなたが本当に心を引き裂かれるほどの悲しみを感じ、その上で本当に死を望むまでは、死ぬことができないようにしましょう。あなたは自分では死ぬことはできないのです。つまりは、自殺もできません。もし自殺したとしても、我々が強制的に生き返らせます。それでもいいなら、認めましょう。」

ギルガメッシュは、余り深く考えずに答えました。

「お願いします。永遠の命のためなら、それしきのことは何でもありません。」

アスタルテは、ギルガメッシュに何か言おうとしましたが、チーチェンはそれを制して答えました。

「わかりました。では、アシューラ、あなたとゲンブを倒したご褒美として、彼に不死を与えてあげなさい。」

アシューラは、チーチェンに確認しました。

「本当にいいのですか、人間を不死にして。」

「いいのです。ミトラ、ヴァルナ、ウシャスのような人間がもう一人増えたところで、世界には大した影響はないでしょう。」

アシューラが首を傾げると、ゲンブが皮肉りました。

「とんだご褒美ですな。人間にとって、不死は、果たしてご褒美と言えるのですかな。」

チーチェンは、ゲンブに向かってにたっと笑いました。

「本人が渇望するのです。それ以上のご褒美はないでしょう。」

ゲンブは更に皮肉りました。

「そうですな。本人が強く望むのならば、たとえどんなに恐ろしいことでも、褒美と言えるでしょうから。」

そのやりとりに何となく怖くなったギルガメッシュでしたが、12名の部下を失った手前、ただで帰るわけに行かなかったのです。

「私が望む。お願いします。」

アシューラは、ゲンブと顔を見合わせ、うなずきました。

「わかった。では、その望みかなえよう。」


アシューラは、天使が伝えてきた文明の超越的な技術によって、女神セイシが作った、今はスザクの体となっている肉体や四神、十二神将、そして自らの天使の体の遺伝子を解析し、人間の寿命を限定する要素を既に割り出していました。

そして、ギルガメッシュの遺伝子を解析し、遺伝子情報の段階まで遡って不死の情報に書き換えたものを、特殊なウィルスとミトコンドリアを利用して彼の体に注入することで肉体を細胞段階で改造したのです。

ただ、本人には麻酔で眠らされている内に終わっていたので、全くどこが変わったと言う意識はありませんでした。

不死になったと言われて無邪気に喜んでいる彼に、チーチェンは注意しました。

「あなたは、自分では死ぬことができないのよ。肉体が消え去らない限りは、殺されても生き返るからね。傷つけば当然痛みはあるわよ。それでも死なないからね。そのことは覚悟しておきなさい。」

ギルガメッシュは、単純に感謝しました。

「それは素晴らしい。私を簡単に殺すことはできない。神のような体だ。本当に有難い。」

チーチェンは笑っていましたが、他の天使たちは冷ややかな態度でした。


アスタルテは、彼をウルクに送り届け、帰って来てチーチェンにもう一度確かめました。

「本当にあんなことして良かったの。それとも、私のミスで12名の人間を殺してしまったお詫びだったの。」

チーチェンは、天使たち皆に話しました。

「よかったのよ。少しはお詫びの気持ちもあるけど、むしろ利用させてもらったのよ。あなたたちも、人間の心の悲しみを知るいいチャンスになるから、ギルガメッシュの今後をよく観察しておきなさい。」

アールマティーもうなずいていたので、アスタルテは、釈然としなかったが引き下がりました。


ギルガメッシュは、ウルクに帰ると、自分は12名の戦士達の貴重な犠牲により、神から不死の体を授けられたと国民に宣言しました。

そして、不死を証明するのだと自分が先頭に立って周囲の国々を攻め、ギズ・ジダ王の頃のスメルの領土を確保したのです。

その過程で、元々が超人的な戦士である上、無謀とも思える戦闘でいくら負傷しても確かに死なないどころか、直ぐに傷跡一つ残さず回復してしまうことが証明されましたから、ギルガメッシュに、周囲の国々の戦士達は震え上がりました。

ギルガメッシュ本人は、チーチェンに言われたとおり、負傷すると痛みはあったのですが、確かに不死であることを確認できましたし、国民にもそのことをアピールすることとなったため、満足していました。

そして彼は、国民の熱狂的な指示を得ることもできたのです。


ただ、ギルガメッシュは好戦的だったわけではなく、スメルの昔の領土を確保すると、大臣達の意見を容れて周囲の国々と和睦し、その後は国内の充実に目を向けました。

その点は大変な名君であり、妃も運命に導かれて結ばれたと信ずるニン・ウルクただ一人を熱愛し続けていました。


永遠の命とともに王の栄光も手に入れたギルガメッシュでしたが、それ以上何かをしたいわけではありませんでしたから、名君でい続けるしかやることがなくなってしまったのです。

