第4話 夏夜に咲く花 ― 君への告白 ―(後半)

 ― 夜空に咲く花 ―


 ドン――という音とともに、夜空に最初の花火が咲いた。

 光が一瞬で空を染め、河川敷の観客から歓声が上がる。


 美咲は息をのんだように空を見上げ、目を輝かせた。


「きれい……」


 僕はその横顔を見つめながら、花火よりも彼女の表情に目を奪われていた。


 連続して打ち上がる花火。赤、青、緑……夜空が色とりどりの花で満ちていく。


 けれど、美咲の笑顔の奥にある影を、僕は知っている。


 だからこそ、この瞬間が永遠であってほしいと強く願った。


 ― 握った手のぬくもり ―


 花火の音が少し遠くなった気がした。

 気づけば僕は、美咲の手をそっと握っていた。


 彼女は驚いたように僕を見て、それから小さく微笑んだ。


「悠斗さん……」


「美咲さん、僕……」


 花火の光に照らされた彼女の瞳に、自分の顔が映っているのが分かった。


「僕は、美咲さんのことが好きです」


 言葉が夜風に溶けていく。

 でも、その一言が僕のすべてだった。


 美咲は少しの間黙っていたが、やがて小さく頷いた。


「……私もです」


 その声は花火の音に消えそうなくらい小さかったけれど、確かに届いた。


 ― 花火が終わる頃 ―


 花火のクライマックス。夜空を埋め尽くすように光が広がり、川面に反射してきらめいた。


 美咲は僕の肩にもたれながら、その景色を見つめていた。


「来年も、一緒に見たいですね」


 僕が言うと、美咲は少しだけ寂しそうに笑った。


「……見たいです。きっと」


 その言葉の奥にある不安を、僕は感じ取ってしまう。

 だからこそ、強く言った。


「絶対に、一緒に見ましょう」


 美咲は驚いたように僕を見て、やがて小さく頷いた。


 ― 帰り道の灯りの下で ―


 祭りが終わり、人混みを抜けて駅へ向かう道。


 美咲は少し疲れた様子で歩いていたが、表情は穏やかだった。


「今日、すごく楽しかったです」


「僕もです」


「……ありがとう」


 彼女の声が夜の静けさに溶けていく。


 しばらく歩いたあと、美咲が小さく言った。


「悠斗さん。私、病気のこと、全部話してもいいですか」


 僕は頷いた。


「僕は、美咲さんの全部を知りたいです」


 美咲は立ち止まり、夜風に揺れる髪を押さえながら言った。


「もし将来、私が普通の生活を送れなくなっても……後悔しませんか」


「後悔なんてしません」


 言葉に迷いはなかった。

 美咲は少しだけ泣きそうな顔をして、それでも笑った。


 ― エピローグ:誓い ―


 駅前の灯りの下で、美咲の手をもう一度強く握った。


「美咲さん。来年も、その次の年も、一緒に花火を見ましょう」


 彼女は静かに頷き、少しだけ涙をこぼした。


「はい。……約束です」


 その夜、僕たちは恋人になった。

 けれど同時に、美咲が抱える現実が、これから僕たちに試練を与えることも分かっていた。


 それでも――この手を離すつもりはなかった。

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