1000歳超えてるからエルフは合法 〜エルフへの劣情を強化ポイントに変換してみた結果がこれだよ~

みなもとあるた

第1話 特殊な性癖の持ち主

【お姉さん】

主人公。特殊な性癖の持ち主。



【エルフの女の子】

捨てられた大樹に住むエルフの年長者。1158歳。仲間を守るため、いにしえの魔術を使ってお姉さんを異世界から召喚した。




「…む…たのむ…」


 小さな声が聞こえた。そして、その声に聞き覚えはなかった。


「たのむ…どうか…われらに力を…」


 誰だろう。悲しそうな声だ。いや、悲しいというよりは苦しんでいる?それとも必死な感じ?とにかく、本気で何かを祈っているということはわかる。


 私は何かの上で横になっているのを感じた。眠っていたのだろうか?ここはどこだ?何も思い出せない。たしか、眠りにつく前に何か大変な出来事が起きていたような気はする。


 いや、なんとなく思い出してきた。大変な出来事どころではない。

 私は、死んだんだ。見ず知らずの小さな女の子を交通事故から守るために。


 あのショッキングな光景が目に浮かんで、それからその光景を消そうとして、無意識にまぶたが動く。


「お、おおっ…!いまわずかに動かなかったか…!?」


 また先ほどと同じ声がする。ただ、今回はつらそうな声ではない。明らかに喜びの色が見えている。何にそんなに喜んでいるのだろう?


 そっと目を開く。視界が真っ白だ。何も見えないほどまぶしいのかと思ったがそうではない。目の前に何かがいる。白い何か。白い何かが視界いっぱいに広がっているんだ。


「よ、よかった…ついに成功した…この力があれば、もしかしたら…」


 白い何かがそう言った。もしかして、これは女の子の声か?


「だ、れ…?」


 私は力のこもらない声でそうつぶやいた。はっきりしていなかった視界が、だんだんと明確な形を持つようになる。


 そして、目の前にいた白い女の子と、目が合った。


「うわああああああああああああああああああ!!!!!」

「うわああああああああああああああああああ!!???」


 私たち二人が叫んだのはほぼ同時だった。正確には私のほうがほんの少しだけ早かったのだが。


 白い女の子が叫んだのは、きっと目の前にいた私が急に叫んでびっくりしたからだろう。

 じゃあ、私は何で叫んだのかって?


 そりゃ叫ぶでしょ!!!!!目の前にこんなかわいいいい少女がいたら!!


 熟練のパティシエが作った美しい飴細工が命を持って歩きだしたのかと思った!そういえばみんな知ってる?昔は甘いものは貴重品で庶民が手に入れられるようなものではぜんぜんなくて、せいぜい手に入るのははちみつとか果物くらいで、なんならそのはちみつだって一匹のミツバチが一生かけて集められるのがたったのスプーン一杯分くらいで、それなら等身大の美少女の飴細工をはちみつの甘さで作ったとしたら膨大な数のミツバチがその一生を美少女飴細工のために費やさなければいけないわけで、それだけの尊い命と努力の結晶としてこの少女を例えたくなるくらい彼女は甘くてクリーミーで、寝起きにこんな光景を拝める私は特別な存在なのだと感じるし、突然ですが天衣無縫という四字熟語がどういう意味かというと、おそらくこういう時のために作られた言葉なんだと私は勝手に信じているけど、天界に住んでる天女の着物は特別だから下界の着物とは違って縫い目なんてないよっていう意味で、つまりはこの世のものとは思えないほど尊くて美しいものを表す四字熟語なんだけど、それが本当にこのシチュエーションにぴったりだなって思えてきて、そういえば私もう死んでるっぽいし目の前に天使がいてもまったくおかしくないっていうかきっとこの子が私を迎えに来た天使なのかもしれなくてなんならそんなお迎えならむしろウェルカムというか死んでよかったと思えるっていうかお迎えをウェルカムってなんなんだろうウェルカム自体がお迎えっていう意味合いを若干持ってるような



「な、なな、な…!?」

 白い少女が驚いて固まっている。編み込みにした美しい銀髪が緊張で震え…いけないいけない。淑女たる私が、こんないたいけな少女をむやみに怯えさせてしまうのは主義に反している。


