ラブ×4~白い鳥が羽を広げる瞬間~


私は来栖さんからもらったミルクティーを飲んで思い出していた。


『僕、ここで約束します。小鳥遊さんを裏切らないと!男に二言は無い、小鳥遊さんが信頼できないなら小鳥遊さんを裏切ったらハレン社長に好きなだけ言ってくれて構わない。たとえ解雇になってもいい。』


あんなこと言われたの初めてだったな。それにまさか土下座を生で見ることになるとも思ってなかった。


「土下座なんて、ドラマだけのものだと思ってた。あーもう!私は、何をさっきから…」


歌番組の出番前で歌詞の復習しようとしているはずなのに、集中できない。本当はもっと本番の為にやることや大事なことあるのに、さっきのことから頭が離れない。


「あんな泣いたのも久しぶりだったな。泣いたのはクルリの時だったかしら。」


来栖さんが急に土下座したのは驚いたけど、熱意が伝わってきて、彼の真っ直ぐな優しさがクルリの無条件な優しさを思い出して…八つ当たりした後悔が押し寄せてきた。


「私。決めた。」


ハレン社長は紳士に対応してくれたのだ、来栖さんのように深々と土下座をして。周りの環境は悲惨なこともあったけど、アイドルが好き。歌うことも、ダンスする楽しさも…。


「それでは歌って頂きましょう。ColoRuNeAで甘いイタズラ。」


よし、歌番組収録の本番。完璧にやってやるわ。


「こんばんわ〜!ColoRuNeAです!」


こんな24人のグループに埋もれているなんて、私じゃない。


「「「甘い夢見てると なんだか切なくて〜」」」


私に相応しいのは。ColoRuNeAのパフォーマンスで空けた真ん中を歩いて私がソロを歌うように、1本踏み出した先よ!!


「イタズラのキスに 私は負けないわー!」


私はその真ん中の道を駆け抜けてターンをして回って見えるのは、舞台装置の薄紫色の紙吹雪とお客さんたちの薄紫のペンライトばかりのステージを、この国中がもっともっと!私色に染めるんだからー!


「「「ColoRuNeAでした!」」」


お客さんの歓声は圧倒的に私支持ばかり、でも私が努力した結果でもある。


「お疲れさま、小鳥遊さん!」


「…お疲れ様です。来栖さん。」


来栖さんの顔を合わせるの少し私は気まずい。


「小鳥遊さん、どしたの?大丈夫??」


顔近っ!!しかも上目遣いをするなんて…来栖さんを見ているとクルリを思い出す。ホルメン遊びに行きたいな。


「顔が近いです!大丈夫ですから!」


「あ、ごめん。」


悪気がないのはわかるからまあいいわ。


「あの、来栖さんにお願いがあります。」


「お願い?」


私が頼んだのはハレンプロダクション芸能事務所。


「ハレン社長。すみませんお時間を頂いて。」


「ううん、ちょうど時間が空いていたから構わないよ!」


ハレン社長の笑顔、本当は前回も前々回も報告するの心苦しかった。


「ハレン社長、私ColoRuNeAを卒業して。ソロアイドルとして活動したいです!!」


「小鳥遊さん。」


少し沈黙が社長室の雰囲気に染まる。でも私は散々なこともたくさんあったけどやっぱり小さい時に目指していた通りでアイドルを愛している。


「いつか、その時が来ると思っていたよ。」


「私もっと輝きたいんです、グループの中ではなく!私自身で!!」


「君をスカウトした時が懐かしいな。5歳の時にスカウトしたから、12年か。よく頑張ってくれたな、それなのに君を傷つけてしまった。」


「ハレン社長に恨みはありませんが。私、小鳥遊

夢唯をスカウトした人であり、大人としてアイドルにした人として責任取って下さい!」


社長机を感情の任せに両手でバンっ!と叩く。


「もちろんだ。そう思っていろいろ準備してきたんだ。これを見てくれ。」


社長から渡された書類に目を通すと、レーベルの継続や事務所はハレルプロダクション芸能事務所のまま活動許可など。


「あとは、小鳥遊 夢唯。君の覚悟だけだ。」


「はい!」


「来栖、これから忙しくなるぞ!」


「わかりました!誠意持って回ります!」


ハレル社長と来栖マネージャーにだけは頭上がらない気がする。


「卒業ライブは、国立競技場のファッションー後でどうかな?」


「はい!」


絶対ファッションショーを成功させる!


