(12)自然の怒り
泣いて身を寄せ合う大衆から武器を奪い、赤月は嘲笑った。
「盤上とはこういう所だ。今回は武器を……次に会ったときは命を貰う。わかったら消えな!」
大衆に爆弾をぶつけ、火花と煙で目を眩まし、ボンバー団は次の獲物を求めて駆け去った。
すでに大衆から三十ほど、ジャスティス団から二十ほどの武器を奪っている。
公園にいるのは弱い駒ばかり。仕事は簡単だった。
ウマの操縦は子分に任せ、赤月と逢魔は荷車の上で奪った武器を物色した。
大半はがらくたのような弱い武器ばかりだが、中には強力な物もある。
逢魔はそう感じたひとつの武器を手に取った。
「やはり改造されてますね。売り物にならんブツです」
赤月はそれを受けとり吟味した。黒い稲光が迸る。
これを使った相手は確かに強くはあった。
「目的はこんなゴミじゃねえ」
赤月が杖を握りしめると、杖は爆音を立ててへし折れた。
黒い煙が立ち昇る。
盗めば盗むほど強くなる、盗賊団の成長のために武器を奪う。が、今の主な目的は大衆を盤上から追い払うことだ。
そして最終的にはこのゲーム盤を奪う。
それがボンバー団をさらに成長させる。
「ここいらの獲物はあらかた逃げちまいましたね」
と逢魔。目的のひとつを果たせたということだ。
「湖へ向かえ」
赤月は子分に指示を出した。
「あんな臭い所に獲物はいないと思いますが……」
「セーラに仕事を任せている」
逢魔の疑問に赤月は食いぎみに答える。
詳しい説明はセーラにさせる。
悪臭が漂ってきた。
草原エリアを抜けて湖に到着した。
水に浮かぶゴミとゴミのぶつかり合う音が耳障りだ。
見た目も匂いも音も不快で、今や誰も近寄らなくなったその水辺に一人の駒が佇んでいた。
紺色のゆったりした服装の駒。
ボンバー団でもジャスティス団でもない。
見た目で判断するのなら強くはなさそうだ。
「邪魔ですね。軽くひねって来ます」
逢魔が威勢よく身を乗り出した。
「たわけーい!」
と、赤月がビンタでそれを止める。
「大衆を苛めちゃダメって言ったでしょ! どうして親分の言うことが聞けないの!」
「赤月……」
「なんじゃい?」
まるで威厳の感じられない返事。
本物の赤月が意識を取り戻したとわかり、逢魔は項垂れた。
後ろに控えていた子分たちからも露骨に緊張感が消えた。
赤月はバンダナの上から鼻を押さえた。
「臭い。何で僕、こんな所にいるんだっけ……思い出した。逢魔、僕のこと爆発させただろ!」
「油断するなという警告だ。盤上では爆弾がどんな形をしているかわからんぞ。迂闊に近づくと爆発するってことをボンバー団の親分として肝に銘じておきな」
「ええ? わかりました……」
強気に来られると赤月は弱気になる。
一際大きな波が来て、ゴミ同士が大きな音を立ててぶつかり合う。
赤月はちょっと驚いてぼやいた。
「湖が荒れてるな……ちょっと前はもっと穏やかだったのに」
「湖を汚されて怒ってるのさ」
「怒ってる? 誰が?」
「湖……いやこの公園そのものだ」
「公園って怒るの?」
「人の世だって、人間が山や海を汚せば自然の怒りを買うだろう? それと同じような話しだ」
「それはものの例えで、大抵は作り話だ」
「盤上ではマジで怒る」
「ああ、そう……わかった」
もう無理やりにでも理解する。
赤月が怖じ気付いたと思ったのか、逢魔は笑みを浮かべた。
「恐れることはねえ。人の世の自然と違って、盤上にあるのは自然もどきだ。実力さえあれば切り抜けられる」
「さては他でも経験済みだな?」
「盗賊団をやってるといろんなもんを怒らせちまうのさ」
ゲームの世界だから盗賊行為も許される……なんて思っていたけれど、そんなに甘くないようだ。
そんなやり取りをしている間に、紺色の駒の方からこちらに歩み寄ってきた。
「何か用か?」
逢魔が喧嘩腰にたずねる。
紺色の駒は【神話作家】の礼司と名乗った。
「ボンバー団に忠告する。キミたちは勝ち目のない相手と戦っている。バッドエンドを向かえたくないのなら、公園から手を引くことだ」
「言いたいことはそれだけか? 盗賊の前におめおめと近付いて只で済むと思っちゃいねえよなあ!」
