希望浜(時刻表のないバス停)

藤井弘司

第1話

 ところどころ舗装が崩れていて、石ころや土がむき出しになった粗雑な大通りに面して、道路の事情に負けず劣らないボロボロの板張りで囲われた、今にも崩れ落ちそうな粗末なバス停があった。


 通りが見渡せるように板は腰のあたりの高さまでしか張られていないが、待合場所にはトタン屋根が付いていて雨露さえも凌げるように、親切かつご丁寧に造られている。


 だがバス停の表示板には、目を近づけてしっかりと確認しないと判読が難しい文字で「希望浜」と書かれているだけで、時刻表の類はどこを探しても見当たらないのだ。


 私がこのバス停にたどり着いてから、もうかれこれ一昼夜を過ぎたが、バスは一向に道路上に現れない。


 今朝方ひとりの女の子がひょっこり入ってきて、長い板敷の上に横向きに体育座りになり、僕と同じようにずっとバスを待っているのだが、ひと眠りして目が覚めると、今度は彼女が仰向けになって眠っていたりもして、もうかれこれ八時間ほど同じ屋根の下にいるというのに言葉を交わしていない。


「いったいバスはいつやって来るんだろう」


 二日目の夕陽がバス停の裏手にある雑木林の向こうに沈んでいくのを見ながら、無意識のうちにため息まじりに呟いた。

 女の子はそんな私を不思議そうな顔で見ていた。


 三日目の朝を迎え、バッグから硬くなってしまったライ麦パンを取り出し、義務感のようにそれを齧りながら、目的地の街で、「いつかきっと訪ねてくるに違いない」と思って待ってくれているかも知れない江美のことを思った。


 いや、かも知れないではなく、彼女はきっと私が現れるのを、根拠のない確信を持って待っているに違いないのだ。

 まるで私と女の子がいつ現れるとも知れない「希望浜」バス停でバスを待っているように。


つづく・・・


*次号から本格的記述に入ります、よろしくお願いします。

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