第2話 春風に揺れる日々 ― 君の笑顔の奥 ―(前半)
― 新しい日常 ―
あの日から、僕と美咲は自然と一緒にいる時間が増えていった。
授業が終われば図書館で本を読み、休みの日はカフェでお互いの好きな本を持ち寄って感想を話し合う。
「悠斗さんって、読書感想文得意そうですよね」
「いや、全然得意じゃないですよ。ただ、本に逃げてるだけです」
「逃げるって……何から?」
美咲が不思議そうに首をかしげた。
僕は少しだけ言葉に詰まった。
「うまく言えないけど……人と距離を取るのが癖みたいになってて。高校の時もそうでした」
「ふうん……でも、私にはちゃんと話してくれてますよね」
美咲のその言葉に、胸の奥が少し温かくなった。
― 彼女の笑顔 ―
美咲はいつも笑顔だった。
でも、その笑顔の奥に、ほんのわずかな寂しさが隠れている気がした。
「美咲さんって、すごく楽しそうに笑うけど……なんか時々、遠くを見てますよね」
カフェの帰り道、思わず口にしてしまった。
美咲は少し驚いたように僕を見て、やがて微笑んだ。
「……気づいてたんですね」
「ごめん、余計なこと言ったかも」
「ううん。大丈夫です。ただ、ちょっと考え事してただけ」
そう言いながら、美咲は視線を夜空に向けた。
そこには街の灯りに負けて、わずかに見える星が瞬いていた。
― 桜の下で ―
四月の終わり、大学の近くの公園に行った。
桜はもうほとんど散っていて、地面には花びらが積もっていた。
「きれい……」
美咲が手を伸ばして花びらをすくい上げた。
「すぐ散っちゃいますね」
僕がそう言うと、美咲は少し寂しそうに笑った。
「でも、散るからこそきれいなんですよ」
その言葉が妙に胸に残った。
― 病院の影 ―
その日、公園のベンチで本を読んでいると、美咲のスマホが震えた。
「ちょっと、電話出てもいいですか?」
彼女は少し離れたところで話し始めた。
聞こえてくる声は小さいけれど、「先生」という言葉が耳に届いた気がした。
戻ってきた美咲は、何事もなかったように笑った。
「ごめんなさい、友達からです」
でもその笑顔は、どこか無理をしているように見えた。
― 初めての約束 ―
「来週の土曜日、空いてますか?」
美咲が急にそう言った。
「ええ、大丈夫です」
「じゃあ……一緒に出かけませんか? 本以外のこともしましょう」
彼女がどこか嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔の奥にあるものが、僕にはまだわからなかった。
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