逢魔の脅しには答えず、礼司は赤月に目を向けた。
「せっかくの忠告だけど、僕にも引けない訳があるんだよ」
赤月の言葉を聞いて、礼司は悲しげな表情を浮かべる。
「残念だ。俺はハッピーエンドにならない物語を書く気はない」
そう言って懐から一冊の本を取り出した。
まな板のような大きな本は、盤上では武器にもなることを赤月は知っている。
礼司は去り際、その本を湖に投げ捨てた。
ポイ捨ては感心しないが、真に感心できないことをやらかしたのはボンバー団の方であり、自分がその親分であることから注意は出来なかった。
礼司が去ったあとで赤月は切り出した。
「で、僕たちがここにきた目的は?」
「マガト親分が言うには、セーラが仕事をしているらしい」
「何の?」
「さあな、取り敢えず待ってりゃ来るだろ」
こんな臭い所で待つのは不満だったが、親分としてそこまでわがままは言えない。
しばらく荒れる湖を眺めていたが、水面からではなく空から声が聞こえた。
「おお~い」
弱々しい声と共にキャリーがゴミの上に墜落した。
「大丈夫……?」
人の世では無事では済まない衝撃だったので赤月は一応聞いた。
「やっぱりくさいなぁここは。飛ぶ力が出なぁい」
やっぱり無事だった。
キャリーはふらつきながら立ち上がった。
「キャリー、何かあったのか?」
逢魔の問いに、目を回しているキャリーはあさっての方を向いて答えた。
「お知らせだよぉ二人とも。悪い知らせとヤバい知らせがある。どっちから聞く?」
「どっちも聞きたくないです」
「そういう訳にもいかねえよ。キャリー、悪い知らせとは?」
赤月よりも逢魔の方がしっかりしている。
「サージャンがやられたぁ」
「やられた? 誰に?」
「蒼沫……サージャン、蒼沫のことは許せないって、機会があれば決着をつけてやるって言ってぇ……」
「返り討ちにあったってことか。やはり人間の力は侮れんな」
そう言って逢魔は赤月に期待の眼差しを向けた。
「サージャンはぁ……最後は自爆したよ。だけど蒼沫は仲間に守られて死なずに済んだみたい」
キャリーがどうしてのんびりした口調で喋るのか疑問に思っていたが、風車を回しすぎて目を回しているのだと今気づいた。
「サージャンは実力より収納力を見込まれていた……とはいえゴリラモードのサージャンは相当強いはずだったんだがな」
逢魔の言うゴリラモードという言葉に赤月は強く興味を引かれたが、もうひとつのヤバい知らせの方が気になった。
「ジャスティス団が大衆に改造武器を配ってぇ、ボンバー団を捕らえるよう命令したの。盤上にいる全員がボンバー団の敵になったんだぁ」
「大衆が武器を持ったところでそんなに驚異にならないのでは?」
赤月の疑問に逢魔もキャリーも首を横に降る。
「改造武器は厄介だ。強化アイテムを身に付けていたボンバー団とジャスティス団が互角に渡り合っていたのは、改造武器の強さに何度かしてやられためだ」
「それに、ゴリラモードのサージャンは改造武器にやられたのよぉ」
「ボンバー団の団員を引き抜かれ、多くの大衆がジャスティス団に付いたとなれば、もう数では敵わん」
「わかった。ヤバいね……さっきの神話作家とやらの忠告に従っておけばよかったかな」
臭くて重たい空気が漂う中、湖に浮かぶゴミが大量に盛り上がった。
こぼれ落ちるゴミの中からボロボロに傷付いた黒いカバが現れた。
前に乗ったカバより十倍でかい、ワゴン車くらいの大きさのカバだ。
そのカバが大口を開ける。
喉の奥からセーラと三人の子分が姿を現した。
「あら、待っててくれたのね。うふふ」
セーラは子分の三人を外に出して、カバの治療……ではなく修理を命じた。
三人はハサミと糊と巨大な折り紙を取り出す。
折り紙を傷の大きさに合わせて切って、患部に糊で貼り付ける。それだけでカバはみるみるうちに修復されていく。
盤上のデタラメにはもう慣れた。
「中で話そう。ここは臭くてたまらないよ」
赤月、逢魔、キャリーが乗り込むと口が閉じられる。嫌なにおいも音も消えた。
「これって、あのカバ?」