そして、当初は何時までも若々しく精力あふれる夫ギルガメッシュに満足していた妃のニン・ウルクでしたが、十年がたち、自分の容色に衰えが見え始めると焦り始めました。

英雄であり、国王であり、すばらしい夫でもあるギルガメッシュにふさわしい美しい自分でありたい。

このことは、彼女の夫に対する愛情でもあったのですが、そのために彼女はあらゆることに手を染め始めたのです。

最初は単なる美容法、健康法程度だったのですが、やがては食生活全般に及び、50代になっても驚異的な美しさを保ち、夫とともに奇蹟と言われていたのですが、生身の人間にはそのあたりが限界だったのです。

ニン・ウルクは、夫のために自分は若々しくいなくてはならないと信じていましたから、普通の人間なのに夫同様の不老不死を望むことになってしまいました。

そうなると、どうしても怪しげな薬やら呪術まがいのものにまで手を出すことになってしまったのです。

ギルガメッシュは、50を過ぎても30代の若さのままだったのですが、妃の彼女以外には目もくれませんでしたから、ニン・ウルクには、余計に負い目があったのです。

若い女と浮気でもしてくれれば気が楽だったのですが、毎夜のごとく自分を抱きしめ、お前一人がいてくれれば、私は幸せだといってくれる夫でしたから尚更でした。


ギルガメッシュ夫妻には、皇太子のラガシュと、隣国アッシリア出身の大臣ハルゴンに嫁いだ娘ライラがいましたが、ギルガメッシュが55歳になった時、二人揃って内密の話があるからと国王である父に会いに来たのです。

しかも、母のニン・ウルク王妃には絶対知らせないようにとの条件を付けて。

ギルガメッシュは不審に思いながら二人に会うと、ラガシュの妃ミラの侍女と、ライラの侍女が母に呼ばれて手伝いに行ったきり行方不明になってしまったと言うのです。

ギルガメッシュは、ミラとライラの侍女は美女揃いで、誘拐されたに違いないから大々的に捜索しようと答えると、二人は彼を制して実は侍女の失踪は今回が初めてではなく、5年前から冬至の祭りの時に一人ずつ行方不明になっており、何れも最後の足取りは王妃の宮殿で途絶えていたこと、今回は二人同時だったため心配になって王の耳に入れることになったことを話しました。

今まで全く彼の耳には入っていなかったので訝ると、王妃が、行方不明になった娘たちの家族に金貨と高価な宝石を贈って黙らせたのだと言うのです。

それは確かに二人の言うように怪しいと思ったギルガメッシュは、二人にまた母から侍女を所望されたら、とにかく先に報告しろと命じて帰しました。


ギルガメッシュは、悪魔を崇拝する者たちが若者の生き血をすすることによって不老不死を保つとの迷信を持っていることを知っていたため、ニン・ウルクにそれとなくたずねてみましたが、彼女は『迷信を信じたりはしませんわ。』と素っ気無く答えたため、単なる偶然かと思って、王宮内の警備の強化を命じました。

しかし、ラガシュとライラの言うことにも根拠があり、怪しいと思ったため、近衛隊の中の選り抜きの特殊部隊の隊員に命じ、王妃ニン・ウルクとライラ、ミラの3人の行動を監視させました。


程なく特殊部隊から、王妃の奇妙な行動に関する情報が報告されました。

彼女は、毎月満月の夜の翌日、何か怪しげな薬を大金をはたいて買い求めているとの情報でした。

彼女は、丁度満月が生理にあたるため、その前後は一人で王妃の宮殿にこもっているのが習慣だったのです。

しかも、その薬を持ち込んだのは出入りの商人ではなくイュンから来ているとのことだったので、ギルガメッシュは妃に直接確かめました。

すると彼女は悪びれることなく、夫のために自分は若返りの秘薬を買い求めているのだと答えました。

ギルガメッシュにしてみれば妃は彼女ただ一人であり、精力旺盛だったため生理の時以外は毎晩のように彼女を抱いていて、どうもそれらしい薬を飲んだ後の妃がとても淫乱に魅力的になることに気付いていました。

だから、若返りよりも媚薬のようなものかとその時は深く考えず、それ以上の詮索はしませんでした。


その後特に目立った動きはなかったため、たんなる偶然かと思い始めた翌年の夏至近くになって、今度は王妃が密かに身よりの無い少女を集めているとの情報が入ってきました。

そして夏至の前夜、7人の少女が彼女の宮殿に呼ばれ、そのまま消息を絶ったと言うのです。

流石に不気味なものを感じ始めたギルガメッシュは、ラガシュとライラに、今までの調査結果を知らせ、母の行動に十分注意するように命じました。


ところが、ライラと義姉のミラは、同じ歳で仲が良く、お互いの子供3人も仲良かったので二人で示し合わせて、今度母のニン・ウルクから侍女を所望されたら、二人揃って侍女に変装して行ってみましょうと危険な約束をしたのです。