「お互い頑張ろう、小鳥遊さん。」


そんな心強い言葉をかけてくれる来栖さん、私はやっとマネージャーに恵まれたみたいだ。


「来栖さん、次の仕事の打ち合わせいきましょう!」


「そうだね、時間余裕あるけど早めに着いたら近くの喫茶店でお茶して待とう!ここのラテアートが人気みたいだよ!」


検索しておいた喫茶店のメニュー画像を表示させてスマホを小鳥遊さんに見せる。


「…かわいい、ラテアート。」


「ふふ、行きで行けなくても帰りに行こうか!それではハレン社長行って参ります!」


「はい!ハレン社長「小鳥遊。」


私もハレン社長に挨拶しようと思って、振り返ろうとしたらハレン社長に抱きしめられた。


「すまなかった。私の不甲斐ないばかりに…」


社長は本当にいい人、謙虚でいつも事務所帰ると気にかけて、声掛けてくれて、実の父親みたいな人なの。


「ハレン社長…私負けません!たとえソロになっても絶対、白いハネに夢を叶えてみせます!」


そうだ、ステージの上を大きく羽ばたくのだ!


「小鳥遊さん本当に強いな。僕と違って。」


僕と違って…か。来栖さんが私を見てたまに表情が暗くなったり、自虐的な事を言うのが少し気になる。私は来栖さんが思ってるほど強い人間じゃない、アイドルらしくない事、社長やシライアさんにも話してないこともたくさんある。

傷は隠して来て大分薄れたけどね。人にはいろいろあるのよね…きっと心の傷があるのは私だけじゃない。


「しっかりやって来なさい!夢唯!」


でもそんな傷さえも来栖さんや誰かが忘れさせるくらい、今度は私がその場に立つんだから。


私もたくさん勇気や助けられて、今こうしてソロアイドル宣言ができているのだ。


「はい。行ってきます、ハレン社長!」


私は来栖さんと国立競技場で行うファッションショーの打ち合わせに向かうために、事務所の扉を開けた。来栖さんの車で打ち合わせに向かい、2時間くらい打ち合わせした。


「打ち合わせお疲れ様!小鳥遊さん!」


来栖さんが教えてくれたラテアートのお店に連れてきてもらった!