赤月の問いにセーラが答える。
「そう。自警団の本拠地から一緒に脱走したあのカバだよ。水中ではこの姿になるの。うふ」
一人ずつ狭い喉の奥を通る。
喉の奥は上下に別れていて、セーラは上へ案内した。
カバの内部は外から見るより広く、背中の辺りが操縦席になっていた。
定員は八人。前方に操縦席と助手席がひとつずつ。真ん中に三人、後ろに三人ずつ座れる席がある。
後方の四人分の席が埋まっていた。
海賊班のセーラの子分だ。
前方の席には舵がひとつ、レーダー画面、他にたくさんのボタンが並んでいる。
その後ろ、中心の席には潜望鏡がひとつあり、全ての席の足元には足漕ぎペダルがついている。
やはり水中でも人力のようだ。
セーラが操縦席に座ってるので赤月は助手席に、逢魔とキャリーは空いてる真ん中の席に座った。
フロントガラス……というより恐らくはカバの目を通して映るスクリーンが前面にある。
水面に浮かぶゴミ、水中を漂うゴミ、湖底に沈むゴミも見える……赤月は目をそらして話しを切り出す。
「それで、何をしてたの?」
「宝探しだよ」
「ほう」
「この公園には私たちとジャスティス団の他に盗賊がいる。【飛行師】モナミ。一度見たでしょ? 鳥の姿の……」
「あー、あの……」
これまで見掛けた駒を全て覚えることは無理だが、空を飛べるような駒は珍しいので覚えている。
「鳥の習性でしょうね。モナミは武器を集めては巣に持ち帰っている。宝ってのはそのことよ。うふふ……たんまり溜め込んだそいつを奪えば、私たちは相当パワーアップ出来るよ」
盗むことで強くなる……ゲーム世界の盗賊の理屈……好きになれそうにない。
赤月は気が沈んだ。
「その飛行師ってのは何者なの?」
赤月の疑問に答えたのは逢魔。
「俺たちが第一、ジャスティス団を第二の盗賊団とするのなら、第三の盗賊団と言ったところだな。団と言ってもモナミは一人のようだが、ボンバー団にとってもジャスティス団にとっても敵であることは間違いない」
「何で盗賊ばっかり集まるんだこの公園……」
「困ったものよね盗賊さん。うふふふふ」
セーラに笑われて、赤月は自分の失言に気付いた。
ひとつ咳をして話しを続ける。
「……ま、そういうことなら獲物の条件として不足はない。それで、この湖の奥にモナミとやらの巣があるんだね……ちょっと疑問なんだけど。そいつはこの辺の悪臭はなんともないの?」
「そんなはずはないわ。キャリーも匂いの壁は越えられなかったし、ジャスティス団もヘリで突破を試みていたようだけど……うふ、この辺りで何度も墜落していたよ」
「ヘリをも落とす悪臭!」
「この匂いの中では力が入らないの。アタイもジャスティス団のヘリも、動かす方法は人力なんだ。それも空を飛ぶとなると相応の力が必要なのに、それが奪われる」
目を回さなくなったキャリーの声は別人のように落ち着いている。
「元も子もないこと言うけど、掃除したら?」
赤月の提案は逢魔に却下された、
「そうしたらせっかく追い出した駒共まで戻って来ちまうだろ。まだダメだ。ジャスティス団の奴らも、残った大衆も、飛行師モナミも全部追い出して、このゲーム盤を俺たちの物にするまでは」
「それはわかったけど、そのせいでモナミに縄張りを与えちゃってるじゃんか……何でモナミだけ奥まで行けるのかな」
「これはマガト親分の考えだが、飛行師モナミは風に乗って飛ぶためにそれほどの力を必要としていないのだろう。そして猛スピードで飛ぶため匂いの壁も短時間で突き抜けられる。壁さえ抜ければ匂いはだいぶ収まるのさ」
「じゃあ、行き来する度にメチャクチャ我慢してるってことか」
「そう思われる」
次にセーラが説明を代わる。
「水中には匂いは届かない。だからカバくんと一緒なら匂いの壁も突破できるの」
「カバだけ? 他に水中を移動する手段とかありそうなものだけど」
「このゴミだらけの湖を泳ごうとする駒はいないよね。他には潜水艇も数台はあったんだけど……うふ、壊した」
「おいこら」
「だって、ジャスティス団に奪われる危険があったんだもの。実際、カバくんだって奪われかけたしね」