冬至かと思っていたら、秋分の夜に儀式を行うので侍女を一人ずつよこしてもらいたいとニン・ウルクは二人に頼んできました。

二人は夫に告げずに白い肌に染料を塗って褐色に見せかけ、ヒンダス国境付近の出身の侍女と偽ってニン・ウルクの宮殿に入りました。


ギルガメッシュは、予てから秋分も危ないと考えていたため、特殊部隊から侍女が入っていったとの連絡を受け、ラガシュとハルゴンに連絡を取ったところ、ミラとライラが行方不明と聞くや、自ら軍勢を率いて妃の宮殿を急襲しました。


使用人たちは、主人のニン・ウルクから誰も入れるなと言われていたため抵抗しましたが、相手が国王や皇太子、大臣の軍勢と知るや渋々中に入れました。

3人は、神殿の奥の隠し部屋に突入すると、あっと叫び声を上げました。

そこには、ライラとミラだけでなく十数人の少女が裸で横たわっており、その中の何人かは首から血を流していたのです。

そして、ニン・ウルクは、娘のライラの首から血をすすっていた。

ギルガメッシュは、ラガシュとハルゴンにミラとライラの容態を確かめさせたが、二人を含めて全員麻薬を飲まされたのかほとんど意識のない状態ながら、首を傷つけられていたライラ他3人も、発見が早かったので命には別状がなさそうでした。


ニン・ウルクは、夫を恨みの目で見つめました。

「見つかってしまったのね。」

余り悪いと思っていない様子なので、ギルガメッシュは怒りました。

「何だ、この狂態は。お前は実の娘まで殺すつもりだったのか。」

娘たちの中にライラとミラが混じっていたことを知ったニン・ウルクは、流石に驚いていましたが、悪びれずに言い返しました。

「全てはあなたのため、私の美しさを保つためにしたことです。スメルの王の栄光のためです。」

「そんなことを、私は望んだか。」

言い返すと、彼女は食い下がりました。

「あなたの妃は私しかいない。あなたは、私が他の人をいくら薦めても受付なかった。あなたが不老不死となった以上、私も老いるわけに行かないじゃないですか。どんな犠牲を払ってでも、たとえ娘の命を奪ってでも、私は美しくあらねばならないのではありませんか。」

それには答えず、ギルガメッシュは、妃に確かめました。

「お前は、何人の娘の命を奪ったのだ。」

彼女は正直に答えました。

「5年前から冬至に一人ずつの5人。去年はそれに一人加えた二人、今年は夏至に7人ですから、計13人です。今晩の12人を全員殺していたら、25人になっていたところでした。」

スメルでは殺人は死刑だったのです。ギルガメッシュは、自ら剣を抜くと、血まみれで横たわる妃を見下ろしました。

彼が、自ら妃を処刑しようとしていることを察したラガシュとハルゴンは、慌てて止めに入りました。

「父上、おやめください。」

「国王、王妃はどうかしていたのです。何とかお許しください。」

しかしギルガメッシュは、国王として許せなかったのです。

「いや、ニン・ウルクは重罪を犯したのだ。たとえ王妃と言えども許すわけにはいかない。せめて私の手で処刑するのだ。」

二人が取りすがっている様子を、当のニン・ウルクは冷ややかに見て言い放ちました。

「王よ。あなたは永遠の命を得、王の栄光を永遠に保つと言われた。そして、私以外の女を愛することはないとも。それなら、私以外の女を全て犠牲にしてでも、私は生き続けるしかないのではありませんか。人間の身で不死を願えば、それぐらいの報いは当然なのではありませんか。それなのにあなたは、私を罪に問うのですか。これは、あなたの罪でもあるのではありませんか。」

ギルガメッシュが愕然として剣を落すと、ニン・ウルクはなおも続けた。

「私がイュンの商人から買っていた薬、あれはイュンの若い娘の肝や血で作ったものだったのですよ。つまりは、命を奪って作られた薬なのです。それが効かなくなってきたので、薬を作っていたイュンの医師を呼び寄せて相談しました。すると、イュンで作ってウルクまで運んでくる薬よりも、新鮮な生き胆、生き血を使ってここで作った方がずっと効果があると言われました。ですから、娘たちの命を奪うことになったのです。そして、それでも効果が薄れて行ったため、薬の量を増やすために犠牲者の数が増えて行ったのです。」

