『泡のように、夜を生きる』

@k-shirakawa

第1話 廃れた街とバブルの残り香

 かつてこの街にも、夢があった。ネオンが夜を染め、札束が風に舞い、人々は未来を信じて疑わなかった。バブルという名の幻が、この地方都市にも確かに息づいていた。


 だが、泡は弾けるために生まれる。そして今、残されたのは、色褪せた看板と、誰も見上げない高層ビルの影だけ。それでもアタシは、この街で生きている。廃れた街の片隅で、バブルの残り香を吸いながら。


 ここは関東にある人口40万人ほどの地方都市だ。バブル時代は一坪500万円した街中の歓楽街の一等地にアタシが勤める店がある。70年代から80年代に掛けて、街の繁華街は週末になると多くの人で溢れた。しかし、90年代前半を過ぎると、バブル崩壊の波は一気にこの地方都市をも襲った。


 そして、夏のお盆休みの期間中に開催されたJCが主催した街の祭りでは、かつてのメイン通りの小規模店はシャッターが下りて、全国規模の百貨店も幕を下ろした。


 そんな中、ワールドビルという1989年に建てられた10階建てのビルがあり、そのビルは如何にもバブル時に建てたという造りで、そのビルの5階から10階まで借り切った、クラブ ファーストクラスという店がある。今は不景気の影響で5階から7階までしか借りていない。


 その店内は如何にもバブルっぽい造作をしていて、派手で何でも高級っぽい雰囲気を出そうと頑張った感じから抜け出せていない。ましてや時代が時代で古臭いので、そんな内装は、店に入っただけで何となく失笑してしまうほどだ。


 この店は1998年のオープンで、ビルの開業と同時に店もオープンし、あれから32年が経過していた。オープン当初はビル内に、大小合わせて10店舗あったが、このファーストクラスともう1軒だけ今は営業を続けている。


 かつて一世を風靡し、人で溢れたこのビルもどこか廃墟の雰囲気を漂わせている。7階から10階の窓際には貸店舗の看板が掲げてあるが、借りる人は誰もいない。


 つづく

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