「納得したか?」
赤月はもういいや、という気分で頷いて話しを進める。
「カバくんがいるならさっさとその宝とやらを盗めてるはずじゃないか?」
「それがね、長いこと探してたけれど今までずっと見つからなかったのよ。モナミも公園からは出られないはずだから、これまでに奪った武器はどこかに隠し持っているはずなのに」
公園に数ヵ所ある出入り口は全てジャスティス団の精鋭が固めており、出ようとしても出られない……という話しを赤月はこのとき初めて聞いた。
公園を奪うことが目的のボンバー団はそもそも出る必要がないからそれで困ることはないようだが、負けたときに逃げることもできないということは承知のことなのか。
「でも、ついさっき偶然、運命的に見つけたから安心してね。うふ」
とセーラは続けた。
「じゃあ、そのとき回収出来たのでは?」
「いいえ、出来なかった。このカバくん、外から見たらボロボロだったでしょ? あの状態じゃ大荷物を持って動かせないのよ。だから修理をするために一旦戻ってきたの」
「このカバはなんでこんなにボロボロになったんだ?」
「ほら、見て」
セーラはスクリーンに映る大量のゴミを指した。中にはドラム缶やバーベルのような、人の世では水に浮かぶ訳がないものまで浮かんでいる。
「これらのゴミがぶつかって来て破損するのよ」
「つまり自業自得ということか」
「そう言うことね、うふふ。だから最初からやり直し。せっかくだからこのメンバーで行こうよ。強い駒が乗った方がカバくんの性能上がるのよ」
そう決まったところでタイミングよく、天井のスピーカーから修理が終わったという子分の報告が入った。
「ありがとう。私らこれからもう一度出航するから、帰ってくるまで待ってて」
セーラがマイク越しに返事をした。
「ここで待たせるのはかわいそうだ。もう一回口を開けて」
赤月に従いセーラはカバの口を開けた。
匂いに耐え、子分たちの視線に緊張しつつも、赤月は声をあげた。
「みんな、僕たちはここを離れる。ここは臭いから、好きな所で身を潜めてていい。けど、大衆相手に盗賊行為はしないように」
子分たちは返事をしない。
「えっと……わかった?」
もう一度声をかける。
子分たちはみんな顔をそらし、舌打ちをし、露骨に不満を表した。
赤月は自分が親分とは認められていないことを改めて理解し、ショックを受けた。
「返事はどうしたてめえらっ!」
ショックを受けた隙を突いてマガトが乗り移る。
「はいっすいません!」
子分たちはよい姿勢で返事をした。
「おいっ、勝手に出て来るな!」
赤月は頭上で手をバタつかせてマガトを追い払った。
改めて席に着く。
逢魔が潜望鏡を覗く見張り係。
キャリーと子分たちはペダルを漕ぐ係。
「僕が船長だよね?」
と赤月の要望にセーラは一瞬間を置いて頷いた。
「……親分だから当然ね。私が操縦するわ」
「え、船長って操縦できないの?」
「うふ。船長は周囲に注意を払って、見張りの報告を聞きながら、安全に航行出来るよう私に指示を頂戴。ご覧の通りカバくんは傷付きやすい。障害物がぶつかってくるから、当たらないよう進ませてね」
「わかった。それじゃあ、出発しよう!」
みんなでペダルを漕ぐ。
セーラの舵に合わせてカバは向きを変え、前進し始めた。
ゴミを掻き分け、ある程度進んだ所で、
「潜るよ」
とセーラが潜水ボタンを押す。
カバが水中に沈むと明かりがほぼ途絶えた。
「……暗いな」
「ゴミが明かりを遮断してるからね」
赤月の呟きにセーラが応える。
誰のせいだとかはくどくなるからもう言うまい。
操縦席と助手席の目の前にはいろんな機能のボタンがある。
「……ライトボタンはこれだな」
赤月がライトを付けると前方十数メートルが照らされた。
ビニール袋だとか空き缶だとかが、まるで水中生物のように漂っている。
「親分、上方二時の方向からでかいタイヤが落ちてくる」
逢魔が報告した。
「二時の方向?」
「この方向」
セーラがライトを斜めに動かして落ちてくるタイヤを照らした
「どうしよう?」
船長の赤月がたずねる。