「ありがとうございます!でも、来栖さんが予定調整してくれたおかげで今日はあまり疲れませんでした!」


一日の後半はもうしんどいのに、本当に今日は楽でびっくりした。


「はは!その体力は小鳥遊さんの培ってきたものだろうね!さ、仕事はもう終わりだし、力抜こう!小鳥遊さんどれ頼む?好きなの頼んで?」


私はハニーラテで猫ちゃんのアートにしてもらった。ちなみに来栖さんはチョコラテでワンチャンのラテアートだった。


「それ、ポメラニアンですか?」


「あ!うん!うちで飼ってるポメラニアンなんだ!」


「いいなー!もふもふそう〜!」


昔は泊まりがけロケとかあったし、家に帰るのも少数だったから動物なんて飼えないし。


「もしよかったら、今度の小鳥遊さんのオフと僕の休みが合えば、僕の家は栗崎駅なんだ公園のお散歩一緒に行く?」


栗崎駅といえば、星ヶ丘の逆方向だけど隣駅だ。


「はい、会ってみたいです!ワンチャンのお名前はなんというんですか?」


「クランと言うんだ!あ、そう言えば連絡先交換してなかったな。」


あんなに来栖さんしっかりしてたのに、抜けることあるんだ。今日はいろんなことあったもんな。


「ふふ、しといた方がいいですね!」


「そうだね!電話番号とメールアドレスと無料メッセージの方も教えとくね!」


「はい」


「不甲斐ないかもしれないけど。これからよろしくね、小鳥遊さん!」


私と来栖さんは連絡先を交換して美味しいラテアートを堪能して、星ヶ丘駅まで送ってくれた。


「本日はありがとうございました!」


「うん、気をつけて帰ってね!」


来栖さんは車を走らせるのを見て、私は駅のホームに向かった。


「今日は早く仕事が終わったな、まだ19時30分。」


あ、気になってたケーキ屋さんが空いている…たまにはいいかな。でも…明日ジム2倍こなせばいいかなと自分を甘やかすことにした。


「このクリームおいしい。」


翌朝2週間ぶりに制服の袖を通した気がする。この制服芸能学校であるからか、ブレザーのデザイン白を基調してて可愛いのよね。


「一日のオフも何ヶ月ぶりかしら。」


授業を受けながら窓を眺めた。来栖さんは仕事なのだろうか。クルリは今頃なんの魔法で人を喜ばせているのだろうか。私は皆より1時間分の補修を受けてから、外に出た。


「今からジム行って、新作のコスメ買いに行こう!」


藩さんの所へジムに行き、この前の2倍ちゃんとやったわ。ちょっと筋肉痛になりそう。気になっていたリンゴジャスミンの香りの香水やイエベ色のリップにファンデーション、美白になれるとSNSで話題の化粧水など買った。


鍵マークのアプリを開き、ログインIDを入力して改札のIDパネルにスマホをタッチすると、私にしか見えない通路と地下の階段を降りてレトロの電車に揺れる。


「はー!楽しかった!…そうだ、ファッションショーのデザインどうしようかな。」


国立競技場でやるファッションショーの打ち合わせでデザインを考えて欲しいと提案されたのよね。せっかくColoRuNeAとして最後のステージを最高な私という存在を咲かせるんだから。


「ホルメンを散策してたらいいアイデア浮かぶかもしれないわね。」


ーーーキィー!とブレーキがかかって電車が止まった。ホルメンと書かれたホームには何も無く下の矢印に沿って降り、雲を潜るとぼふん!と私服から小悪魔な姿に変身して、『ドレイン・フランダ。ログイン完了』表示されて地面に着地するとモヤが晴れる。


「今日は蒼炎鉱山か。」


青々と鉱石が輝いていて、ぽつんと雫が落ちるような洞窟。着地場所はプレイヤーが決められる。固定もできるし、私のようにランダムにもできる。


「サファイヤやアクアマリンの鉱石が巣窟出来るのよ!さらにレアアイテムも出るかもしれないし!」


まずはBランクのブラック・スネイクとソウ・ウルフを倒して、服の素材や小物の素材をゲットするわ。私は洞窟の先を進んだ。


ーーーガチャっとお店の裏口のドアを開けて中に入る。


「素材も鉱石も大量にゲットしたわー!」


ブラック・スネイクとソウウルフは皮膚を傷つけないように、魔法スキルのハイピノシャドウで眠らせて丁寧に解体して。ソウウルフの素材は冒険者ギルドに売り、ブラック・スネイクお肉は今日のお夕飯にするわ!


「それに蒼炎鉱山の最後部の宝箱でアメジストのリングをゲットしたわ!超素敵!」


アメジストが装飾されたシルバーリング、ここでゲットしたアクセサリーは現実でも付けられるのだ!


「さっそく右手中指につけちゃお!」


これに似合うリング今度買いに行きたいわね。


「そうだ、ファッションショーの衣装はアメジストカラーの衣装も良いわね。ColoRuNeAは白とかが多いし、きっとファンが新鮮だと私に釘付けよ!!」


ステージで甘いイタズラ、しちゃおうかしら!なんてね!


ーーーガチャっと裏口のドアが開く音がした。この店の合鍵を持っているのは1人しかいない。


「やぁ!ドレイン、元気にしてた?」


「!?クルリ、いらっしゃい!」


まさか今日クルリに会えるなんて思ってなかった。


「あれ?右手のリング可愛いね!それどうしたの?」


「蒼炎鉱山の最後部を攻略したら、宝箱に入ってたの!」


「おー!蒼炎鉱山か!さすがドレインは強いな!!」


「クルリだってSSS級エリアの権利あるじゃないの」


この時間が本当にたまらない、ゆったりとした雰囲気とクルリの元気な笑顔が私のLoveゲージ20%→60%に上げるほど大事な時間。


男の人は怖い存在だと、クルリに会うまでは思っていた。ホルメンだけは私がアイドルではなく、1人の女の子としての特別で禁断な魔法と時間がかけられているのだろう。


きっとクルリに出会わなければ、あの手紙がなければ私はアイドルを続けていたのかも分からないわ。


……To be continued

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