学園最強のツンデレわかめ使いと同室になったけれど、一番になんて興味ない私はいったいどう接したらいいだろう

川野マグロ(マグローK)

プロローグ 生意気な後輩との出会い

式敷しきじき桃花とうか、わたしはあなたを認めない」


 ダンジョン学園中等部、夏合宿当日。部屋割りが決まった私は、伝達された情報から自分の部屋の扉を開けた。


 そこで真っ先に飛んできたのは、私を否定する言葉だった。


 漆のような黒髪に、同じく艶を宿した漆黒の瞳。ゆらめくような形状をした黒いローブを羽織った、堂々とした佇まいの女の子。少し幼い印象を受けるその顔立ちは、たしか年下だったことを思い起こさせる。手に持つ杖も波のようにうねっていて、全体を通して、海を思わせる見た目をしていた。


 黙っていれば小さくてかわいいやつなんだろうけれど、それでも今、私をにらみつけてくるその目を見れば、敵対されれば、かわいいだなんて思えないことは明らかだった。


「何も言わずにわたしの顔をじっと見て、なにか言ったらどうなの?」


「いやいや、なんでもないよ。どうも、夕波ゆうなみ藻霧もぎりちゃん。学園史上最高の天才さん」


 目の前の少女、夕波ちゃんは私の言葉にぴくりと眉を動かした。


「何? 嫌味? 学園創設以来、最悪の成績を収め続けているあなただから、わたしに嫉妬しているってこと?」


「嫉妬はしていないんだけどなぁ……。あのさ。そもそもの話、私って一応あなたの先輩のはずなんだけど、責められすぎじゃない?」


 私の言葉を、夕波ちゃんは、はっ! っと一笑に付した。


「わたしは学園最弱であるあなたをセンパイとは認めていないので」


「先輩って、認める認めないとかそういう概念じゃないと思うのだけど」


「戯言を聞き入れるつもりはないから」


 どうやら、かなりの実力主義者らしい。

 そのうえ、自らの力を鼻にかけるお方だったみたいだ。


 知らなかった……。


 うわさを聞く限りでは、品行方正、成績優秀、文武両道。全てを兼ね備えた完璧超人という触れ込みだったけれど、所詮はうわさ。役に立たない。


 おそらく、このまま敬語も呼び捨ても直らないのだろう。

 まあ? この点は、年上の余裕として受け入れてあげようかしら?


 しっかしそこはいいとしても、学園最弱、ね……。


「まだ何か? あなたの顔は何か言いたげだけど?」


「ううん、なんでもないよ」


 元々、この学園に通う人は変わり者が多い。


 スキルなんて、練度が低くても便利に生活できるこの時代に、進学先として、命を使ってスキルを使いダンジョンへ潜る道を日常として選ぼうというのだから、そんな連中が変人じゃないわけがない。

 それに、便利な道具を使うより、スキル由来の勝手が悪い道具にこだわる人間だ。プライドの高い子も少なくない。

 私だってその1人だと思うし、夕波ちゃん以外で他にもいじっぱりな子は何人も見てきた。


 そのみんながみんな、力を頼りにしてきたからこそ、他人との馴れ合いをよしとしない、そんな雰囲気だった。


 ただ、馴れ合いをよしとしない子たちは、大抵、人との接し方を知らないだけだ。パーティを組まずとも、学校の課題をこなせてしまったことが原因で、協力してダンジョン攻略に取り組む意味が理解できていない。


 だからこそ、こちらから歩み寄ればいい話。


 今回だってそう。なにせ、私の方が先輩なのだし、余裕を持って接してあげないと、後輩に圧をかけることになってしまうから。


「出会い方は最悪だったかもしれないけど、何はともあれ、よろしく、夕波藻霧ちゃん」


 私が手を差し出すと、すぐに、パンっ、という乾いた音が部屋に響いた。


 一瞬何が起きたのか理解できず、自分の右手と夕波ちゃんの顔を目が行き来する。

 少し遅れて、じんじんとした熱を持った嫌な痛みが右手のひらから伝わってくる。


「え……?」


「言ったでしょう? わたしはあなたを認めないと、握手できるような対等な関係だなんて思わないで」


「いや、でも」


「この学園での合宿は、足切りの意味を持ってる。ダンジョン攻略に関する評定で最下位だった部屋は退学になる。それくらいあなたでも知ってるでしょ?」


「そりゃ」


「なら、話は早い」


 じりじりとにじり寄ってくる夕波ちゃんから異様な雰囲気を感じ取って、私は数歩後ずさった。

 背中に壁が当たった瞬間、下から突き上げるように、彼女の右腕が壁を叩いた。


 息遣いすら感じられる至近距離で、夕波ちゃんはここに来て一番の鋭さで私の目を射抜いてきた、


「攻略では、わたしの言うとおり動くように。もし勝手な真似をするようなら、拘束して協力を装ってでも一番を狙うから」


 夕波ちゃんはその澄んだ瞳で真っ直ぐと私の目をにらみつけてきた。

 数十秒間そうしていると、満足したように背を向けた。


 部屋内両脇に置かれたベッド、その入って右手側にある方へ、ぽすんと小さく腰かける夕波ちゃん。

 どうやら、テリトリーはかなりぱっくり分かれてしまったみたいだ。


 そしてこれは、一筋縄ではいかない事態かもしれない。


 自分でもわかるくらいに、私の額には力が入っている。


 いくら私が学園最下位とはいえ、こんなにイラッとさせられたのは入学以来初めてだ。

 これまでは、留年しない程度にやってきたけれど、今回ばかりは本気を出してもいいかもしれない。


 いや、私の場合、全力で手を抜く、と言った方が正しいか。






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本日は、12:13、21:13にも投稿予定です!

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