第8話 やっと

「いまなんと?」


「あとはお前を倒すだけだ、そう言った。前の続きをしよう」


「(アルカディア大陸最強と呼ばれた)私に勝つ、と?」


「あぁ、そうだ」


ミーナが口を挟んできた。


「坊っちゃまいくら何でもそれはどうなんでしょう」


「君が何を言いたいのか分からないけど、俺は前の続きを行い正式に勝ちたいと思ってるよ」


そうしなければこの後のイベントが起きない。


「頼めるか?セバス」


「もちろんですとも。坊っちゃま」


セバスは模擬刀を構えた。


「せ、セバス様も。おやめください」


ミーナはなぜか必死に止めようとしている。

俺からしてみればただのチュートリアルなのだからなんの問題もないのだが。


それにセバスにとってもそうだろう。

こんなものただのチュートリアルだと思っているのは向こうもそのはずだ。


「受けるのはいいのですが、坊っちゃま。ひとつよろしいでしょうか?」


「なに?」


「簡単に勝てるとは思わないことですぞ」


「(子供だとしても露骨に手を抜かないということだろう)分かってるさ」


「では、始めましょうか」


セバスが剣を構えた。


(隙がないな)


この家の執事は最低限の腕を持っている人間が多い。

もちろんセバスもそのひとりだから問題は無いんだが。


(実際に向かい合ってるせいか、ビリビリくるような威圧感)


手を抜けばやられるのはこちらだと思わせてくるようななにかがある。ゲームで何度も倒してきた相手なのにな。


「ふぅ……」


「どうしました?坊っちゃま。お気持ちでも変わられましたか?」


「いや、そんなことはない。ただ本気で行かせてもらうおかなと思ってさ」


「えぇ、坊っちゃまの本気をお見せ下さい。坊っちゃまのタイミングでお初めください」


言葉も発さず俺はセバスに切りかかった。


「っ?!」


急いだ様子で受け止めている。俺の動きに反応が追い付いてないように見える。


(だが流石は大人の力。俺なんかじゃ押すことは難しいな)


この一週間鍛え上げたつもりだが力の差は歴然。


(このまま手を抜けば負けるのは俺かもしれない。一気に決めよう)


ウォーミングアップなんていらない。ただ全力をセバスに叩き込むだけを考えよう。


「一週間前とは剣の重さが変わりましたね?坊っちゃま。ですが、それではまだ甘いですぞ」


セバスが俺の剣を受け流そうとした。

俺はそのまま剣を振り下ろす。


床に剣を叩きつけた。


ボコっという音と共に床がえぐれる。

同時に床材が塊として空中に浮かんだ。


「受け流されていますよ?坊っちゃま?」


「ロックバレット」


全身で床材の塊を殴りつけた。


「っ?!」


床材の破片がセバスに向かって飛んでいく。

無数の弾丸となった床材がセバスを襲う。


「かはっ……」


ロクな防御手段もなしに今の技を受けたセバスは膝を着いた。


「(原作通り)俺の勝ちかな」


「お言葉ですが、そんな簡単に負ける訳にはいかないのですよっ!」


セバスが剣を降ってきた。

俺の体にセバスの剣がもろに入った。

しかし


(スライムチャームのお陰でダメージはかなり軽減された)


「完敗ですよ坊っちゃま。まさか最後の一手もカバーしてらっしゃったとは」


(随分と負けず嫌いなんだな原作とは違う)


まさか不意打ちみたいな真似をして勝ちを狙いに来るとはな。

でも生身の人間って感じがする。


「この一週間でずいぶんと強くなられましたね」


「ありがとう訓練したカイがあったよ」


踵を返すと歩き出した。


「すごいですね、坊っちゃま。あのセバス様を倒してしまうなんて」


「(大したことじゃないだろ)むしろ遅すぎたくらいだ」


「え?」


「一週間前、俺は本来勝っているべきだった」


あのときの勝利を落としたのはRTAプレイヤーとして恥ずべきことである。


「ここであったことは誰にも言うな?ミーナ」


「え?あのセバス様に勝ったのにですか?」


「あぁ(ただの執事の爺さんを倒しただけだ。誇ることでもない)」


「わ、わかりました。それで今からはどこへ向かわれるつもりですか?一週間ぶりの睡眠ですか?」


ピタッと足を止めてミーナの顔を見た。


「どうしたんですか?坊っちゃま、流石に疲れましたか?」


「いや。訓練に行くに決まってるだろ?まだ訓練が足りてない」


「え?!いい加減休みませんか?!」


「だめだろ。俺はまだ一般人の域を出ていないのだから」


「えっ?あなた、既に人外だと思いますけど?!」


「ははっ、ありがとう。褒め言葉として受け止めておくよ」


そこでセバスが慌てたように声をかけてくる。


「坊っちゃま、あなたはもう既に十分な域にありますよ?」


「いや、まだだ」


「だ、誰か人間を辞めようとしている坊っちゃまを止めてくれぇぇぇぇぇ!!!」


なぜかセバスの声が響いていた。


(大げさだな。俺はまだ赤ちゃんレベルだぞ)


さてと。


これで次のストーリーに入るためのフラグは立った。

セバスを倒した俺の活躍というのは父親の耳に入り俺の将来の進路というのがある程度定まっていくことになるんだが。


(あとは鍛えながら時間が経過するの待ちだな)


ちなみに原作の方はマルチエンディングってやつで色んなルートが選べる。


(さて、どのルートを選ぼうか)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る