 私は何とか冷静さを取り戻し、現状を理解しようとする。

「ごほん…えっと、ごめんなさいね、お嬢さん。ここは、いったいどこなのかな?大人の人はいる?お姉さんに教えてほしいな?」


「大人は…いない…」

 予想以上に重いトーンで言われてしまった。


「いないの?あなた一人だけ?」

「いや、子供たちだけだ。ここにいるのは」


 はて?質問に答えてもらったのにむしろ謎が増えてしまった。できれば大人の人に話を聞きたいんだけど。というかここはどこ?あたりを見渡すと、一面が茶色なんだけど。


 よく見ると周囲のものはすべて木でできているようだ。壁や天井に、年輪というか木目というか、そんな感じの模様が見える。部屋に備え付けられている家具も、どれも同じような柄だ。


「はぁ…やはり、まずは私からすべて説明せねばならぬようだな」

 飴細工ちゃん(仮)がぽつぽつと話し出す。なんか大人ぶってる話し方でかわいいね。


「まず、あなたを召還したのは私だ。そして、この召喚があなたに大きな迷惑をかけてしまっているということは、よく理解している。そのことをまずは謝罪させてくれ」

 飴細工ちゃんは、後頭部が見えるほど深々と頭を下げる。うなじも素晴らしいね。


 しょうかん、かぁ。現実世界だと裁判の時くらいにしか使わない割にゲームの世界だと死ぬほど多用されているあの言葉ね。死んだはずの私がここにいるのもその召喚とやらのせいなのだろうか。


「召喚って、何のために?」

「戦争に勝って、この国を守るためだ…われわれには、何よりも力が足りていない。わずかな力しか持たないものは、そのわずかな力すら失うさだめにある…」


 飴細工ちゃんが木の壁をなでながら歩く。

 さっきから現実とは思えないことばかりだし(彼女の美しさも含めて)、私は彼女たちを守る存在としてファンタジーのような世界に転生してしまったのかもしれない。


「ん-…よくわかんないけど、お姉さんの力を貸してほしいってこと?でも、お姉さんそんなに強くないし、モンスターとかと戦うのは向いてないかもなーって」

「いや、直接あなたに戦ってほしいわけではない。あなたには、我々エルフを強化する力がある。そうなるように私が術式を組んだのだ。私たちを守りたいという思いがあなたにあれば、それが変換されて私たちの力になる」


 なるほど、つまり私は異世界転生した最強勇者というわけではなく、バフ要員として期待されているサポート役なわけか。そうなると気になってくるのは。


「それで、私があなたを守ると何かメリットがあるの?」


 ゆっくり歩いていた飴細工ちゃんが立ち止まる。

「はは、そうだよな。そういうだろうと思っていた。だが残念ながら、私たちにはあなたに捧げられるようなものは何も残っていない。長年の戦争で、すべて失ってしまったからな」


 よく見ると、部屋に置かれている家具も、壁も、飴細工ちゃんの衣服も、何もかもボロボロだ。ううん、外側がボロボロでもあなたは十分美しいよ。


「対価がなければ、私たちを守ろうという気持ちもきっと生まれないだろう。急にこんなことを言ってすまなかったな。すぐにでも、召喚の魔法を取り消そう」

 飴細工ちゃんは笑ってそう言った。いや、本当は笑ってなんかいない。私にはそれがわかる。これは精一杯作った強がりとあきらめの笑顔だ。


 こんな小さな女の子にこんな顔をさせておいて、黙っていられるような人間だったのか?死ぬ前の私って?よく覚えてないけど絶対に違うと思う。


 さきほど彼女は「大人はいない」と言っていたが、それはきっと私が思っていたより深い意味で言ったんだろう。もしかしたら、この国で生き残っているのは、もう子供たちだけなのかもしれない。


 下手をすれば、彼女が生き残りの中の最年長である可能性すらある。もし彼女より年上の生き残りがいたら、異世界人の召喚なんていう責任重大な大仕事は年長者がやっていただろうから。こんな幼い少女が、国一つ背負わされる責任とはどれだけの重さだろうか。


「取り消さなくていいよ。召喚」

「え…?」

 深く考えるより前に言葉が口から出ていた。


「守るよ。私があなたたちを。何をすればいいかはまだよくわかってないけどね」

 無言のまま、飴細工ちゃんの目に涙が浮かぶ。その悲しみがあふれ出る前に私はそれを飲み干したい。


「で、でも、対価は何も…私たちを守っても、あなたには何も…それに、あなたが守ってくれたとしても、この戦争に勝てる可能性は…」

私は精一杯の笑顔を作る。


「対価は、そうだなあ…じゃあまずはあなたのことを教えて?」

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