『27卒 強みまみれ人間』

@play_worker

『27卒 強みまみれ人間』

「あなたの『強み』は何ですか?」



「はい!! 私は、、、、『強みまみれ人間』です!!!!」




彼は小さい頃、

「強み」なんて無い方が良いと思っていた。

強い奴が、弱い奴を傷つけるのを見ていたから。

だから、誰かを傷つけてしまうくらいなら

強くない方が良いとさえ思っていた。


でも、ある日彼は

「強み」が無い奴は負けることを

身をもって知った。

「強み」を持たねばならない。

彼は覚悟をした。

自分を守るために。

別に、勝ちたいわけじゃなかった。


そして、彼はちょっと強くなった。

成長して、少し「強み」を手に入れた。

でも、それは簡単に人を傷つける凶器だった。

そのことを知った。


ショックだった。


自分が傷つきたくないから「強み」を求めただけなのに。

手に入れてはじめて、その扱いづらさを知った。

人を傷つけることは避けたかった。


「強み」を制御するためには、

自分をさらに鍛える必要があった。

そうして、彼には別の「強み」が出来た。

ならば、新たな「強み」を制御するために、自分をさらに鍛える必要があった。


繰り返したら、出口が無くなった。


出来上がったのは、「強みまみれ人間」だった。

自分も傷つきたくないし、他人も傷つけたくない。

この2つの単純なアルゴリズムで、簡単にモンスターが生まれた。


一見、彼には悩みなど無いように見えた。

なんだってソツなくやってのけた。

かと言って、それを自慢する訳でも無く。

笑顔で、優しく、頭脳明晰で、面白く、謙虚だった。

それでいて、もう満点なのに、満点に見えない弱さだって見せられる。

つまるところ、彼は「∞メタ満点人間」だった。


しかし、彼は悩んでいた。

別に彼は、優れたいわけじゃなかった。

尊敬をされたいわけじゃなかった。


ただ、

誰も傷つけず、

誰にも傷つけられない という約束のもと、

人と対等に接することを望んでいただけだった。


しかし、人は彼を畏れた。

底の見えない彼の優秀さを目の前にして、人は距離を置いた。

その尊敬が彼を孤立させた。

苦しめた。

自分が傷つくのが何より怖い少年、

人を傷つけるのを何より嫌がる少年だった。

豆腐超えてシャボン玉メンタルの心優しきぽわぽわ少年だ。


そもそも、一人で生きていける訳が無かった。


もう長らく、

そのシャボン玉は割れていなかった。


前に破裂したのはいつのことだろうか。


じわじわと、いつの間にか。

成長し続けてしまったシャボン玉は、

今にも割れんばかりに膨らみながら、

不安定に揺らいでいた。


彼は、もう楽になりたかった。

だけど、自分で手を下すことは怖くて出来なかった。


「無人島に持って行ける物を1つ」と聞かれたら、

「つ、爪楊枝!」と即答してしまうくらいには、

シャボン玉を突いてくれる人を心の底から求めていた。



そんなある日、彼は面接を受けることになった。


正直、現在の彼が持っている性質は

アイデンティティだなんて言葉に

簡単に抽象化できるような、

統一化された代物ではなかった。


揺らぎに揺らぎ、激しい熱を持って運動していた。


今にも、

この世の全員に迷惑をかけてやるような大爆発を起こして、

誰かに責任を問われる前に雲散霧消してやるからなと、

シャボン液達があちこちで叫んでいた。




そんな時、面接官から質問が飛んできた。



面接官「あなたの『強み』は何ですか?」



彼「。。。。」



面接官「すみません、あなたの『強み』を教えて頂けますでしょうか?」



彼 「、、、、


  うううううぅぅ。。。。。

  




  知るか!!!!

  




  知るかぁぁ!!!!!!!!!

  




  、、、、、、、。。。





 



  うううぁぁああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!

 











  うん!!!!





  はい!!!!








  私は、、、、、、、、









、、、、、『強みまみれ人間』です!!!!!! (笑) 」








面接官の引き攣った表情が、彼には心地よかった。







(おしまい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『27卒 強みまみれ人間』 @play_worker

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画