ギルガメッシュが驚愕の余り黙っていると、ニン・ウルクは続けました。

「私が平気で娘たちを殺していたとお思いですか。あなたは、常々国民は全て我子だと言われますね。私もそう思っていました。私は、その我子を殺したのです。あなたの為に、永遠を願うあなたのために。身よりの無かった七人の娘は、私の美しさのためなら、自分の命を捧げますと言ってくれたのですよ。本当の我子まで殺すところでしたけど、私にとっては、殺した娘たちは全員我子同然でした。その悲しみをあなたはご存知ですか。娘たちの命と引き換えに得た美しさ、あなたは存分に楽しんでいただけましたか。悲しみで塗り固めたこの美しさを。」

「私はそこまで望んだ覚えはない。お前が殺人を犯すことを望むものか。」

ギルガメッシュが吐き捨てるように答えると、ニン・ウルクは更に食い下がりました。

「王よ。あなたの若さが罪なのです。あなたは、自分の若さとともに、何時までも若い私を望み、毎晩私を求めました。生身の人間がそれに耐えるためには、どれだけの努力が、犠牲が必要か、わかっていらっしゃいましたか。さあ、私を裁いてください。あなた自身の手によって。さあ、悲しみで塗り固められた私の魂を解放してください。」

途中から涙を流し始めた妃を、ギルガメッシュはどうしても斬ることはできませんでした。

「私にはできぬ。お前を裁くことはできぬ。」

すると、ニン・ウルクは絶叫しました。

「できないなら、何故永遠の命なぞ望んだのです。何故永遠の栄光を望んだのです。あなたは人間でしょう。人間が永遠を望んだらどうなるか、賢明なあなたにはわかっていたのではないのですか。」

ギルガメッシュがうなだれると、ニン・ウルクは彼の剣を拾い上げ、自らの首に押し当てました。

「では、私が自分で裁きます。」

「やめてください母上。」

ラガシュが絶叫したが、ニン・ウルクは笑った。

「いいえ、王が裁けないのなら、私自身が裁くしかありません。さあ、あなた。私を見送ってください。私を解放してくださいね。」

「やめろー。」

「やめてください。」

「おやめください。」

3人は同時に叫びましたが、ニン・ウルクは剣を引き、自らの首を斬りました。

血しぶきをあげて倒れた妃を、ギルガメッシュは抱きしめました。

「ああ、これで私は安らかに眠ることができます。あなたは、私の罪も背負って、永遠に栄光に包まれて生き続けてください。娘二人を殺さずに済んだことがせめてもの幸せでした。」

ギルガメッシュは、その時、自分は永遠の命なぞ望んでいなかったことを思い知らされました。

カセンコことウシャスが彼に言ったように、自分はニン・ウルクとの幸福な生活を望んでいたのであり、他のものは付け足しでしかなかったのです。

「嫌だ。私は嫌だ。お前がいない人生なんて、何の価値があろう。死なないでくれ。」

ニン・ウルクは、苦しい息の中で微笑みながらささやきました。

「人間は、死ぬものなのです。でも、あなたのその言葉、最後に聞けて嬉しい。」

ニン・ウルクは、ギルガメッシュの腕の中で息を引き取りました。

彼は絶叫しました。

「悪かった。私が悪かった。許してくれ。」

そして、ニン・ウルクのなきがらを抱えたまま外に飛び出し、空に向かって叫びました。

「天使たちよ、私を殺せ。死なせてくれ。私は人間の悲しみを十分に知った。そして愛も。私を最愛の妃とともに死なせてくれ。」

すると、上空にヴィマーナ・トゥーラが音も無く出現し、エナジービームを放ちました。

次の瞬間二人の体は完全に消え去り、不老不死の王ギルガメッシュの魂は、最愛の妃と共に解放されたのです。


マガダに帰るヴィマーナ・トゥーラの機内で、アスタルテは、物思いに沈んでいました。

「アスタルテさま、納得が行きましたか。」

アシューラに修理されて少し体が変わったフワワが尋ねると、彼女は、首を振った。

「わからないわ。なぜ、ヴェルダンディーやヒミコだったニン・ウルクがあんなことをしたのか。」

すると、トゥーラが答えました。

「人間は、悲しい生き物なのです。」

アスタルテは、その答えに深くうなずきました。

「そうね。チーチェンさんが言ったとおりになったわ。人間の悲しみを知るいい機会だと。でも、それ以上に大切なことが一つわかったわ。」

「何を学びましたか。」

トゥーラに聞かれて、アスタルテは答えた。

「この世界を、そして運命を作った神は、とっても気紛れで、残酷で、それでいてとっても賢くて正しいってことを。」

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永遠への挑戦(ギルガメッシュ神話異聞) 神坂俊一郎 @nyankomitora

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