「避けてもいいし、攻撃ボタンで破壊してもいいよ」
赤月はセーラが指差した攻撃ボタンを躊躇なく押した。
カバの鼻の穴からミサイル型花火爆弾が飛び出してタイヤを破壊した。
「よしよし」
頷く赤月にセーラが忠告する。
「気を抜かないでね。ここからが本番だよ」
「ほ、本番?」
逢魔から報告。
「五時の方向からミサイル魚が九ノットで接近。距離は十メートル。十一時の方向からピラニアの群れが五ノットで接近。距離は二十メートル」
「あわわ……どういうこと?」
「落ち着いて。後ろから来る方が速いし近い。そっちから対処するの。面舵? 取舵?」
「取り敢えず、避けるか……面舵一杯!」
「お、面舵一杯、サー!」
セーラは一瞬戸惑いつつも舵を一気に右に回した。
曲がった先に傾いた電柱が立っており、カバと衝突した。
「ギャー!」
子分が叫ぶ。
電柱は倒れて、画面に映るカバの表情が涙目になった。
「船長……レーダーには右方向に障害物が写ってたと思うけど、ちゃんと見てた?」
セーラは怒ってはいないが笑いもせずたずねた。
「み、見てたよ。なんか影が写ってた」
「それじゃあ、面舵一杯の意味はご存知?」
「知らずに言ってゴメンナサイ!」
「うふふ、無理もないね。船長、自分で舵を握って。思う通りに動かして、出来るだけ障害物を避けてね。私らは勝手にフォローさせてもらうよ」
「やったーっ」
本当は操縦をしたかった赤月はセーラと席を入れ換える。
「レーダーや画面を見て、障害物を避けながら西北西を目指してね」
セーラの言う通りゴミを避けながら進む。
赤月はすぐにパニクるため、逢魔も余り報告できなくなっていた。
魚が突進してくるし、タコが八本の足を使ってゴミを投げつけてくる。
これも自然の怒りというやつだ。
レーダー画面のカバの表情が怒っている。
「今、損傷率二十パーセントくらいかしらね。傷つく度にカバくんの表情が元気なくなっていって、このまま傷を増やしていくと、わかると思うけどオダブツよ。うふ」
オダブツとなるのはカバだけではなさそうだ。
カバが突然回転を始めた。
「うわ、舵が効かないっ」
初めてのことが起こると赤月はすぐに慌てる。
回転もすぐに収まった。
「渦に捕まったね。無理やり方向を変えられるよ。レーダーを見て進路を戻してね」
セーラのアドバイスを聞きながらカバは順調に進む。
降り落ちるゴミ、突進してくる魚介類、押し寄せる水流……そういった自然の怒りによる妨害に対処しつつ、進路もしっかり取る。
セーラは安心したように笑った。
「うふ、勘を掴んだね、船長」
「ああ……こういうのなんだよ。僕がゲームの世界に求めてた楽しさは。野蛮な盗賊行為や殺伐とした縄張り争いなんかじゃなくてさ!」
赤月は嬉しいような泣きたいような感動を口にした。
「そう言ってもらえるんなら湖汚してよかったよ」
「俺たちに感謝してくれていいんだぜ?」
「そこには感動していない!」
親指を立ててほざくセーラと逢魔に反省を促した。
ふざけたことを言いながら逢魔はちゃんと見張りをしていた。
「船長、上空全方向からゴミが、大量に降り注いでくる!」
上空にライトを向けると、ゴミが雨のごとく広範囲に降り注いでくる。
「どどどどうするするっ?」
「全員、全力で漕いで! 船長も!」
「サ、サー!」
パニクる赤月に代わってセーラが指示を出す。
速度は上がったが、小さなゴミがカンカンとぶつかる。
レーダーに表示されるカバの顔が泣きそうになっていた。
降り注ぐゴミが段々と大きくなる。
「あわわっ、バリアーボタンはないのかこのカバっ!」
赤月は十個あるボタンを手当たり次第に押した。そんなものはない。
「最後の手段。マガト親分から貰ったジェット爆弾を使う!」
セーラが操縦席に隠されたレバーを引いた。
「あっ、それ僕がやりたかっ……」
赤月がわがままを言い切る間もなく、後方部から爆音をあげて猛スピードで前進した。
全員、重圧でシートに押し付けられた。
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